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195、地の王の執着

「・・・ーーラ、・・・ーーラ!」


どこかの庭の花が咲き乱れる中、その美しい人の姿を見つけて、思い切り脅かすように飛びつく。

その人はビックリして、花よりも美しく咲いたように笑い、華奢な腕を大きく広げて自分を抱き上げた。

女のように柔らかで豊かな胸も無いけれど、痩せてゴツゴツしてるけど、その美しい人は世界中で一番自分を大切に思ってくれる、そんな安心感に満ちている。


「いい子だね、・・・・・・ーン。さあ、お部屋に戻ろう」


「・・・ーラ、ねえ、甘いお水が飲みたい!」


「あはは!・・・・・・ーンは・・・・・・が好きなんだ・・・・・・さあ・・・へ行こうか・・・」


声が、遠く消えて行く。


待って!

僕はここだよ!

置いていかないで!・・・ーラ!


行かないで!行かないで!・・・ーラ!・・・ーーラ!・・ガーーラ!!



「リューズ様、リューズ様」


少年の声が耳元にささやき、肩を軽く揺り動かされた。

目を開けると森の中。

遠くには鳥の声も聞こえる。


自分は……一体どうしたのか……


頭がぼんやりして記憶が無い。

自分の手を見ると、見たことも無い白い手。

サラリと顔にかかる髪は、木漏れ日を受けて輝く金髪だ。


「リューズ様、お水をどうぞ。」


横にはべる黒い髪、黒い瞳の10歳前後の少年が、大きな葉っぱに汲んできた水を差し出す。

リューズはその葉を受け取り、水を覗き込んだ。


「この姿……」


水鏡に映し出された自分の顔。

整った白い顔に金の髪と緑の瞳。

年の頃は15,6か、リリスとあまり変わらない年頃に見える。

遠くから、もやの向こうから声が聞こえてきた。


『……シエー……ル……』


優しい声が、サラサラした金の髪が、自分と同じ緑の瞳が、近づいて、頭を撫でようと、手を差し出し…………



『お前を消し去る!』



突然、うりふたつのセレスの顔が浮かんでビクッと身体が震えた。

水がバシャンと波打ち、少年がその手に手を添えた。


「リューズ様、水がこぼれてしまいます。」


「お…前は?」


「あなたの下僕の生き残りでございます。

他は杖を失い皆消え去りました。

私はほら、あなたが水晶を核に作り出した物。」


そう言って黒髪の少年が黒い服を緩めて胸を見せると、確かに自分が杖の先に使っていた水晶がその胸にある。

だが、作ったかどうか記憶が定かでは無い。


「私がお前を作ったのか?」


「はい、つつがなく。我が下僕にと。」


「名は……なんと付けた?」


「まだ、でございます。」


「そうか……では、……ガーラと。」



「……ガーラ?・・・・・・だと?」



黒髪の少年が、急に声を落とし眉をひそめた。

主の顔に向けて手を伸ばし、大きくため息をつく。


「不粋者が」


「え?」


言い捨てた瞬間、その手から閃光がはじけてリューズが弾かれるように倒れる。

それを冷え冷えとした視線で見下ろし、少年は気を失ったリューズの髪を掴んで顔を引き上げた。


「ガーラだと?まったく不粋な奴よ。

まだろくに自分を取り戻せぬお前が、その言葉を口にするのは早い。許さぬ。

ガラリアは・・・あれは、大切なわが伴侶である。

我が伴侶は神と並ぶ者、お前などあれの気を引く道具に過ぎぬ。」


ささやきかけて髪から手を離し、うち捨てる。

そして立ち上がり、森の木立の隙間から日の高さを見るとため息をついた。


「そろそろ頃合いだが、ルークどもが張った結界が厄介よの。

ニードは達者な術師よ、気をつけねばわしが忍び込んだことなど容易に知られよう。

さて、気がつかれず入るには、これの意識が無い内に行くが良いものか。」


チラリとリューズに視線を移す。

そしてそのかたわらに腰を下ろし、そのまま覆い被さり愛おしむように身体を抱きしめ頭を撫でた。


「ああ・・・お前がいてくれて良かった。

お前が消えたあとのガラリアの悲しむさまには、お前の存在を疎ましくも思ったが、それが思わぬ結果を得た。

なんと孝行者よ、リュシエール。

あれはお前を殺すまで生きると言うた。

儚い人間の命に嘆いていた、わしのこの喜びがわかるか?

お前さえこうしていれば、ガラリアは死ぬこともなく永劫を共にしてくれよう。

わかるか、この喜びが。

あれは確かに、生きることを望むのだ、お前の為にと、老いも許さず美しいままに!

おおお・・・なんと素晴らしい!わしはあれの為ならどんな事でも苦では無い。

たとえ万を殺しても、あれ一つが生きておればそれで良い。

おお、我が子リュシエールよ、なんと良い子よ。

今すぐにも休みたかろう、だがもう一働きじゃ。それが済んだらまた眠るがいい。」


クスクス笑って少年はリューズの身体を抱きしめる。

そして2人はそのまま、地面に吸い込まれるように消えていった。

我が子と言いますが、やはり我が子ではないのです。

ヴァシュラムは、ガラリアの子もガラリア以外でしかありません。

この精霊王を救う方法はあるのでしょうか・・・

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