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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
19、ヴァシュラムとガラリア

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212、愛し方の答え

一度水に戻って、また人の形を取ったシールーンがブルリと波紋を広げる。

それは、まるでため息のようだった。


「まこと、ガラリアとなるとお前らしゅうない、もっとよく考えよ。

我ら精霊、皆ガラリアを好いておる、あれはすでに、人間よりわれら精霊に近い者。

皆、お前たちの行く末を見守っておるのだ。


よくよく考え行動せよ、大地の精霊王よ。


ガラリアを思うならガラリアの望みを叶えよ、そしてもっと、愛すればこそ相手を尊重して大切にせよ。

共に支え合い、語り合ってこその良き伴侶。

さればお前の思いにもガラリアはきっと応えようぞ。


ガラリアにとって最も安らげるはずの場所で、手を合わせ慈悲を請わせるようなことをさせるな。

悲しさのあまり、お前の聖域を潰したくなる。

セフィーリアも、お前たちのこと案じておるぞ。」


シールーンの話が終わると、パシャンと水が形を失い、また元のようにちょろちょろ水の流れる音が静かに響いた。

少年の姿のヴァシュラムが大きくため息をつき、またプイと歩き出す。

手の中の林檎をじっと見て、視線を落とした。


「大切にだと?ふん。

わしを誰だと思うておる…ちゃんと死ぬことの無いよう大切に見守っておるではないか。


わかっている、今回やり過ぎた。

まさか、あれほどガラリアの身体が弱っていたとはしらなんだ。

しばしの足止めくらいにしか思ってなかったのだ………」


でも、死ぬ前にちゃんと助けたじゃないか。

だいたい死んでも、再生すればすぐに………


“死ななければ………それでいいのか?”


何か心に引っかかっていたことが声を上げた。


「ふふ……馬鹿な。いいや大丈夫だ、それだけではない。

わしはあれを大切に、だからずっと一番巫子に据えてきたではないか。

常に人間どもに、かしずかれるように。

人間は、地位を上げれば、金をやれば若さを与えれば一番喜ぶ。

喜ぶはずだ。」




でも、あれは………それでも、昔のように笑わぬのだ。


………昔のように、歌わぬのだ。


あの、可憐な妖精のように、軽やかに明るく振る舞わぬのだ。


ああ………わしに、このわしに、これ以上どうせよという。




ヴァシュラムの頭に、ガラリアの姿が浮かぶ。

幸せそうな子供の頃の姿が鮮烈に。


盗賊から救い出してやったあれは、すっかりやつれて汚く(きたなく)汚れ(よごれ)、死んだような瞳で輝きもなく、色あせていて酷く気落ちしたのを覚えている。


が、わしは、それでもやっと手に入れることが出来たあれを、とりあえずは愛でてやることにした。

致し方ない、わしにも責がある。


巫子に据えて身分を与え、美しい衣服を与え、食べ物や金に困らせたことも無い。

精霊体に少しずつなじませ、死にかけたら再生し、若返らせ、たとえ死んでも黄泉から連れ戻せるようフレアと契約も交わした。

最悪の場合、身体は腕一本でも残っていれば再生できる。


……そうだ、あれは何だろう……

力の暴走で、あれの半身が消えたときは、少しスッとした。

あれの身体が、きれいになったような気がした。

あれはひどく恐れていたが、わしは喜んで美しく身体を再生させた。


……そうだ、………そうだ!


見よ、ガラリアは安泰ではないか。

あれもそれに十分満足していたはずだ。

これ以上、どう大切にと………


心でつぶやいて、ハッと目を見開く。



『お主の腹に囲うことと、盗賊の奴隷になっていたことの、どこに違いがあるという!』



ち……違う、そうじゃない、それは、

そうだ………間違ってなどいない。

いや、何か違うと?喜びを分かち合うとは何だ?

支え合う?ガラリアが、ただの人間が、わしの何を支えるというのだ?


いや、違う。


与えるだけでは駄目だと、そういうのか?

わしは、何か愛し方を間違っているのか?

この精霊王が?!


間違ってなどいない。


いいや、間違っていると?


一体………何を、だ?



立ち止まり、前髪を掴む。

目を見開き、自問自答を繰り返す。

少しずつ、何か間違っているような気が、ふつりと湧き上がった。



おかしい、どこかおかしい、何処で間違った?


愛していると、共にありたいと言いながら………


笑う顔が見たいと言いながら、悲しませても、苦しませても、死ななければ良いと思っていた。

生き延びたい間は、わしに頼るしかないあれを、わしはどう扱ってきた?


まさか…………


わしは、ただ一方的に支配していただけなのか?

愛し合ってなどいない………わしは怖れられているだけで愛されていないというのか?


そう言えば、あれの身体をこの手で抱きしめたのは、いつの事だったろう。


なぜ、あれほど愛したあれを、汚れたと、色あせたと、そう思うのか………


あれを、ガラリアを弄んでいたのは自分ではないのか………?


「助けて」と、自分では無い誰かへ向けてあれに言わせてしまった自分は……


一瞬でも、黄泉に落とそうとしたのは………



ああ、ああ………私は……これほど……苦しいほどに、ガラリアを愛しながら………



一体、何をしているのだ?



ぽとりとかじりかけの林檎を落とし、その場に立ちすくむ。

目を見開き、震える両手で頭をおおい、よろめきながら木に倒れかかった。

ズルズルと、木にもたれてその場に座り込む。

森が、しんと静まりかえった。


「 ………おおおおぉぉぉぉぉ…………  」


慟哭と、同時にその両手から、蕩々と水がこぼれ始める。


その姿が徐々に木に溶け込み、透き通って行く。

やがて彼の姿は木の中へと消え、あとには食料を入れた麻袋が地に倒れ、中から林檎が1個、コロコロ転がり出てきた。




麻袋から出て、林檎が1個転がって行く。

それを小さな手が拾い、その手に空から降ってきた水滴がぽつりと落ちた。


手の主は、ポツポツ雨が降り出した空を見上げ、袋を拾って重そうに背負う。

雨は、何故かその小さな身体を濡らすこと無く、表面でシュンシュンと蒸発するように消える。

拾った林檎をキュッと洋服でふいて、怪訝な表情をすると、頬まで裂けて大きく口を開けて放り込んだ。

そして一口で芯まで、ばりばりかじって食べてしまった。


「ふん、やはり人間の食い物は口に合わん」


不服そうにつぶやき、つややかな黒髪をかき上げて顔を上げる。

服装も、そしてその顔も声も、先ほどの少年そのものだ。


「うーむ、久しぶりの人間の形に身体がどうも馴染まぬ。」


ブルブルッと動物のように身体を震わせると、頭からにゅっと一本角が生えた。


「おっと、いかん、気をつけねば。」


慌ててそれを手で押し込む。

そして先ほど同じ姿の少年が消えた木をいちべつして、プイと顔をそらした。


「やれ、2本足は面倒くさいのう……」


雨の中、雨具も使わず濡れない不思議な少年は、ブツブツ文句をつぶやきながら、主の魔導師が待つ小屋へとゆっくり歩き出した。

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