走って走って一息ついて
「はあ、はあ、はあっ!」
息を切らせて走る騎士2人に、息も切らさず走るホムラたちミスリル。
ホムラが先導して、分かれ道も難なく道を選ぶ。
それは来る時より単純な道のりで、行きは相当地龍に化かされたのだろうと思うほどだ。
とはいうものの、騎士2人は彼らについていくので必死だ。
ただ、今のところ黒い何かが追ってくる気配は無い。
「もうすぐ城の敷地を出ます。」
ガーラントの横で灰がひとかたまりになってゴウカになった。
見たことがある分かれ道に出て、ようやく歩き始める。
肩で息つく騎士2人は、剣も重く限界だ。
膝に手を置き、追ってこないかと不安げに振り返った。
「はあっ、はあっはあっ、あれが、出てきたらどうするんだ?」
ガーラントがゴウカに問うと、ゴウカがどことなくほっそりと小さくなったような気がする。
「あの悪霊が出てこぬように、人が容易に入らぬように通路を封じてきました。
我が身を少し置いていきますので、これで監視もできますし封の制御も可能です。」
なるほど、彼は何か封印することができる力を持っているらしい。
「しかし、少し小さくなられたような……大丈夫なのか?」
皆が振り向き、心配そうに見ている。
思いがけないことにゴウカが笑って、前垂れを上げ顔を見せた。
「ああ……小さくなりましたか?
大丈夫、実は少しずつ戻るのですよ、この程度でしたら10日もあれば。
私の技は身を削る物なので、これは魔物払いに失敗した時や機会を先に延ばす時の最後の手段です。
これまで使ったことは無かったのですが、お役に立てて良かった。」
「何とも便利な方よ。
で、リリス殿はいかがか?」
「大丈夫です。すいません、お手を煩わせてしまいました。」
ホムラの手から降りて、大きく息を吸う。
手を見ると、まだ少し震えが残っている。
「どうだ?お前さんの大丈夫は当てにならんからな。」
ガーラントとブルースがのぞき込んでくる。
そして、ブルースが腕を見せて笑い、頭を下げた。
「生きた心地がしなかった、こよりはやっぱり3本で正解だった。かたじけない。」
「それはようございました。使うことの無ければもっと良かったのですが……
私が先に行きたいと願ったばかりに、皆様を危険な目に……」
うるむリリスの声に、ブルースがバンと肩を叩く。
「何を言う!お前さんは何が目的だったんだ?
あそこに指輪があるとわかった。それでまるっと全部、オッケーだ。
なあ、ガーラント!」
「ああ、こいつにもちゃんと破魔のこよりを用意してくれた。それでいい。
友が助かった、礼を言う。」
ガーラントが胸に手を当て、頭を下げる。
ブルースがその姿に胸を打たれ、グスンと鼻をすすり一緒に頭を下げた。
「本当に、何ごとも無く…ようございました。」
リリスがやっと微笑んだ。
皆その表情にホッとする。
「とりあえず、指輪の場所はわかった。
だが、何かが取り憑いているようだな。指輪の力で悪い物が大きくなっているのだろう。」
ホムラが振り返り、少し肩を落としている。
あの様子を目の当たりにすると、指輪がひどく遠く感じられた。
「外に出て考えよう。
城の真下にあんな物があること自体ゆゆしき問題だ。
だが、今はそれを知らせることもできない。
城に再度上がることも考えねばなるまい。」
ガーラントがため息交じりに語る。
どうするか、ザレルに・・父に相談するべきかもしれない。
でも、あまり迷惑をかけたくない。
「つっ」
カラン!コロコロ…
エリンが短くなった松明に耐えかね、とうとう落とした。
「もう一本ありますから、そちらを……」
腰からそれを取って火を付けようとした時、一本角の犬が前に出る。
「あれ?この犬、地龍様の中にいた方ですよね?どうしたのでしょう?」
リリスが手を出し、頭を撫でると犬の身体がボンッと燃え上がった。
「わあっ!」 「うぉっ!」
「きゃっ!あ、ああ、ビックリしました。」
思わず引っ込めた手で、そうっと火に手をかざす。
「熱くないのですか?」
「あれ?熱くありません。エリン様、この子が灯りになってくれるようですよ。ね?」
「なる!の、れ!」
ぬうっと身体が一回り大きくなる。
そして、リリスにすり寄っていった。
「巫子殿に乗れって言ってるが、大丈夫かね?」
「ヒヒ、服が全部燃えたりして。」
「またそんなこと!」
茶化すブルースに、プウッとリリスがむくれる。
すると、ホムラが彼の身体をひょいと抱えて犬の背に乗せた。
「燃えて、ます?」
リリスがホムラとブルースをのぞき込む。
「いいや、残念極まるが燃えてないね。」
「残念は余計ですよ!じゃ、皆様参りましょう。犬さん、よろしく!」
「ハフハフ!」
リリスが犬の頭を撫でると、嬉しそうに顔を上げる。
そして一行は、出口を目指して進み始めた。




