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27、アイはネコ

ゼブラがすべてのドアや窓を閉じ、人払いするとキアンがようやくネコに問いかけた。


「まさか……アイ、か?」


「そうよ〜ひどい目にあったニャア。

なかなかお城に入れないし、剣持った人に追いかけられるし、お腹すいてへろへろニャア」


「わかった、ゼブラ。」


「はい承知いたしております。」


言う先から、ノックがして対応したゼブラが鶏肉を蒸した物を持ってきた。


「お前、いつ頼んだんだ?」


「はい、ネコを見つけたときの王子のお顔が輝いていらっしゃいましたので、きっとお連れになると思いまして。」


ニコニコ微笑む少年は、誰かに似ている。


「お前、最近どんどんリリスに似てきてるぞ。」


「は?リリス殿ですか?」


キアンがプイと皿を取り、アイネコに差し出した。


「これなら食えるだろう。お前、何でネコに化けたんだ?ヨーコは鳥だったのに。」


「ウニャ、ン〜なんか物足りにゃい。ハグハグ……」


食いついた物の味気ない鶏肉に多少ガッカリだ。

そう言えば、そこまで考えなかったと後悔した。


「だってさ、可愛いし〜殺される心配にゃいじゃにゃい。鳥は食べられニャったら恐いし。

はぐはぐ……ねえ、何か美味しいのニャいの?」


「美味しいのって言われてもな、こっちじゃネコはネズミ取って食うのが当たり前だ。」


ガーーーン!


「あ、あたしいニャよ!ネズミなんか食べニャいんだからね!」


プウッとキアンが吹き出し、ゼブラがクスクス笑う。

ネコはそれが仕事なんだと、言うのはやめておこう。


「で、リリスとヨーコは?」


食後に身体をぺろぺろなめながら、肝心の2人を見かけない事に気が付いた。


「あ、ああ、2人ともレナントへ行ったぞ、昨日な。」


「エエエエエ!!ガーンッ!」


すっかり脱力して、抜け駆けのヨーコを恨んだアイだった。





ガッカリしたものの、初めて来たキアンの城。

キアンには野良と間違えられないように、首にとりあえずキアンの紋章の刺繍が入ったハンカチを結んで貰い、城内探検を始めた。


廊下を歩いて中庭に。

人に会うと面倒なので、高いところを選んで歩く。

中は思ったより質素で、豪華な織物が到るところにあるベナレスの城の方が派手かもしれない。


開いてるドアから中を覗くと、ベナレスから送られてきたのかフカフカの絨毯が敷いてある。

ちょっと気持ちよさそうなので、失敬してゴロゴロ転がり、また探検に戻った。

やがて中庭を過ぎて奥を見ると、庭園が美しく花が沢山咲いている。

どこからか、ハープのようなフィーネの音色も聞こえてきて気分もゆったりと花を見つめた。


「綺麗にゃー」


おもわずつぶやいて見渡せば、どうもお姫様らしいドレス姿の少女が侍女と花を摘んでいるようだ。


「キアンの妹かニャ?」


近くで見たい気もするが、掴まって遊ばれるのもイヤだ。

あのキアンの妹だ、わがままに違いない。

それでもまあ、見つかったら逃げればいいやと下に降りて、ベンチに乗ったところでいきなり後ろから抱きかかえられた。


「ニャッ?!」


あら、イケメンじゃん


驚いて見上げると、顔立ちの整った青年が嬉しそうにアイを覗き込む。

彼は片手に綺麗なバラに似た、香りの良い花を一束持っていた。


「これは王子が連れて行かれたネコか。こんなに大きかったんだな。子猫だと思っていたのに。

おとなしい子だ、少し付き合ってくれないかい?レスラカーン様がお前のせいで少し落ち込まれているのだ。

ほんの少しお前の毛並みを撫でられただけで、きっとお心が癒やされるだろう。」


ふうん、ま、いいか付き合ってあげるわ


レスラカーンは確か、キアンの親戚の名前だったような気がする。

綺麗な名前だったので、どんな人だろうと思っていたのだ。まあ、キアンの親戚なら期待は出来ないが。


廊下を歩き、階段を上がってどんどんフィーネの音色が近づいてくる。

ベナレスでフィーネを奏でるリリスの姿が思い出されて懐かしい。

あれは本当に綺麗だったと、いつかリリスに会ったらおねだりしようと思っていたのだ。


やがて兵に守られた部屋に入って行くと、窓辺で長いすに座りフィーネを奏でる痩身の青年が顔を上げた。


「ライア?」


「はい、レスラカーン様。

花を摘んでいましたら、とても素敵な方と出会いましたのでお連れしましたよ。王子のお友達の方です。」


なぬ?素敵な方!そんなこと言われたのって初めてよ。


「足音が聞こえなかったが、どなたかな?」


にんまりするアイが、レスラカーンに目を移す。


ゲッ、これは〜また美少年。いや、美青年?


そこにはキアンの親戚とは思えない、美男子が微笑んでいた。

そう言えばキアンの親戚と言うことは、リリスの親戚でもあるのを忘れていた。

結局王様関係って奴らは、美女と結婚する確率が高いわけで、よくよく考えると平凡な容姿のキアンが鬼っ子なんだろう。


ライアがアイをそっと彼の膝に降ろす。

レスラカーンが優しくアイに触れ、嬉しそうに声を上げた。


「ネコだ!これは……先ほどキアナルーサに奪われてしまった子だね。

首に刺繍のあるハンカチが巻いてある。」


「はい、王子が巻かれたのでしょう。庭園をウロウロしていたので、捕まえてしまいました。」


「ああ、何と懐かしい。この柔らかで暖かい毛並み。どうかこの部屋にも遊びに来ておくれ。

そうだ、チーズがあっただろう?お客様は美味しい物でごちそうしないと。

ライア、あとでこの子の名を聞いてきてくれないかい?」


「はい、お付きのゼブラ殿に聞いて参りましょう。」


レスラカーンはアイの背を優しく撫でて、気持ちのいいところを心得ているのかアイもトロンと横になる。

彼は手で探ってネコを感じているようで、綺麗なブルーの目は視線が定まらず、本当に見えないんだとアイは同情しながらも、一層なついて一時を楽しんだ。


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