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181、地底の村

ヒヤリとした空気が緩やかに流れる。

息を吸うと、肺が洗われるように気持ちがいい。

目をゆっくり開くと、そこには空は見えない。

遙か上に、地上にまで続くのだろう岩の裂け目が、まるで天地逆転した奈落のように続いている。

ここからある一定の時間、地下に光が差し込むのだ。

ただ今はその時間ではなく、闇に輝く妖精や精霊達の小さな輝きが、まるで火の粉のように地の底の森に沢山飛び交っていた。


「きれい……」


目を開けて、しばらくうっとりそれに見とれる。

すでに地の底の森の中、こうして地面に直接寝かされて3日たつ。

ここはミスリルの村イスカ。

地の精霊王が作った村だけあって、地上からどれだけ離れているのか知らないが地の底にある。

地底村だ。

それでも、いつも風がどこからか流れて、朝一時間ほど天井の岩の裂け目から日が差す。

それが岩に含まれる水晶のような澄んだ石に乱反射して、地底中に光を届けるのだ。

それでも、恐らくそれで植物は育たないだろう環境で、なぜか森があり多種多様な作物がある。

不思議な、ヴァシュラムの作り出した箱庭のようだ。


日の入らない時間は、横穴住居で焚いているかがり火の灯りを、天井一杯のヒカリゴケが反射して薄明るさで照らしている。

飛んできた精霊を、指に留まらせる。

最初の日は毒が回ってろくに言葉も出なかったが、ようやく手足も自由に動かせるようになった。

薄い毛布を上に着せられただけだが、寒さは感じずヒヤリとした清浄な心地よさがある。


「ここにいると、昼夜の区別が付かんな。」


ブルースが退屈そうに大きく伸びをする。

かたわらの袋に手を突っ込み、スモモのような果物を手にして一つほおばり、甘酸っぱさに顔を歪めた。


「ヒュー!なんて酸っぱさだ、こりゃ参った。

巫子殿も良くこんな物食えるな。まあしかし、目は覚める。」


リリスも一つもらってかじる。

確かに強烈な酸味だが、毒消しの薬らしい。食べるのにはもう慣れた。


「ええ、ほんっとに酸っぱい。でも薬だし、食べてるとなんかクセになるんですよ。もう一つ下さい。」


「もう一つだって?巫子殿、腹に子でもいるんじゃないのか?ほれ」


「私は男ですってば!もう。」


とは言え、まるで歯が溶けそうな酸っぱさだ。

でも、それが今は心地いい。

かじりながら身を起こして、座って息をつく。


「もう、お城には戻れませんね。」


「さあな、お主の力と状況次第か。まだ必要な物を返してもらってないではないか。」


「でもなんだか、とてつもなく無理な話だと思えてなりませんけど……

だって、一つは王位継承の証ですよ?

王子の旅に同行させて頂いた時も、たいそう気を使いました。お預け頂けた時は、名誉な事とたいそう気が引き締まったものです。

それを自称巫子が必要だからくれって言われても、気が狂ったとしか取られませんよ。」


「でもなあ、親なら子の願いはどんな事でも叶えてやりたいものだぜ?」


「え?」


「お?彼女だ。」


振り向くと、ガーラントともう1人の姿が近づいてくるのが見えた。

ミスリルのベネットだ。

彼女は医師のような魔術師で、人のオーラを感じて治療をするらしい。

感じるというのは、彼女の顔を見ればわかる。

目がないのだ。


ベネットはガーラントより先を歩いてくると、リリスのかたわらに膝をつき額に手を置いた。

まだ若く、20代だろうか。

目のない顔だが、透けるような白い髪で顔を隠しあまり違和感はない。


「命の火が安定して暖かく燃えています。

毒も抜けきったようです、もう大丈夫ですね。

さすが巫子殿、地の波動と合わせるのがお上手、回復がお早い。

素人ではなかなかそうは行きません。」


「イネス様に教わっていたのです。

ベネット様のおかげでラクになりました、ありがとうございます。」


「そうですか、地の神殿には私たちも大変良くして頂いています。

さ、おさの元に参りましょう。

今日はあなたをお連れするようにと言付かっております。

おや?

心がほんの少し揺れましたね?


大丈夫、お優しい方です、何も心配はありませんよ?

長老が、今のあなたに必要な事を教えてくれましょう。

あなたが会わねばならない方もお待ちです。」


「必要な事?会わねばならない?」


「ええ、ずっと、ずっと、あなたを、待っていらっしゃる方がいらっしゃるのです。

さあ、立てますか?一緒に参りましょう。」


「は、はい」


ベネットは立ち上がったリリスの手を取り、柔らかく握って手を引いて行く。

真っ白でシミ一つ無い、細く、華奢で美しい手だ。

ふわりと柔らかく、それでいてちゃんと手を繋いでいる。

そんな不思議な感じに思わずその手を見つめる。


「ヒヒ、惚れるなよ?」


ブルースが、それを見て茶化した。


「もう!」


憤慨しながら、なんだかそれが気恥ずかしいほどに心が安まり、ニヤリと笑うガーラントと目が合うと、ポッと赤くなって目を伏せた。

新章です。

ここは人間と精霊の混血、ミスリルの村になります。

多く異形の者が住み、人間達にはその場所を知られないように、外からは自由に入ることは出来ない場所です。

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