血の呪い
キアナルーサの部屋では、彼の身体を乗っ取ったランドレールが一人部屋で、焦ってテーブルに拳をぶつけた。
「おのれ、死に損ないの火の神官どもめ、巫子を取り逃がした!くっ……
あやつらも生き延びていたとは、何という不覚!
ジレ、……ジレ!!」
宙を見つめ、両手で顔を覆い醜悪な顔を更に歪ませる。
「どういう事だ!気配が無い!
おかしい。
これは………
ジレの、気配が消えた?!
おのれ……、何者かに封印されたか!
何という、ここまで来て!!
300年ぞ!!この好機、逃してなるものか!ここで我が願いが潰えることなど許さぬ!」
どうしたものか、道を探って部屋中を歩き回る。
ふと、剣に手をやると、じわりと何か力を感じて立ち止まり、ニイッと笑った。
「いや、ククク……落ち着け。ジレは消えたわけでは無い。
剣だ、この剣に宿る血の契約は生きている。
主たる若き貴族の命運はこの手にある。
あとは、力だ。奴からの力の供給は、時期に切れる。」
キアナルーサの顔が、醜悪に歪む。
それは、すでに300年前青の火の巫子を殺したランドレールの顔だ。
腹立たしそうに剣を取り、抜こうとするがどうしても抜けない。
鞘のままに剣を振りかざし、傍らのテーブルに振り下ろした。
バーーンッ!!
ガシャーーン!!
大きな音に驚いて、部屋の外から兵が駆け込む。
「王子!いかがなさいました!」
小さな丸テーブルは真っ二つに割れ、テーブル上にあった花瓶が割れて花と破片が散乱する。
駆けつけた小姓の少年は近寄れず、3人の兵も遠巻きに呆然と見つめる。
ゆらりと振り向いた王子の、見たことも無い異様な表情に、兵たちが思わずゾッとした。
スッと王子が剣を兵たちに向ける。
兵が、その剣に目を向けた。
王子の背後に黒い影が立ち上り、その手が剣を握る。
「 汝に問う 」
「 我が手、我が目、我が剣となるは、なんびとか 」
兵達が、顔を合わせて素っ頓狂な顔をする。
「王子……あの……」
「 チッ 」
王子が舌打ち、キアナルーサの身体に失望して首を振る。
「何という、凡庸な体よ!
巫子と血を分けながら、なんの力のかけらも無い!!」
憤慨しながら、割れた花瓶のかけらを拾い、兵に向けてツカツカと歩み寄る。
ギリギリと左手の平を傷つけ、兵の一人の顔をその手で覆った。
「な!何をなさいます!」
顔に血が付き、その血に呪いの文字が浮かぶ。
ガクンとその兵が白眼になり、もう一人を向いた時、もう一人の兵が慌てて逃げ出そうとドアの取っ手に手を伸ばした。
「何故逃げるのだ。」
「ひいぃ!!お許しを!お許しを!!」
もう一人の顔に手を回す。
その顔を覆った時、兵が小さな悲鳴を上げながら気を失ったように動かなくなった。
残った一人に目を向ける。
それは中でも若い男で、後ろに下がりながら剣に手が行く。
「なんと、汝は我に刃を向けるか?!」
王子が笑いながら傍らの兵の剣を抜く。
「無礼者!世継ぎに刃を向けた報いを受けよ!」
「わああああぁぁぁ!!」
若い兵が蒼白な顔で、剣を振り上げ王子に振り下ろす。
王子はその剣を横に払う。
キイィン!
そして、男の胸へとその剣を突き立てた。
ドスッ!
「がっ!」
剣には黒いもやが刃を伝って流れ、やがて若い兵ヘと流れ込む。
男はビクビクと身体を震わせ、剣が抜き去られるとゆらゆらとその場に崩れ落ちた。
「 もう一度、汝らに問う 」
「 我が手、我が目、我が剣となるは、なんびとか 」
3人の兵がビクンと顔を上げ、倒れた者は身を引きずるように立ち上がってゆらりと傾ぐ。
それは、下級の兵でしか無い。
だが、彼らはやがて片膝を付き、騎士のように胸に手を当て頭を下げた。
キアナルーサはランドレールに身体を乗っ取られてしまいました。
彼を救うのはいつの日か、
そしてランドレールが動き始めます。




