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184、火の神官

長老の問いかけに、リリスがすうっと息を吸う。

言葉は、自然に、とてもなめらかに頭の中で整理された。


「それはひと言で言うなれば、とても簡単な答えになってしまいます。

今の私には、人のために動く事が自分のためになると言う事です。

そしてそこに私のやるべき道が、いえ、やらねばならぬ大切な事があると感じております。


私はこれまで、自分のために、名を上げればきっと本当の家族を得られるはずと、それだけを願って知識を得、術を磨いてきました。

でも、出生を知って、それに突然壁が現れたのです。

私はすっかり動揺して、目を背けて関係無いと逃げ続け、いたずらに心を乱そうとする人に背を向けるしかありませんでした。

一時は王子のためにと思いましたが、巫子だとわかった時点で私の仕事は別にあると気がついたのです。


過去の禍根から、果たして火の神殿が人々に受け入れられるかわかりません。

私はいまだ王に巫子と認められず、火の巫子の指輪も手元にありません。

まして、フレアゴート様の意志も知らず、火の精霊も封じられたまま。

今の私には、火の巫子として力も何もありません。


……だけど、私は火の神殿を起こします。


それは、今のアトラーナに絶対必要な物だからだと考えるからです。

地水火風、魔導を習えばそのどれかが欠けても力の均衡を失う事に気がつきます。

アトラーナは精霊の国、本当は必要なのだと誰もが気がついているはずなのに、誰も声にしない。出来ない。

隣国からの脅威に際して、母である風以外の精霊王は動かなかった。それが何を意味するか。


精霊王のお心は、すでにこの国から離れようとしているのではないか……この不安感は転じれば人々の動揺と、隣国には隙を見せる事となるでしょう。

火の神殿は、この国には必要です。ですが私1人では、それは叶わぬ夢と終わりましょう。

ならば私は人々の力を借りて、火の神殿を起こします。これは、私の使命です。」


一息にリリスが話し、長老がほうと一息吐いた。

まさに立て板に水、だが実情を知っているからこそ説得力がある。


「さすが、まるで水の流れのようなお言葉。」


ブルースが茶化してクックと笑う。

ガーラントが、黙れと拳で横から突いた。


「ホホ、まことに火の巫子殿は、説得にお慣れになっていらっしゃる。

私の胸にもあなた様の決意は重く誠実に届きました。

あなたのその揺るがぬ心、なればこそなのでしょうね。

あの、不動であられたフレアゴート様さえあなたは動かした。

さあ、火の神官の方々は、どうなさるのか。」


「え?火の?」


音もなく、気配さえなく、横の部屋から滑るように白い作務衣に似た着物姿の3人の男が現れた。

一番背が高く痩せた男はストレートで長い黒髪を後ろに束ね、二番目の男は赤茶の髪をザクザクと自分で切ったようで、左右が揃っていない。

3番目の男はきれいに剃髪して一番背も低かった。

男たちは布を額から顔に垂らして表情が見えない。

その不気味さに、ガーラントが剣の柄に手を置き素早くリリスの前に出た。


「無礼であろう、名乗られよ。」


男たちは無言で、ススッと歩み寄りリリスを上から覗き込む。


「火の指輪がない。」


かすれるように小さい声がした。

リリスが怖じけずくこともなく、問いに答える。


「まだ、王様に返していただいてないのです。」


「なぜ風の精霊の臭いが強いのか。」


「セフィーリア様に育てていただいて、風の魔導を習ったのです。」


「王家の出ではないのか。」


「親無しの下働きでした。でも、今は魔導師として王子にお仕えしております。」


男たちは顔を見合わせ、ヒソヒソ言葉を交わす。

ガーラントが、慌てて付け足した。


「お生まれは王の長子だ。だが、赤い髪の子は不吉だと籍を外されておしまいになられた。

先ほど聞いたであろう。だが、風様の元でしっかりとした教育を受けられていらっしゃる。魔導師ではアトラーナ随一のお力をお持ちだ。」


ガーラントが恥ずかしいほど大きく持ち上げてくれたが、どうも様子は芳しくない。

男たちはボソボソ話しあい、ガーラントとリリスの方を向いた。


「火の巫子は気高いお方であらねばならぬ。

人の下で慣れきった者の物言いは、下卑て育ちの悪さが隠せぬ。」


「なんと!」


「我ら火の神官は、そなたを火の巫子とは認めぬ。よってそなたに仕える気など無い。

早々に立ち去れ。」


「無礼な!何も知らず、それだけですべてを判断するのか?!貴様らほど下卑ているではないか!」


フンと相手にもせず、男たちは隣室へと下がってゆく。

ガーラントとブルースが「待て」と声を上げて立ち上がった。


「フレア様には認められているのだぞ!

この方は火の巫子に間違いない!」


「フレアゴート様のお言葉を直接お聞きした事はない。

下賤のかたりの巫子など、汚らわしくも卑しい者。我らは認めぬ。」


ピシャリと扉が閉じられ、男たちは隣室へと消えてしまった。

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