251、アデル、応戦
アデルの身体が無数の槍に貫かれ、ニードが息をのんだ。
「あ、あ、アデ…アデルうううう!!!」
ブルブル震えて、ドスンと尻餅をつく。
アデルがその姿をじろりとみて、ヤレヤレとため息をついた。
ニードが鼻水と涙にまみれ、あたふたと這うようにして逃げ始める。
ずるりと口を貫く槍をずらし、アデルが彼に声をかけた。
「ニーード!まったく…不甲斐ない、ああ不甲斐ない。
はああああ…、これが地の魔導師の代表か。ヴァシュラム様に顔向けできぬ。
貴様を選んだルークの期待に、こたえようとか思わぬのか?!」
「怖い怖い怖い、怖い〜〜」
「もう!
石の中の、名も無き黒き妖精よ!汝、お前、貴様!我を誰と心得る!このクソ、思い知れ!」
アデルの身体がめきめきと音を立てて銀のウロコに覆われ、バンとウロコが逆立った。
槍はバリバリと折れ、そして次の瞬間、ジレの石から槍が生えてジレの身体を突き抜ける。
「 ひ 」
「貴様の石は、今だ地に属するもの、それを忘れたか?石を操るなど我には造作ない。
それがたとえ汚れていても、石は石、貴様は我の配下に変わりない!」
「く、くそ」
ジレが再度、影から黒い手を伸ばし、アデルの身体に触れようとする。
が、まるでそれは影のように手応えが無い。
アデルは顔もウロコに覆われ、金色のは虫類の目でジレを睨めつけた。
「クカカカ!!我は地の気を司る龍なり!下賤な闇のものが気易く触れるな!!」
アデルがウロコに覆われた手を伸ばし、長い爪をジレに向ける。
その手の赤い石にビシッとヒビが入り、ニードが驚いて叫んだ。
「駄目だ!!アデル駄目だ!!浄化させないと、割ったら地が汚れる!!」
ハッとアデルが我に返り、手を止める。
「あ、そうだった。僕うっかりしてたよ」
アデルが、ウロコに覆われた顔を人に戻し、てへっと舌を出す。
そして、再度ジレに向けた手をぐるりとひねった。
ジレの身体が奇妙に曲がり、ゴキゴキと嫌な音が響いて、ニードが耳を塞ぎ小さく悲鳴を上げる。
「ニード、ニーーード!!だいたいお前が悪い!
早くしろ、お前が腰抜けだから、僕がこんな姿をさらしたんだ!
えーい!
見よ、こいつは宿主を失うとまた別の人間の身体を奪って、人の血をすすり尽くすぞ。
それとも貴様、自分以外どうなっても知らないと申すか?!」
「だ、だって、怖いもん」
「怖いじゃ無い!!」
ニードは相変わらず、地面に小さくしゃがんで膝を抱えている。
このままアデルによってジレが退治できるのではと密かに願っていたニードは、顔を上げ赤い水晶を見て驚いた。
「うわっ!なんだよこれ!」
水晶は大きくいびつに膨らみ、今にもはじけそうに中のドロドロした赤黒い液体がうごめいて見える。
アデルの入れたヒビを広げ、今にも出てきそうだ。
水晶は、宿主の身体を失ったとき、最も手を付けられなくなるのだと、その瞬間悟った。
「あああああ!わかりました!くそう!当たって砕けろだ!」
ニードがジレの身体に飛びつき、膨らんだ水晶をジレの手から奪い取ると、自分の胸へ無理矢理押し込む。
ニードの胸は、まるで粘土細工のように柔らかく水晶を包み込み、その瞬間ジレの身体が崩れそうに震えた。
「…ああ…やっと……やっと……解放された………ありがとう……ござい……す………」
ジレの身体に利用されていた老人が涙を流し、そうつぶやいて砂となって崩れ落ちて消える。
「地に帰れ、迷い人よ。汝の汚れは黄泉の川で浄化されるだろう。」
アデルが目を伏せ、死者に向かって胸に手を当てた。
「ぐあああああ!!」
ビキビキと、体中を赤黒い筋が走り、水晶の侵食が始まった。
ニードがたまらず胸をかきむしり、苦しそうに叫び声を上げる。
その叫びはあの半地下室で水鏡をのぞき込むニード本人とシンクロし、ルークはとっさにニードの襟首を掴みガクガク揺さぶった。
「ニード!泥人形から離れろ!ニード!」
「ニード!何してるの?!早くはなれて!」
だが、意識を失ったのか、聞こえないのかだらりと身体が崩れ落ちる。
シャラナがニードの頬を何度も叩き、頭から水差しに残っていたちょっぴりの聖水を振りかけた。
「どうにゃったの?!どうにゃったのにゃーーー!!」
アイネコがルークの肩に飛び乗る。
白目の人間は怖い。
「駄目よ!戻らない!このままじゃ引き込まれる!」
シャラナがガッとアイネコを掴み、ニードの顔にかぶせた。
「ニャーーーーー!!!」
アイが驚いてニードの顔を思い切りひっかく。
だが、それでも戻らない。
「えーい!仕方ない、許せ!!」
ルークが拳を握りしめ、白目を剥くニードの襟首を掴んで思い切り頬を殴った。
地龍の最高位は地の神殿にいた長老のサラシャです。
アデルは彼女の子の一人、なので地龍でもかなり高位となります。
お父さんはいません。
つまりは彼女の分身、アデルはガラリアの為に生まれました。




