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194、りりしいお顔

不気味な仮面の青年エリンがリリスたちに一礼する。

彼はすっぽりと仮面で顔を覆っているので、視線がどこを向いているのかわからない。


「返事のお手紙を頂いて参りました。

レナントは魔物の襲撃も止み、落ちついた状態ですので心配せぬようにと……」


「そ、そうか。で、どのような状況か?

ん?……リリス殿?」


リリスがニッコリ笑ってブルースの前に出て手を伸ばし、彼の仮面を両手でずらす。


「ここはあなたの家、仮面ははずしてお楽になさって下さい。

私は仮面よりもあなたの無事なお顔が見とうございます。」


「え?しかし……」


エリンが戸惑いながら仮面を押さえ、チラリと戸惑っている騎士2人を見る。

ふと手を止めたが、思い切って後ろの紐を解いた。

仮面の下から獣のような鋭い目が覗き、ゆっくりと仮面がはずされる。

顔面に金色の毛がうっすらと生え、口はネコのように上唇が割れている。

初めて見たその顔に、微妙に眉を動かすブルースとガルシアから目をそらし、やはりと困ったようにうつむく彼にリリスが笑って言った。


「なんてりりしいお顔でしょう!

私のお母様のセフィーリア様は、私に赤い髪と色違いの目を隠す必要はないと常々仰っておりました。

私もあなたのお顔を見るとそう思います。

一緒に勇気を出して嫌われましょう、きっと皆さんお慣れになります。」


「しかし……」


「ね?エリン様。

ガルシア様は『そんな仮面など鬱陶しい、取ってしまえ!』って仰いませんでした?」


エリンが目を丸くする。

「どうしておわかりになるのですか?」


「だって、あの方ならそう仰いましょう。それで、どう言われました?」


「……………あの…………いい、顔……だと。」


「やっぱり!そう仰ると思いました!だって、あの方はそういう御方ですもの!」


声を上げて、リリスが笑いだす。

ブルースも、ガーラントも驚いてリリスを見ている。

知らず自分たちも作っていた、生まれついた容姿の違いという垣根を、リリスは笑い飛ばしてしまった。

明るく朗らかな笑い声が、地下の村に響いて村人が部屋から顔を出す。

エリンが頭をかいて、仮面を片手にそれを見つめる。

リリスが笑うのを止めて彼のもう片方の手を握り、戸惑う顔を真っ直ぐ見上げた。


「人というのは、声だけで会話するのではありません。

表情を見て、その心の内を探る姑息な生き物、ですがそうして心を開き会うことで本当の仲間が出来るのです。

私は頭から布をかぶせられて、心からそう思いました。

私はエリン様と友達になりたい、だから、どうかお顔を見せて下さいませ。

助けていただいて、本当に助かりました。ありがとうございます。」


エリンが驚いてリリスの顔を見る。

ミスリルが主とされる人間の命令に従うのは当たり前のことであり、それに礼を言われるなど思ってもいなかったからだ。

まして自分の顔を初めて見た反応は、ブルースたちのように顔を背けるのはいい方で、それ以上の、命さえ危険を感じる激烈な反応を示されるのが常だった。

レスラカーンは目が見えないからこそ、自分にも良くしてくれたと思う。


人間は慣れるのだろうか、いや、この方は特別だ。

あの大らかなガルシアでさえ、特別な方だと。


エリンが息を吐いてフフッと笑い、それでもいいと思う。

この赤い髪の少年は、信用できる。

自分を利用しようと言うのでは無く、友人として力を貸して欲しいと、この美しい色違いの瞳が、暖かく握りしめる、少し荒れた手が伝えてくる。

この人の言葉は、痛みを知っているからこそ、重みがある。

まだこうして話しをするのは2度目だというのに、なんて人間だろう。


エリンが深々とリリスに頭を下げ、胸に手を当てた。


「ありがとうございます巫子様。

ですが我らミスリルは隠密行動を主に行っておりますので目立ってはいけないのです。

でも……そのお言葉、救われます。


……さ、食事の準備が出来ております。どうぞ。」


「わあ、本当にお腹が空きました。

いい香り、こちらの食事はとても美味しくて、困ったことに楽しみで楽しみで、仕方なくなっております。うふふ

さあ、一緒にお食事しましょう。」


エリンが顔を上げ、ブルース達の顔を見る。

ブルースはガーラントと顔を合わせ、ニッと笑って肩をヒョイと上げ部屋を指さした。


「まずは飯だ。一緒に食事をしながら話を聞かせてくれ、ご友人。

それと、俺たちもその仮面よりそっちの方がいい……かも知れない。」


「うむ、今まで敵の強力なミスリルに死ぬかと思ったことが何度もあったが、お味方となられれば心強い。

どうかこれからも、お力添え願いたい。」


エリンは2人の騎士の言葉にホッと肩をおろしたように見えて、仮面を腰のベルトに挟む。

仮面をはずして共に食事をすることは考えていなかったが、彼の妹が嬉しそうに笑って横から彼の食器を差し出した。


「お兄ちゃん、良かったね。」

「ありがとう、リナ。」


エリンが妹の頭を撫で、食器を受け取り部屋に入って行く。

騎士2人はそれに続いて部屋に向かいながら、ポンとリリスの肩を叩いた。

一個人、一人一人が違うのは当たり前なのです。

顔が違うように、種が違えば姿も変わる。

人間という種族は確かに武器を使って強いですが、裸になると最弱だと思います。

人間が何の話でも頂点に立つのは、計略を巡らし、他者を利用してのし上がる姑息さと卑怯さと執念深さのたまものかと思います。

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