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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
15、謁見

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154、王妃リザリアの願い

王妃リザリアが窓辺の椅子に腰をかけ、階下を見下ろし指を噛む。

その視線の先には、リリスがいるであろう部屋がある。

だが、中をうかがうことなど出来るはずもなく、王妃はつのる思いを抱えて迷っていた。


会いに行きたい。


でも、あの子はきっと恨んでるに違いない。

あの言葉は、諦めで恨みを覆っているような言葉だった。

ザレルとセフィーリアが養子に迎えるという。

それで果たして良いのか、良いのだと思いたい。


でも……本心は……本当の気持ちは……


「嫌よ!あの子は私の子、取り戻したい。

たとえ何があっても。

守れなかった非を……詫びたいのよ……」


涙があふれてポタポタ落ちる。

生まれて一度も抱いてあげられなかった。

お腹の中で二つの命があると知ってから、すべてを慌てて二つずつ用意していったのに、陽炎のようにあの子は消えて、残された物すべて彼が燃やしてしまった。


許せない……



「……リザリア様……」


ドアの向こうから、ささやくような声がした。

それは聞き覚えのある、侍女の一人だ。

だが、それは特別な侍女だった。


「ミザリー、入りなさい。」


返事を聞いて、その侍女は足音も立てず滑るように入ってくる。

そして膝をつき、覚悟を決めて頭を下げた。


「なぜ呼ばれたか、お前はわかっていますか?」


「はい」


「お前を10才の誕生日に父上から頂いてのち、私の輿入れの時も付いてきて、これまでよく仕えてくれました。

私も、お前だけはと信じていました。」


「はい」


「お前は……知っていましたね?」


ミザリーの顔からうっすらと汗が流れる。

つばを飲み込み、視線を上げる事も出来ず声を詰まらせた。


「は……い……」


王妃がため息をつき、立ち上がる。

そして彼女の元に歩み寄ると片手を振り上げた。


知っている……はずだ。


彼女がミスリルであることは、他に宰相と王しか知らない。

だが、彼女にもミスリルとしての力がある。

それは心眼、人の心を見抜く力だ。

直前から直後の先読みまで、瞬時に読み取って彼女を補佐する。

それは彼女が気の利く聡明な王女として、高く評価される事になった。


通常王族はミスリルを持たない。

しかしミザリーは、父親が彼女のためにと、宰相家のつてを頼みに彼女の為に得たミスリルだ。

王子の后にと話が来て、何とか助けになるようにと選んだだけにとても助かる力だった。

だからこそ、知っているのが当たり前なのだ。


そして、彼女は自分にだけは隠し事無く仕えてくれていると信じていた。


なのに……なのに……夫に裏切られ、信頼していた彼女にまで裏切られるとは!


震える手を握りしめ、胸に押し当て涙を流す。


わかっている。

彼女は王に口止めされた。

それに逆らえなかっただけ。

でも……


「信じてたのに………」


ミザリーは、びくりと身体を震わせその場に平伏した。

床に額をすりつけ、たとえ彼女に足蹴にされようとも、この場から出て行けと言われようとも、死ねと言われても構わないと思う。

自分は命をかけて仕えようと決めてきた。

だが、あの時、王に最初で最後の願いだと、彼女を思うなら語るなと口止めされたのだ。

錯乱状態でしばらく泣き止むことの無かった彼女の姿に、消えた王子の事を……もう戻ってくる事の許されない王子の事を、どうして語れようか。


だから、せめてあの王子には親族を一人、時折様子を見に行かせていた。

小さい身体で一人旅をするときは、必ず気付かれぬように護衛に付かせ、せめて見守る事だけを続けた。

でも、それが何になるのだろう。

王妃は母として、手元で愛情を込めて育てたかったのだ。


「ミザリー、お前は私を裏切った。私はこのままでは、お前をこれまでのように信用できぬ。

だが、私は友としてお前が好きだ。

だからお前を失うのは惜しい。

お前は……私との間にあいた溝を自らの行為で埋めねばならぬ。

お前はどうしたい?」


王妃の言葉に、ミザリーが愕然と顔を上げた。

自分はリザリアの心をのぞき見た事はない。

だが、きっと自分への怨みが詰まっているだろうと覚悟してきた。


なのに……まだ友と言って下さるのか…………


胸がいっぱいになり、身体が震える。


「私に………そのような機会をお与え下さいますのですか?

私は、リザリア様がすべてでございます。

あなた様が、死ねとおっしゃるならば私は死にます物を。」


「死ぬ事は許さぬ。

お前は生きて、老いて死ぬまで私につぐなうのだ。」


ミザリーがギュッと手を握り胸に当て、膝を立てて深く頭を下げる。

そして、涙をひと筋流し、王妃の顔をじっと見つめた。


「この身は、あなた様だけの物。何なりとお申し付けください。」


「私の王子が望む物を手に入れよ。

そして必ず、お前の手で確実に渡すのだ。

それがあの子を私に近くし、あの子の命を守る事となる。」


「承知致しました。我が主の御心のままに。

この命、かけましても。」


「ならぬ、死ぬ事は許さぬ。良いな」


「はい」


ミザリーは真摯な顔でうなずき、自分に出来るすべての力を使っても、彼女の願いを叶える事を誓った。


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