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198、絡みつく黒い闇

「まあ、それは置いといて。

ああ言う物が城内にあることも不思議だが、魔導師の塔や王の口伝にさえ残さなかったことを、あのミスリルの女はどこから仕入れたのか……大いに気になると思わないかい?」


ニードが、指を立ててくいくい動かす。

ルークがため息ついて葡萄酒の果汁割りを一口飲んだ。


「ミスリルの内部は、わからない事が多い。

誰かに仕えたミスリルが書き残したか、いまだ生きている者がいるのか。」


「そいつ、何百年生きてんの?

足が根っこになってんじゃね?」


ニードがプッと吹き出した。

忘れ去られ、誰も知らないほど昔に閉じられた物だ。

地の精霊か地の魔導師か、それとも精霊王自らなのか、魔術刻印を入れて,完全に封をしたあの通路。

奥から出てくるモノは一体何なのか。


そこまでして、隠したい物はなんだ?


まるで……誰もが、その存在さえをも忘れようとしたように。



「その突き当たりの壁ってのに行ってみたいが、これからどうだ?

封印解いてみたいと思わないか?」


「冗談じゃ無い、相手は悪霊かも知れないんだ、こんな夜中に行くなんて僕はイヤだね。

真っ暗で細い通路がずっと続く、嫌な場所なんだぜ?

おお怖い、僕は幽霊が大嫌いなんだ。

昔、皆殺しの村に興味半分で行って、思い出すのもおぞましいほどひどい目に合ったんだ。

君は首無し幽霊に追いかけられたことあるかい?

あんな目に遭ったことないから言えるのさ。」


「それはお前が悪い。だが・・・ね。」


立ち上がったルークに、ニードが驚いて彼を見上げる。

しかしルークは考えるように視線を泳がせ、何か予見しているのか指でトントン机を叩く。


「何が起きる予定なんだい?」


ニードが興味深そうに肘をついて手に顎を乗せる。

ルークはフッと息を吐き、またニードの前に座った。


「王子だ。絡みつく黒い闇しか見えなかったが、何か起きそうだ。」


「随分君にしては大雑把だ。王には伝えたのかい?」


「伝えたが、あの騒ぎのあとだ。

王子には誤解があるだろうが、時間が解決するだろうとしか仰らなかった。」


「悠長なことだ、君たち予見の見る闇は、ろくでもない物ばかりなのにさ。

まあ、あの先日来た魔導師の子は随分しっかりした子だったから、世継ぎの王子が不安になるのはわからなくはないね。

あの子の気はまぶしくて、顔も見えないほど輝いてる。

果たしてどちらが長子か知らないけど。

だいたいさ、あの王子は王道教育受けたわりに身にまとう気の力が平凡で、王のような大きさが無い。

王家でもあれほど平凡な子は珍しいよ。

レナントのガルシアやベスレムのラクリスは、気も輝いて見える。まさに王家だ。」


「確かに……王家の威信を保つのも大変だね、生まれが良すぎるというのも……」


「それだけに、あの王子は気の弱さを闇に付け入られやすい。長殿はそれが心配なんだろう?」


「ふふ、私はそれが仕事だよ。この国の安定のために魔導師の塔はあるんだ。今のところ仮設だけどね。」


フッと笑ってニードから杯を取り、自分も酒を少し注いで一口含む。

予見で出るのはろくでもない物ばかりか……最近はまったくその通りだ。


王やその周囲は、リリスの出生を隠匿しようと躍起になって、そればかりに気を取られている。

王子には会いに行ったが、気分が悪いと断られた。

側近は王子に変わりは無いという。

モヤモヤして、腹立たしい。

隣国で問題の魔導師は国を去ったらしいとレナントの魔導師から連絡は来たが、それが果たしてどこに行ったのか……ここに忍び込まれる……その最悪の事態も考えねばなるまい。


ルークは痛い頭を押さえて杯を置き、杖の水晶を磨くニードに少々の期待を込めて問いを投げかけた。


「お前の結界は、城内に未知の魔導師が入り込んだ時はわかるのか?」


「やだなあ、力の強い魔導師はもちろん僕の許可が無いと入れないよ。

ほら、姫の婚約相手のリトスからの使者、お抱え魔導師連れてきたじゃないか。ちゃんと最初は通さなかっただろ?」


ルークが、フッと安堵の息を吐く。

だが、ニードはポリポリと鼻の頭をかきながら続けた。


「ただ、僕の結界だって隙はある。まあ、それは仕方ないんだと思うんだ。完璧なんてあり得ないし。」


「それはなんだ。」


「さあ……ま、その内教えてあげるよ。」


「今教えろ。」


じいっと二人にらみ合う。

しかしニードは、突然立ち上がったと思うと杖でコンと床を叩き、どこで覚えたのかこの世界の者が見たことも無い敬礼をした。


「長殿、おやすみなさいませ」


そう言うとまるで穴に落ちるように、床を突き抜けストンと下へ消えた。

この部屋の真下は彼の部屋だ。

壁抜けの術が使える彼が、勝手に入ってこないように下に部屋を作ったのだが失敗した。

逃げ足が速すぎる。


ルークは大きなため息をつき、少し考えると杖を手にして部屋を出ていった。


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