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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
19、ヴァシュラムとガラリア

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211、シールーンの叱責

その言葉に、少年の顔が歪んだ。


「子供など、必要ない!これほど慈しんでいるではないか!

何が不足だという!」


「今のガラリアには子供が必要なのだと何度言わせる!


元々お前が守れなかったから、こうなったのだ!

あのような傍若無人の盗賊どもなど、お前なら一息に滅ぼせたものを!」


シールーンの責める言葉に、彼女がずっと怒りを心に秘めながらも、今まで決して口にしなかったその言葉に、

黒髪の少年の顔が、驚愕と後悔と、絶望の入り乱れた顔で大きく目を見開いた。


一番聞きたくない言葉だった。

ガラリアを幼少の時からずっと見守っていた自分の、最大の過ちをまざまざと思い出す。



あれほど見守り、慈しんでいたのに、何故あの一時を離れたのか。

何故、自分の一部でも置いていかなかったのか。


まさか、人間の男どもが、いくら宝石のようだとしても、年端もいかない少年を性で弄ぼうなど………

村を焼き、村人、家族両親すべてが首を落とされ殺されるなど、そんな凄惨な目に遭おうなどと………



精霊である自分には、人間がそこまで残酷になれるなど、考えも…しなかったのだ…………



「いいや……いいや、必要無い。あれはもうわしの腹の中、出すつもりもない。」


「なんと!ガラリアを出さぬつもりか!

人から自由を奪うことほど残酷なことはないのだぞ。


ガラリアを封じ込め、その上、子をどうするつもりだ。

あの二人は物では無い。

生み出した命を軽んじるのは我らの掟にも反する。


元々あの子を作ったのはお前であろう!

人で言うならお前は親、何故同じように愛さぬ。」


しつこく食い下がるシールーンに、少年の姿のヴァシュラムも引き下がらない。

苦々しい顔でシールーンを見据え、怒りに震える手を握りしめた。


「お前に……なにがわかる。


わしは、ずっと見守っていたのだ。

あの美しく小鳥のような歌声を持つ少年を。


それが……ほんの半年だ、あの半年が……悔やまれてならぬ。

なぜわしはあれの元に半身を置いていかなかったのか……

わしは盗賊どもから守ってやれなかった、これほどの力を持ちながら。


あれは助けたわしに礼を言うたが、わしは己が許せぬ。

悲しく沈み、歌を忘れた小鳥を見るに忍びなかった。


わしは、子を作ればあれも元気が出るだろうと、軽い気持ちで子を紡ぎ出した。

家族が出来たとあれの喜ぶ姿は至福であったとも、だが、それもほんの一時だ。


たった、……ほんの一時だ!


わしは、わしは、またあれに慈しむ者を奪われる、同じ苦しみを与えたのだ!


なんという不覚!


わしは、だからあの子の存在が許せぬ。

あれの心をここまで乱す、あの子の存在が許せぬ。


……だが、あの子のおかげであれはこれまで生きてくれた。


もう十分だ、もう勤めは終わった。

おらぬのが悲しいというなら、記憶など消してやろう。

あれは地の精霊王の腹の中にいるのだ、出来ぬ事など無い。


これからは、わしと共に生きる、それで良い。」


慈しむように腹をなで、少年から可憐さが消えて、傲慢な醜い笑いが漏れる。


しかし、これが本来のヴァシュラムだったと、シールーンは思い出した。

この傲慢さを制し、上手く彼の力をコントロールしていたのはガラリアなのだ。


彼は小さな村でも貴族の出身なので、相手の心を掴んだ人使いに非常に長けていた。

傍から見ても、彼は最高の伴侶だと言える。


彼が巫子となってから、地は静まり人間も他の精霊も振り回されることが無くなった。

作物は安定して豊穣の年が続き、人間達は飢えることもなくなり生活が豊かになり、目障りな大きな盗賊団も山から消えた。

だからこそ、この小さな国も安定して地の神殿もあれほど栄えたのだという事がまるでわかっていない。


手綱役がヴァシュラムに飲み込まれ消えてしまうなど、今後を思えばゾッとする。

精霊達も、この穏やかな世となってホッとしていたのだ。


「愚かな精霊よ、ヴァシュラム。


この大地を統べる王が、何故お前なのか……


もうすぐ雨が降る、それで頭を冷やすが良かろう。

そして雨上がりの水鏡に己の顔を映して見よ。


今のそなたは、ガラリアが永遠を共にしたいと思うような者では無いわ。

正気を取り戻すが良い。」


「わしは正気じゃ、気うつの元を消して何が悪い。

愛する者を腹に囲って何が悪い。

セフィーリアとて、人間を伴侶としておるではないか。」


「セフィーリアはザレルの意思を尊重しておる。


元々人間と精霊は、互いの世界に干渉しないことが暗黙の掟。

だからこそ、それを越えて互いに愛することには互いの努力を必要とすると言うに、お前の態度には閉口する。


まさかお前の聖域から、あの、ガラリアの救いを求める声を聞くとは思わなんだ。

なんと言うこと、あれにとって本来もっとも安全で、もっとも心安まらねばならぬ場所で!


お前がガラリアにしたこと、思い返すが良い。

お前のねじれた愛情に、どれだけ振り回されておるか。


それに、一番巫子が今消えるのは懸命ではない。

だいたいガラリアを人間に最も頼られる一番巫子に据えたのはお前ではないか。

あれはそれに十分応え、努力してきた。

美しさだけでは無い、お前にとって唯一無二の賢き良き伴侶よ。

この世に絶対存在せねばならぬ!」


「うるさい奴よ、わしの腹におる、それで良いではないか。

もう消えよ!」


「わかっておらぬ、ガラリアの歌を聴きたい、笑い声を聞きたいと申したのはお前ではないか!

お主の腹に囲うことと、盗賊どもの奴隷になっていたことの、どこに違いがあるという!


ふざけるでない!」


「ぶ、無礼な物言いを……

死なぬよう大切に保護する事の何が悪い!

何がねじれているか、わしは真っ直ぐあれに愛情を注いでいるではないか!」


「真っ直ぐだと?くだらぬ、お前の愛情は安っぽい物だ。

お前の愛情がどれだけ片寄ったものか、わかっておらぬ。


ガラリアはお前の力無くして生き延びることも出来ぬのだぞ。

それを良いことにそれを利用し、追い込み絶望させ相手に慈悲をと願わせるなど、精霊と思えぬ下劣な行為じゃ。

共に喜びを分かち合う事こそ良き伴侶という物、愛する者を手の上で転がして遊ぶようなお前の愛し方は間違っている。」


グッとヴァシュラムが言葉を詰まらせ、赤い顔で唇を噛む。

シールーンは自分の身を作るぬるくなった水に言い過ぎたかと、頭を冷やすために一度水に返り、また人の姿を形取った。

地の精霊王であるヴァシュラムを叱責出来るのは、恐らく他の精霊王か、伴侶であるガラリア自身でしょう。

それでも、ガラリアは自分のことは、ひたすらに耐え忍んで口を開きません。

それを他の精霊王は見ているので、口を出します。

地と水はもっともつながりのある間柄、シールーンはヴァシュラムを叱ることの多い、良い友人です。

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