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144、謁見の日

その日、朝から部屋で控えるように言われていたリリスたちは、昼前になってようやく午後からの謁見が許された。

城内では下級の魔導師ではあるが、身分の低い召使いの少年が巫子をかたって帰って来たらしいと噂で持ちきりだ。

特にリリスはその外見に特徴があったこともあり、知らない者がいないほどの嫌われ者だったので、あまり良い噂ではない。

一度も本城へ来たことがなかったブルースが、謁見前に城内の案内をザレルの部下に頼み、一緒に周りながらため息をついて苦笑した。


「リリス殿は随分嫌われておいでで。」


皮肉を込めて、ブルースが案内の騎士シーラムに話しかける。

シーラムはブルースとは同年代で、騎士としては中堅だ。

ザレルにはリリス一行の世話を頼まれ、他の2人と共に色々と手はずを整えてくれている。


「まあ、ここはレナントよりも上下が厳しくてね。

こう言ってはなんだが、あの子は見た目も悪いから特に毛嫌いされているんだよ。

騎士長の養子にと話が出た当時は、噂ももっと酷かった。ガーラントに話を聞けばいい。」


「そう言えばガーラントも見た目で判断したことを、ひどく後悔していたな。

今はあの子の一番騎士だよ。

俺もあの子は綺麗な子だと思うがね。」


「さあ、色さえ気にしなければそうだろうな。

騎士長も随分可愛がっておいでだ。あの子を養子になさるお気持ちはわからんではないが……アトラーナじゃ社交の界に出るのも無理だと思うな。

まして巫子なんて、なんでそんなこと言い出したのか、騎士長が落胆される結果にならなければいいがね。

じゃ、そろそろ戻ろうか。」


シーラムは苦笑いして首を振る。

ザレル殿の部下でもこれか……これは、理解されるにはかなり厳しいものがあるな。

リリスへの本城での厳しい待遇が、ブルースはここに来て初めて肌で感じた気がした。


「これでは諦めたくなるのもわかるな……」


まず、彼を理解しようという人物がいない。

辛うじて義父のザレルと、宰相の息子か。

しかし宰相の息子は、まだ肩書きも持ってないらしいから弱い。


ブルースが、うっすらヒゲの生えた顎をさすってため息をつく。

グルクの小屋も行って、ミランとガーラントが話し合っていた、いざというときの退路は確認した。

リリスを殺させるわけにはいかない。

巫子と認められず罪人とされるようなら、自分とミランは盾になってもこの城からリリスを逃がし、レナントへ連れて帰る。

これは主ガルシアからの頼みであり、珍しくも命令だ。

命をかけよなどと言わない人が、そう言って目を閉じた。

もし彼のために自分たちが捕らえられても、ガルシアは手を尽くすと。


「巫子なれば、尊いお方。それをお守りして死ぬは本望でござる。だが、俺はレナントで死にたい。

意地でもみな生きて帰りましょうぞ。」


ブルースはそう言って、ガルシアの命を快く受けてきた。

あとは、リリスが切り抜ける事が出来るのかどうかだ。

昨夜からを見ていると、まったく落ち着いていて腹立たしいほどだが。


「腹のすわったガキだぜ。そのガキの力を当てにする俺たち大人も相当ずるいがな。」


刻々と時は過ぎる、今レナントはどうなっているのか、早く帰りたいと言う気持ちを飲み込み、リリスの事に集中すると心を引き締めた。





謁見を控え、側近たちと共に玉座に向かおうとする王に、廊下で后が身支度を調え頭を下げた。


メイスの呪が原因で体調が思わしくなかった彼女は、久しく公式の場に姿を現していない。

最近セフィーリアの処方した煎じ薬の効果もあるためか、すっかり元気を取り戻しようやく朝と夕の城内の散歩にも出ている。

食欲も出たこともあって、以前のように侍女達ともお喋りを楽しむことも苦ではなくなり、

巫子と申し出てきた少年にひどく興味が沸いてきた。


「いかがした、お前はまだ控えていなさい。」


「いえ、ご一緒させていただきとうございます。

私も随分王妃としての仕事を休んで参りましたが、これを期に復帰致しとうございます。」


王妃の力ある声に、確かにもうそろそろ、その期だろうとは思っていた。

だが、さすがにリリスと会わせるのはまずい。

産後、引き取ることになったセフィーリアが最後にあの子に会わせたとき、悲鳴を上げて錯乱したのが記憶に新しい。

あの時、赤い髪を血と勘違いして死んだと思いこんでしまった事を、否定せずそうだと伝えた。

だまして子を取り上げたことが、ずっと王には負い目になっている。

まさか、皆に口止めしたはずだが、あの子が来ていると知っているのだろうか?


「今日は罪人かどうかを判断せねばならん、復帰は次にせよ。」


厳しく言い、先を歩き出す。

だが、后は構わずあとを追ってきた。


「キアナと旅をした魔導師見習いの子なのでしょう?

皆、たいそう身分の低い子が巫子にと言ってきたと噂してますわ。

その巫子の審査に入るかどうかの可否を判断されるとお聞きしました。

なればこそでございます。

その判定には、私も加わってよろしいのでしょう?」


「勝手に決めるな、誰もそのようなこと……」


強く言い聞かせるつもりで振り向いた。

が、后は穏やかに微笑み毅然と立っている。


「あなたを驚かせようと思って支度しましたのよ。

どうぞお供させて下さいませ。

巫子の判定など、滅多に見られる物ではございませんでしょう?」


この微笑みは、何を言っても聞く耳持たぬ顔だ。彼女は元来男勝りで気が強い。

病で寝込む前は、裁縫片手に剣も練習を欠かさなかった。

キアナルーサの気弱な性格は、どちらかというと自分に似ている。

王は諦め、渋々承諾すると、側近にはリリスに顔が見えないよう厚いベールを付けさせよと、ささやくように命じた。

これまで火の巫子は、巫子の審査さえ受けられず暗殺されてきました。

なので王家では、王子に赤い髪の子が生まれないことが最善となってしまいます。

本来、王家に巫子が生まれることは、精霊との良好な関係の証しであり、誉れ以上の何物でも無かったはずなのです。

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