表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/581

152、猜疑心

自室にこもり、無言のままじっと目を閉じ考える。


「お前は……どう思った?」


キアンがゼブラに問うた。

不安しかないその後ろ姿に、ゼブラは静かにため息をつく。


「特になにも。あれは巫子の事、あなた様には何の影響もございません。」


キアンが背を向けて大きく息をつき、椅子にドスンと座った。

少し時間が欲しいと部屋からゼブラを追い出し、ただ一人暗く苦悶に満ちた顔でうつむく。


ゼブラはああ言ったけど、父は違う。

きっとそうは思わなかったに違いない。


自分は事実を知ったあとも、リリスを兄だと思ったことはない。

友人や、自分の家臣だと思ってきた。

あいつ自身ももう、自分は王家とは関係無いと断言して、一部の貴族たちが噂に踊らされても、あいつは決して乗るそぶりを見せなかった。

だからあいつが登城してきたときも、相談できる者が増えて僕は随分ホッとしたんだ。


ずっと、次の王はお前だと言われてきたし、そのつもりで勉強だって剣だって頑張ってきた。

だが、先ほどの光景を見て、父や母は思っているはずだ。そう感じているはずだ。


『やっぱり、リリスは特別だ』と。


あいつは精霊王に育てられた。

そりゃ下働きで苦労もしただろう。

でも、それ以上に魔導師として、凡人にない力を手に入れ、特別に精霊達に目をかけられた本当の意味で特別な人間だ。


あいつはずるい。


そんな特別な人間なのに、見た目で損をしたからと言って、みんな同情する。

ザレルなんか、可哀想だと自分の養子にしたいとまで言っている。

その上、火の巫子だって?

どこまで恵まれてるんだ。

馬鹿にしてる。


僕はあまりに平凡だ。

臣下に慕われているかと言われても、ゼブラ以外数人しか浮かばない。

このままだと、きっとリリスは僕のところまでのし上がってくる。

自分の力で。

あいつは、僕なんか比べものにならないくらい、ずるくて賢くて強い。

下の身分だから許せていたのに、いつの間にかこの僕と並ぶどころか、僕を蹴落として玉座を僕から遠ざけようとしている。

僕は、大人になったら王の冠をかぶって、玉座に座るのが当たり前と思っていた。

いつかあの玉座に座って、みんなにかしずかれるのが当たり前だと思っていた。


でも……僕は、王になるのが恐かった。

王は一身ですべてを担わなくてはいけないと思っていたから。

この国を背負う事が恐かった。

でも違う、父上の近くで仕事をするようになってわかったことは、国はみんながみんなの力で支えてくれるものだと言う事。

王は、それを見て間違った方に行かないよう指図すればいい。


そうだ、僕でも王になれる。

難しく考えることはない、凡人の僕でもやれることなんだ。

いや、凡人などではない。

僕は、王として育てられた、僕は王になるべくして育てられた、生まれながらの王なのだ。

僕は王の息子、特別の人間だ。凡人などではない。


何を血迷っている。

リリスが僕を蹴落とそうとするなら、僕はその前にあいつを蹴落とすべきだ。

僕こそ、王になるべき人間なのだから!


ああ……でも……でも……僕は…………


心の中で、葛藤に苛まれつつ拳を握りしめて額に押し当てる。

リリスを嫌いな気持ちと、それでも友人として信じたい、でも信じ切れないと言う複雑な思いと。



いっそリリスがはっきりと、自分を、この自分だけを頼ってくれれば、もっと違った気持ちじゃなかったのか。

いいや、僕はあいつが帰ってきたときから、あいつが巫子だとは信じてなかった。

あいつを、最初から信じていたら、そうして最初から迎えていたら……


僕は……僕は……

強くなりたい!あいつのように!

強く、もっと強く!!




『強く、なりたいか。我が血縁の者よ』




ビクッと身体が震えた。

部屋をぐるりと見回す。

耳元でささやく暗くかすれた声に、ゾッと凍り付く。

壁の古い鏡に映る、自分の姿が目に入った。

自分の姿しか、そこには無い。

だが、なぜかその自分の姿から目が離せない。

気がつくと、鏡に映る自分の口が喋っている事に気がついた。


『強くなりたいか、我が血縁の者よ。

汝は選ばれし者、希代の王となる者』


「な、何だお前!え?僕?私?え?え、えらばれた?」


鏡の中のキアンが、自分の顔なのに、見たことが無いほど自信に満ちた顔で微笑む。


『そうだ、お前こそ王の中の王となりし者。

我は徳の高いそなたの魂に引かれ、そなたの危機に現れた。

我が名はグレンロード。最初にドラゴンマスターとなりし王である』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ