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172、王の威信

急に周りが音のない世界となる。

耳閉感に捕らわれて、慌てて薄暗い周囲を見回した。

だが、気がつくとセレスが手をしっかり握っている。

それで落ち着きを取り戻し、フッと息を吐いた。


「ここは?まさか、あの世では無かろうな?」


「フフ、ここは狭間です。

あの牢で、こそこそと盗み聞かれるのは気分が悪うございますから。

さて、手短に話を致しましょう。

あの魔導師は最初1人でしたか?神木はなんと言って切らせました?」


「あ、ああ、あれは確か……」


目を閉じて、思い返し、あらためてそうだったと悔やんでため息をついた。


「城下に、たいそう予見の当たる魔導師が来たというので、父が呼び寄せたのが始まりであった。

現れたのは、供の1人もない痩せたごく普通の青年であったが、石切場の土砂崩れを見事予見してけが人を出さなかったことで、父に特別気に入られたのだ。


城付き魔導師として迎え入れ、顔の半分にひどいケガと火傷があるというので、父が仮面をあつらえさせた。

最初はぼんやりしていることも多く、冴えない若者だったが…………

だが、王がそばに置いていると、次第に……なんというか、輝きを増しているように見えてきた。

女ではないが、違う意味で魅力が増して、動く姿はしなやかなネコのようで、声を聞くだけで小鳥のさえずりのように心が落ちつく。


……そうか、それがもう、相手の術中にはまっていたのだな。」


視線を落とし、首を振る。

すべてがそこから始まったのだ。


「それが……、ある日、力のある杖が欲しいと言い出した。

力のあるという言葉の意味がわからなかったが、木を選ばせるとあの神木を欲しいと言いだしたのだ。

出来るだけの本数が欲しいと。」


「それであの木を切って杖を?」


「いや、それが職人に作らせたが選別すると7本しか良い杖が作れなかった。

あの大きな木から出来た杖のほとんどが出来損ないだと。

そしてその杖を作った頃から、あのローブで顔を見せない魔導師達を呼び寄せ始めたのだ。」


セレスが視線を落とし考える。

確かに、白い魔導師には力に波がある。

あの白いローブの魔導師達に、力の強弱があるのはそれが原因か。


「なるほど、それで……承知しました。

良い情報をありがとうございます。」


「私は、これからどうすれば……

父は、リューズを離そうとしないだろう。

頼ろうにも、親しい臣下も彼らの思い通りに移動させられ、失脚した者も多くいる。

民心も不満が多く荒れていると聞く。


この城をこよなく愛していた妹は、耐えられなかったのだろう。

私にはなぜ、あの子がリューズに危害を加えようとしたのかわからなかった。

どうしてこんな事になってしまったのか……今のままでは我が王家の行く末は暗い。」


額に手をやり、嘆く王子にセレスが膝をついて胸に手を当て頭を下げた。



「王子よ、どうか、我が声をお聞き届け下さい。


父君、トラン王ルシェール殿には、御退位を願うことを進言致します。」




思わぬ言葉に、王子がたじろいだ。


「ばっ、馬鹿な!父に玉座を退けと言うのか?!

私に王になれと?!父はあのように健在で生きているのだぞ!」


セレスが首を振り、そして彼に言い聞かせるように続ける。

王子は、大きく心を揺らしながら彼から目が離せなかった。


「ええ、それでも。

すでに人心は王から離れています。

今は城下で収まっていますが、これから関を元のように解くと人の流れは活発になります。

王の悪い噂は全土に容易に広まることでしょう。

それは隣国の大国にも隙を見せることになり、兵の士気にも関わります。

王の威厳を落とさないことが肝要です。


王宮に、素性も知れぬ魔導師を入れてしまった、それはルシェールの最大の過ち。

隙を作ってあの魔導師に付け入られてしまった責任は、彼に取っていただきましょう。


国の頂点に立つ王なればこそ、人である前に王であらねばなりません。

魔術に惑わされたという事実は、元よりあってはならぬ事なのです。


だからこそ!


この暗闇のような状態に、新しい風を入れて突破するのです。

次代を担う運命であるあなたが、この騒ぎを収めなさい。

人々を一時でも苦しめた、父の罪は息子のあなたがつぐなうのです。


そして、これからのあなたの姿で彼の威厳さえも取り戻しなさい。

あなたしか、この騒ぎを収められる者はおりません。」



取り乱す彼に、セレスの優しく力強い瞳が真っ直ぐに見据える。

それは、王子に大きな決意を促し弱気を許さない。

容赦のない、それでいて抱擁感のある視線だ。


確かに、自分でもわかっているのだ。

正気を取り戻した自分に、ひっそりと涙を流し喜ぶ側近たちの顔。

その、すがるような、最後の希望を見つめるようなまなざし。


王は、人である前に王であらねばならぬ。


王が惑わされることが、ここまで大きな影響を受ける怖さを身をもって知った。

もう、2度と繰り返すまい。


王子が決意し、キッと顔を上げた。

セレスの言葉を考えるのは、以外と難しい。

でも、彼の言葉はなぜか、さらさらと書ける。

なのに、とても重い。

国のトップは威信にたる尊厳を持って欲しい。

民草は簡単に生活を左右されてしまいます。

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