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182、地下神殿

地下の村は、石をくりぬいた部屋に沢山のカラフルな織物を敷いて、壁をくりぬいて置いたランプの灯りで生活している。

出入り口はドアではなく、美しい文様の厚めの布が下がり、ドアの替わりを成していた。

そのような家が壁一面に並んで、部屋の中はランプの明かりが水晶を含んだ石壁に反射し、地下と言えあまり暗く感じない。

壁には上の部屋に続く階段が岩を削って上まで伸び、人々は器用に手すりもない階段を軽々と行き来している。

居住スペースの前には果樹園や畑があって自給自足の生活が成され、その周囲を森が広がり狭い空間の圧迫感を消していた。


しかし、ベネットはその居住区のまだ奥へと歩みを進める。

やがて地の裂け目の始まりとも言える場所にたどり着くと、そこはかがり火が両脇に焚いてあり、木で屋根をしつらえた、なにやら入り口に宗教めいた紋章の細工のある社だった。


「ここは?」


「我らの神殿です。ミスリルの守り神、アリアドネが奉ってあります。」


「アリアドネ様?初めてお聞きします。」


「アリアドネは地母神、ヴァシュラム様の女名です。どちらでお呼びしても、主様ぬしさまにおかわりはございません。」


「なるほど。ヴァシュラム様なら……わかります。なんとなく。

あのお方の本当の姿は、一体どんなお姿なのでしょう。

いえ、もしかしたら、決まった姿など何もお持ちではないのかも知れません。

私の母様は風のセフィーリア様ですが、元より風に姿などあろう訳がないと酔ったときの口癖です。

きっと人間のために、お姿をお見せ下さっているのでしょうね。」


まあ、母はそう言って、ザレルにからんでは酒をウワバミのように飲んでしまう。

髪振り乱して、服もヨレヨレでベロベロに酔っ払う姿は、決して人様に見せられない。

ああ、あれが風の精霊女王とは、うう……、母様、もうちょっとお酒はお控え下さい。


あれ?……なんだか、変な事を思いだしてしまった。

酒癖の悪い困った精霊の母を思い浮かべクスリと微笑む。


会いたい。

もう一度抱きしめて欲しい。

それだけで不安な気持ちなど吹き飛んでしまうのに。

母様…………


「さ、どうぞこちらへ。長老と長がお待ちです。」


「はい。」


なんだか少し怖い。

返事をしながら後ろを付いてくる、ガーラントとブルースの顔を見る。

ブルースが促すように顔を動かす。

うなずいて、布をめくって待つベネットの前をくぐって入る。

中は狭く、部屋の両脇にベンチのように切った石を配置してある。

テーブルもあって、ここはちょっとした集会場のような物でもあるようだ。

中央にはろうそくが穏やかに中を照らし、正面にはまた垂れ幕。

ベネットが先を行き、またその幕を上げる。

中は暗く、リリスたち三人が恐る恐る歩みを進める。


暗いと怖い。先が見えないと、どこが上か下かわからなくなる。

そうか、ベネットは目が無いから暗いことがわからないんだ。


「ベネット様、ろうそくを持ってきてはいけませんでしょうか?」


「これは……気がつきませんで申し訳ありません。

もう少しなので、ご辛抱願えますか?さ、手を繋ぎましょう。

他の方々は我らの肩におつかまり下さい。」


「いや、夜目に慣れて来たので大丈夫でござる。どうぞお気になさらず。

とは言っても、リリス殿につかまろう。女人の肩につかまるなど、騎士の名折れ。」


「ま、ホホホ、楽しい方。」


ベネットが、どこかうれしそうに笑う。

優しい声と、優美な姿はミスリルと言うことを忘れる。


「おお、お待ちしておりました。ご気分はいかがかな?」


次第に目が慣れ、ぽつりと奥にある壁のランプに照らされた人影に目をこらす。

岩壁の隙間のような細長い通路の途中、杖をつく背の低い老人がこちらを見て手招きしている。

この村のおさだ。


「これは長様。大丈夫です、お世話になりました。」


「そうか、それは良かった。

さあ、奥は広くなっている。こちらへおいでなさい。」


「はい」


「さ、私はここまでです。長に付いてお行きなさいませ。」


ベネットは頭を下げて彼と繋いだ手を離し、前へと背を押す。

リリスたちは彼女に軽く会釈して別れ、老人のあとについて行く。


「ここは聖域じゃ。この奥へは村人も滅多に入らん。」


「こちらにはアリアドネ様をお奉りになられているのだとお聞きしました。

神殿……なのでしょうか?」


「そう言う事じゃ、ここは地脈のるつぼ、地のエネルギーに満ちておる。

それを守る意味もあり、ヴァシュラム様は我らの村をお作り成された。

この村の存在は、ここの守りと言う訳よ。」


「そんな大切な事を、我らに話してよいのかね?長殿。」


ガーラントが、怪訝な顔で問う。


「なに、貴方らは喋らぬよ。喋っては命がない事を知っておるだろうからな。」


ホッホッホッと軽く笑う長が、冗談を言ってるように聞こえない。

ため息をついて、口に鍵を結ぶ。


「やれやれ、俺はこれから深酒するのをやめるよ。壁に耳ありだ、命は惜しい。」


ブルースがひょいと肩を上げ、苦笑いした。

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