243、結界の抜け穴
アデルの話からの急展開に、頭が付いていかない。
「つまりだ。
剣の魔物と昔の王子の悪霊の合わせ技か。
しかも、取り憑いてるのは世継ぎの王子、何て!なんてやっかいな!」
ニードが頭をかきむしる。
「長よ〜、どうするんだ?いっそ、火の巫子自ら取りに行かれるように仕向けるかい?」
なんだか投げやりになってくる。
アデルが呆れて首を振った。
「それは無謀というものよ。
指輪の無い火の巫子は、お前たち魔導師が杖の無いのと同じ。
その上、眷族もいまだどこかに封じられている、普通なら魔導などろくに使えん役立たずだ。
リリスは、だから特別なのだ。
あれが今世に現れたのは、アトラーナに与えられた最後の機会。
眷族もない状況で、それでも他の精霊に力を借り、魔導を使いこなしている。
あの子は修行を人の数倍積んでいる。
だからこそ巫子として目覚めた今、フレアゴートもあの子を信頼して力を貸せるのだ。
身分の何の、巫子と認めるとか認めないとか言うているヒマはない。
馬鹿な人間どもの口を縫い付けてやりたい。
あれを失うことは、アトラーナの滅亡を意味するのだぞ。」
ぶふーっとアデルの口から溶岩でも流れ出そうな勢いだ。
サッと横からオパールが砂糖菓子を差し出すと、ひとつかみ口に入れてバリバリかみ砕く。
「で…では?あの一行をどうなされるので?」
「恐らく今は、指輪が何処にあるかを確認されたいのだろう。
無理はなさらんと思うが、ニードよ、お前の穴だらけの結界に入り込まれたネズミは何匹だ。」
「えっ!?」
グッとニードが一歩下がる。
秘密にしていたのに、なんでここで喋るかと焦る。
「どういうこと?!あなた結界だけが取り柄なんでしょ!
だいたい火の巫子が襲われた時も、どこから入られたのかと思っていたのよ!」
シャラナがルークより怒っている。
ルークがため息をついて、やっぱりとつぶやいた。
「やっぱりな、また結界突破されたのか。
見たぞ、ずいぶん気弱そうな金髪のきれいな子だ。」
「まっ!ルーク、あなた美少年好き?」
ヤレヤレと眉をひそめて首を振った時、ニードがぽつりと白状した。
「あのあと入り込まれたのは2人……かな。」
2人と聞いて、さすがにルークが愕然とする。
「2人?もう合わせると3人じゃないか?!!もう一人は?誰だ?!
だから抜け道を教えろと言っただろう!
それを知ることが防御になるんだ!これは懲罰ものだぞ!」
きゅうっとニードが小さくなる。
大口叩いてきたのに、一気に信頼を壊してしまった。
「えー……と、水霊の紡いだ衣……あれ身につけると水と誤認するらしくて、どうしてもすり抜けられるんだ。
そんな物、滅多に持ってる奴いないと思ったんだよ。……ごめん」
水霊の紡いだ衣とは、文字通り神気の高い水霊が、紡ぐ衣だ。
これを一片でも持つと、水の中でも息が出来るし、水脈を通って移動も出来るというものだ。
ただし、普通の人間が多用すると命を削られると言われている。
「あなたね、ここを何処だと思ってるの?本城よ?王家の総本山よ?
持ってないもの探す方が難しいとか思わないわけ?バッカじゃ無い?
水霊の布っ切れなんて、私の師匠だって持ってるわよ!」
いつも楚々としているシャラナがブチ切れている。
自分たち以外に塔に属さない魔導師が入り込んでいるなど、魔導師の塔の沽券に関わる。
自分たちもこの塔に携わると決まった時から、城の要と決意してきたのだ。
「だいたいあなた、油断だらけよ!
冗談じゃ無いわ、私たちの立ち位置が何なのかもう一度頭剃って考え直しなさい!どれだけ覚悟してきたか、見せてご覧なさいよ!」
ダン!ダン!
杖が折れそうなほど床を突いてニードをにらみ付ける。
ニードは縮こまって、思わず頭を庇った。
「すいません!すいません!これからがんばらせて頂きます!」
魔導師たちが大きなため息をついて、次を考え腕を組む。
魔導師にとって後悔する時はあとが無い。
魔導を使う時、失敗した結果、命が無いか生きてるかの違いだ。
今は生きている、誰も死んでいない。
人の形で考えることも出来る、ならば道を開く手を考える。
「やることはわかったわ、それをどうするかね。
彼らとは協力した方が良くない?」
「その前に侵入を許した二人の魔導師だ。
彼らの動向はどうか?」
「一人は魔導を使う気配が無い。王子の部屋周辺でじっとしている。
もう一人は時々結界に干渉するから何らかの魔導を使ってる。
こいつが今、とてもやっかいなんだ。」
「王子の部屋が覗ければいいが、制約で王族の部屋は見ることが出来ない。
もう一人に今まで気がつかなかったのは、恐らく王子の部屋を出ることが無かったからだ。」
「そこであたしの出番じゃにゃい?」
皆が振り向くと、闇の中からひょっこりと猫が現れた。
「は?ネコ?」
「なんでネコが喋るわけ?」
シッポをピンと立てて、ぴょんとテーブルに飛び乗った。
ルークがため息ついて、ネコを紹介する。
「王子の旅の同行人、向こうの世界の住人だ。
ヴァシュラム様の気まぐれでこっちに来てる。
先日契約して、王子の周辺を探ってもらっているんだ。」
アイネコがつんと鼻を立てて、シッポをパタンパタンと左右に振った。
「あたし、アイって言うにょ、よろしくニャ。」
ふうんとニードとシャラナが怪訝な目で見る。
あれ?思ったのと違う反応。どうも、信用に欠ける感じ、ちょっと焦る。
だいたい魔導師って引きこもりバッカじゃん?
ちっとも見ないんだもん。
えーと、あれ?なんでここに来たんだっけ?
あっ
すると、急にネコがシッポをボンと膨らませ、思い出したようにルークに叫んだ。
「そうにゃ!こんにゃ事してる場合じゃニャいにゃ!
知らせに来たにゃ!
あいつキアンじゃにゃいニャ!魔法使いの爺さんと、なんか企んでるニャ!」
残念、それは情報屋としては、遅い報告だった。
やっとアイ猫が出てきました。
ちょい役ですがw
そして情報屋なのに、情報が遅いw
 




