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178、美しき、ガラリア

美しく、恐ろしい巫子が悲壮な表情で眉根を寄せる。

戸惑うリューズが、息を飲んで問うた。


「お前の目的は……一体何だ?私を救いに来たと言ったな。その意味はなんだ?」


私を知っているなら教えてくれ。

リューズにそう問われている気がした。

自分は笑っているのか泣いているのかわからない。

ただ、目の前にいるあのアトラーナの災厄の元凶となったこの聖なる火を、自分はずっと探してようやく見つけたのだ。

その中に眠る者と共に葬るために。


「ああ……いや……いいや、あるさ、希望はまだある。お前を消し去るという希望が!」


「そんな物……そんな物、希望と言えない!

邪悪な巫子め!灰となり我が前から消えろ!」


リューズが仮面を取り払うと、顔の傷から青い火が噴き出した。

それは一際強く激しい勢いで、セレスの身体を包み込む。

封印された身体から飛び出し、力を解放してセレスをひるませ、空間に裂け目を作りそこから逃げる。

その算段だった。

しかし、それこそ彼は待っていたのだ。


「それを待っていた!!」


不気味なほどに微笑み、セレスが剣を捨てリューズに飛びかかる。

腕輪のある手をのばし、火が噴き出す傷を覆うようにリューズの顔を鷲掴みにした。


「うおおおおお!!きっ貴様!」


「この身体の中に潜む、お前の本体を待っていたのだ!やっと姿を見せたな!

この身体は不運な魔導師の物、死んだからと言って、勝手に利用するな愚か者が!」


見る間にセレスの手に本体の火が吸い込まれ、焦るリューズがセレスの腕を掴む。


「はっ、離せ!離せえっ!」


メイスから手を離し、両手で必死にセレスを突き放そうともがく。


「さあ、すべて吸い尽くしてくれよう!

その身体はお前の物にあらず!家族の元へ戻すのだ!」


「いや……嫌だ!嫌だ!嫌だ!

……あ、あ、あ、消える……消える!火が消えてゆく……



…………たす……助け……て……助けて!

恐い……恐い!恐い!恐い!恐いーッ!



…… ——ラ、ガー……ーラ!

……ガーラ!…ガーラ助けてぇ!」



セレスの顔が凍り付き、思わず手が止まった。

だが、悲愴な顔を横に振り、手を緩めず彼の身体を抱きしめる。



「大丈夫、私もすぐに行くから。もう、決して、お前を決して1人にしない………

一緒に、黄泉で暮らそう…………」



「助けて……助け…………ああ……火が、火が消えて行く…………」





「やめよ、ガラリア。」




メイスの人形が静かに告げると、セレスの身体がこれまで感じたことのない力で引き離され、一息に眼下の森の中へと落下して木をなぎ倒し地面に衝突する。


「な……ぜ!くっ……な、なぜ、なぜあいつが、ここにいる!」


気を失うこともなく、セレスはすぐに身を起こしてよろめきながら立ちあがり、再びリューズの元へと飛び立った。


「そこにいてなぜ止めぬ!私は……私を阻むなら殺すがいい!

この力はあなたが与えた物だ!


私が目障りなら、何故!!この力を取り上げて、打ち棄てればいい!!

私は、……このために生き続けてきた!!」


セレスの目から、涙が次々とこぼれる。

顔を押さえてうめくリューズの前で、メイスの人形が阻むように片足で立ちふさがっていた。

セレスが再び手に剣を生み出し、メイスの人形に向かって飛びかかる。


「私がどんな気持ちで生きてきたかなど、あなたは考えたことも無かろう!

消さねば、殺さねば、終わらせねば、また沢山の人を殺し、災厄と呼ばれ忌み嫌われ語り継がれる!

私がすべてを断ち切らねば……!!」


だが、振り下ろす光の剣はメイスの人形の視線一つで止められてしまう。

ギリギリと血が流れるほど唇を噛み締めるセレスに、メイスの人形は場違いなほど優しく微笑んだ。


「聖なる火と共に、すべて灰にしようとするお前を、わしの他に誰が止められよう。

子殺しなど、お前にさせられるはずもない。

わしはずっと、お前を見てきたのだ。」


「何を見てきたという!

あなたはいつもそうだ、遠回しに見るばかりで、道化のように迷いうろたえる私を見て、ただ笑っているだけじゃないか!

あなたにとって、私やこの子はただのオモチャに過ぎない!


もう沢山だ!あなただって……


あなただって後悔していると、はっきり言えばいい。

あなたは人々を欺き、巫子でもない私を巫子とした。


それを!後悔していると言えばいい!ヴァシュラム!」


セレスの叫びに、メイスの人形がゆっくりと首を振る。そして悲しそうに語りかけた。


「後悔という感情は、わしには元より無い。

それにお前は間違っている。

私にとってお前は生涯を共にしたい伴侶だ。

永遠を生きねばならぬ、この地の王と呼ばれるわしに、お前は慈悲を取るだけ取って与えぬと言うのか?」


「ふざけたことを!何が…………」


「良い、お前の無礼な物言いは耳に心地良いが時間がない、ここまでとしよう。

だが、お前の言う通り、この子の身体は解放して神殿に戻しておこう。

一時を借りることとなったが、家族には詫びを頼む。」


「頼む?頼む……だと?ふざけるなっ!」


動かない剣を軸に、思い切り人形の顔に回し蹴りを入れた。

崩れかかった人形の顔は見事に半分が吹っ飛び、人形が驚いた顔でケラケラ笑った。


「なんと!地の神、精霊王であるわしを足蹴にするのはお前くらいのものよ!これはなんと心地よい。

クックック……カッカッカ!!


おお、美しきわしの大切なガラリアよ、涙を流すな。

お前の涙ほどわしを突き動かす物は無い。

これにはまだ希望がある。

お前もそう思うからこそ、メイスを救ったのではないか、のうガラリア。」


「今はセレスだ、変態の呆け老人め!

何が希望だ!見よ、火に飲まれてあの子の何が残っているという!

聖なる火などあの死体の中にはない、あるのは一時の激情でリリサを汚し沢山の人を殺した火だ!

私は果てまでも追ってゆくぞ!」


「おお、素晴らしい!お前に追われるのは喜ばしい!だが、今は困る。」


人形が、崩れて指が3本しかない右の手の平を広げ、セレスに向けた。

その瞬間、目の前で何かがはじけ、セレスの身体中から力が吹き飛び、輝く金の羽根が消えて全身から力が抜ける。


「これまで待ったのだ、何も急くことはない。

聖なる火はフレアの血、再生の手もある。

お前のために、この子を救う手は最後まで探ろうぞ。

やれ、面倒なことだが、お前はこの子がおらぬと寂しいのであろう。

安心して、しばし朝まで頭を冷やすがよい。

怒りに燃えるお前の姿、眼福であった。」


「この……」


言葉が途切れ、彼の身体はゆっくりと後ろに倒れ、そのまま森の中に落ちてゆく。

リューズの炎は彼の杖にあった水晶の中へと移され、メイスの人形はその水晶を大事そうに抱いて、落ちるセレスの姿を見送りながら灰となって消えていった。


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