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155、宰相暗躍

リリスの元にはその夜、翌日午後から巫子の審査が始まることが知らされた。


貴族院の重鎮や騎士、長老、賢者、魔導師の長、そして神殿の神官など、揃うメンバーはそれぞれを束ねる地位の高い者ばかりが招集される。

彼らが一致して認めて、そしてようやく巫子を名乗ることができるのだ。

ただし、彼を養子で迎えるザレルは、私意が影響するのではないかと貴族から意見が出されて、メンバーから外された。


そのザレルは、リリスが巫子の審査が許されてから、騎士団長の地位を十分利用して彼の身辺警護には信頼の置ける者を選抜し、食事にも十分気を配ってリリスの身を守ることに専念していた。

巫子の審査がどうなるかは気になる所だが、彼としては裏に手を回すなど騎士道精神に反することなど頭に浮かばない。

それよりも、ただただ暗殺を懸念し無事だけを願って自分の側に置き、レナントの騎士と共に保護することを優先させた。


しかし、その過剰とも言える警護ぶりは、宰相の耳にも入り眉をひそめさせる。

それは返せば暗殺を密かに企てようとしても、隙のない状況に苦々しく思う宰相側の都合でしかないとわかっていた。


夜も更けてサラカーンに呼ばれたザレルは、不機嫌そうな彼の様子に表情もなく頭を下げた。


「お呼びでございましょうか?」


「このような時間に呼び出しすまぬな。

さて、時間も時間だ、単刀直入に申すとしよう。

なぜ呼び出されたか貴方にも見当は付こう。」


「いえ、存じませぬが。」


サラカーンが、ザレルの動じぬ姿に顔を歪める。

立派な体躯のこの騎士の迫力は、できれば二人きりで同じ部屋にいたくないと思えるほどに昔から苦手だ。


「……ふむ……

明日から巫子の審査が始まるが、彼の者に対して貴方の兵の配置が過剰すぎるのではないかと言う声が、わしや王の耳にも届いておる。

ここは城の中だ、養子を心配する気持ちはわかるが少し控えよ。」


「いえ、王からは思うようにせよとお言葉を頂きました。

故に我が子のことなれば、できる事を全力で致したいと思うのが親心でござる。

聞けば火の巫子は、なぜか巫子の審査にも手が届かぬうちに、事故にて命を落とすのが常と耳にしましたゆえ、何かこの城には呪いでもかかっているのではと心配でなりませぬ。

あの子にも我が子となったからには、大船に乗ったつもりで命を預けよと豪語致しましたゆえ、どうか数日のことでございますので大目に見ていただきとうござる。」


親を持ち出されては、サラカーンにも何も言えない。

自分も息子を心配して、手元に置いておきたいとわざわざあの自分の城からこの本城へ呼び寄せている。

グッと言葉に詰まり、養子を認めたのは早計だったと後悔して苦々しい顔でザレルを睨む。

大きくため息をつき、もう良いと顔をそらした。


「とにかく、少し兵を減らすように。

それとこの城に呪いなどと、ふざけた事を申すな、お主らしくもない。良い、下がれ。」


「は、それでは失礼致す。」


部屋を出て、廊下でジロリと視線を周囲に目配せてにやりと笑う。

腰の剣を少し抜き、そして音を立てて鞘に戻した。


「ふん」


鼻で笑って自室に戻ってゆく。

その彼の後ろ姿を見送り、暗い廊下の影から気配を殺した男が現れた。


男は黒装束に身を包み、暗闇ではそれに溶け込むように気配が薄い。

眼光鋭く、腰には短い剣を差し、他にも武器を何かしら持っている様子だが、廊下の途中で警護する兵さえ彼がいることに気がつかない。

しかしそんな彼を、部屋を出たザレルは容易に気がついて、剣で音を立てて牽制した。


「やはり狂獣よ、どれだけ気配を消しても丸見えか。

あの方にはミスリルとて命がいくつあっても敵うまい……」


かすかにぼやいて、宰相の部屋のドアを叩く。


「入れ」


返事を聞いて、そっと部屋に滑り込む彼に、サラカーンが酒を一口ふくんで見もせずにため息をつく。

男は床に膝をつき、滑るように宰相のかたわらへと寄っていった。


「動きがあるのか」


「は、特に城内では変化はみられません。

ただ……レスラカーン様が外で動いておいででございます。」


「どういうことか。」


「わかりましただけでも、長老や賢者、貴族の一部に密かにお会いになっております。

恐らくは火の神殿の再興への手回しかと。」


「あの子がどうしてそのようなことをする!」


「お考えあってのことかと。」


「わかっておらぬ!あの子は何もわかっておらぬ!王家にとって、精霊など邪魔でしかないものを!」


宰相が立ち上がり、ドアへ向かおうとする。

しかし、男はスッとドアの前に行き頭を下げた。


「ご子息様は、まだお帰りになっておりません。」


「このような時間まで何をウロウロと……

ええい!帰ったら何時でも良い、すぐに来るよう申せ!

ううむ……それで、例の始末はどうなっているのか?」


「は、何度か食事には秘伝の毒を潜ませましたが、ことごとく毒味の術に見破られてしまいます。

また、配下の虫使いの毒虫も、何らかに阻まれ死にまする。

刺客を直接送ってもよろしいのですが騎士殿の守りも高く、恐らくは人死にが多く出ましょう。

いかがなさいましょうか?」


「人死には出してはならん。あくまであの者1人を暗殺するのだ。

働きを見せろ、その為に下賤な貴様達ミスリルを飼っているのだぞ!

忌々しい、失敗の報告など聞きたくも無い!そのまま隙を探れ、良いな。下がって良い。」


怒り収まらぬ様子で、酒をコップに注いで一気に飲み干す。

ミスリルの男は静かに頭を下げて、音もなく部屋をあとにした。

廊下の暗い角に立ち、しばし指を噛んで考える。

顔を上げて身を引き締め、そのままレスラカーンの部屋へと向かった。

王族でも、宰相サラカーンは頭がガチガチです。

リリスが生まれたとき、育てたいと言った兄を説き伏せ、リリスに刺客を送ったのも彼です。

口伝、しきたりは守らなければそこで絶える。

そこに情緒はいらない、冷酷に判断すべし。


そう言う彼は難産で早くに妻を亡くし、失意の中で一人息子を大切に、それは大切にしています。

後妻を迎える気も無いようです。

大切な者は何物にも代えがたいのは、十分わかっているのです。

一国を背負うのは大変な事です。

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