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177、生きる意味

リューズの配下の魔導師達は杖を封じられ、人間達が一斉に反旗を振りかざした。

夜の闇に包まれるはずの城は、輝くセレスの翼が太陽のようにまぶしく、その輝きは壁さえも通り越して、まるで昼のように明るく一帯を照らした。

力の礎である杖に裏切られた白い魔導師達が、無様な姿を晒し人間達から逃げ惑う。

城の庭の至る所で杖が根を張り、まだ暗い夜空へ向けて枝葉が音を立ててザワザワと伸びてゆく。

若木は横に横たわる虫や爬虫類の死骸を飲み込み、城はまるで若木の林のようになって行った。


リューズの部屋がある城の一角、東の塔と言われる場所は、最上階がすっぽりと外壁が消え、中の部屋が丸見えとなっている。

だが、その部屋から伸びる輝く金の翼が、そこにセレスがいるのだと指し示していた。


ドドンッ!ガラガラガラ……


爆発音のような、この世界ではあり得ない音が響き、塔の屋根が崩れ落ちて次に金の翼が羽ばたいて空に舞い上がる。

その先には青い炎の火の玉が、人を2人包んで逃げるように飛んでゆく。


「おのれ、おのれ、化け物め!

あいつは人間ではないのか!」


吐き捨てるリューズが短くなった杖を握りしめ唇を噛む。

杖の先には水晶がある。

今はその水晶で力を増幅するしか手がない。

しかし、この弄ぶような仕打ち、城から追い出す事が目的かと思ったがしつこく追ってくる。

このままでは本当に打ち負かされる。

この身体にいる限り、ヴァシュラムの紋章に力が封じられて思うように戦えない。

そうでなければこんな巫子1人、もっと強い炎で灰にしてしまうのに。

全力で力を使えない事にイライラする。

自分はこの人間の身体を捨てれば逃げられるが、このままではこの人形を無くしてしまう。


いっそ、いっそこの身体を捨てて、人形を連れて……


「どこまで逃げるつもりだ、無駄な事を。」


「なぜ、一息に殺そうとしない!」


「用があるのはお前だからだよ。」


クスクス笑ってセレスが手を振り下ろす。

シャッと風を切る音がして、リューズを包む炎が分断され切り離された火が灰となった。


「あっ!」


彼が左手で抱きかかえる人形の腰から下が、左足と共に左半分消えて無くなっている。

その反動でヴァシュラムの泥人形でしかない固まりがバランスを失い、彼の身体が切られたところからサラサラと砂になっていく。人形らしからぬ恐怖に包まれたのか、人形はリューズにしがみついた。


「リューズ様!あ、足が……!身体が消えてしまいます!」


「メイス!駄目だ!消えてはならぬ!」


リューズが悲痛な叫び声をあげ、人形の身体を抱きしめた。


「人形がそれほど大事か!

大事なれば守って見せよ!」


セレスが手の中に光の弓を作り、背から羽根をとってリューズに次々と放つ。

メイスを抱きしめたままリューズが杖を大きく左右に振り、光の矢を振り払う。

そして、自らの腕を噛み、血の代わりにこぼれる青い火を杖に滴らせ、渾身の力を込めて杖を振り下ろした。


ことわり無き、禍々しき巫子よ!

我が血の力を受け灰となれ!」


血を火種に、杖の水晶から大きな火の固まりが生まれてセレスを襲った。


「無駄よ!生ぬるい!」


火は一瞬でセレスの前で消え去り、その手の弓はいつの間にか剣へと姿を変える。

セレスはその剣を振りかざして、リューズの頭上から打ち下ろした。


「くうっ!」


バシンッ!杖で剣を受け止めた瞬間、音を立てて激しい火花が散った。

華奢でしなやかな姿態で飛びかかるセレスの剣は、想像以上に重く圧倒される。


「ええぃ!この化け物!」


剣と杖のせめぎ合いの中、火と火花が舞い散り、その向こうに光り輝くセレスの姿がまぶしい。

こいつの力は次元が違う、何をしても力が通じない。

どうすれば勝てるのか、見当も付かずリューズは決意するしかなかった。


この身体を捨て、あいつの元に!


なんとか杖を返して、渾身の力でひずみをぶつける。

くるりと舞って一旦離れたセレスに、覚悟を決めて顔の仮面に手を伸ばした。


「さあ、次はどうする、もう手詰まりか?

2国を騒がせた者が、なんと手応えのないことよ。」


使える術が、地と火の術である限りこいつに対抗できるものではない。

いや、水でさえこの美しい巫子は灰に変えてしまうだろう。


「すべてを灰じんに帰するお前などが巫子だと?お前の力に希望など無いではないか!

何が巫子だ!」


リューズの言葉に、セレスがふと暗い表情になった。

不敵な顔が、悲しく笑う。


「ああ……希望など……希望などとうに捨てた……

私の生きる意味は、お前を消し去ったらすべてが終わる。


その目から、涙がこぼれている気がしてリューズが目を見開いた。


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