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135、欲の善し悪し

レスラカーンが去ったあと、リリスの部屋では少しガッカリとしてブルース達がまたテーブルを囲んでいた。

王族の一人、宰相の息子の助け手を、むげ無く断ったリリスの欲のなさに呆れる。

ムスッとした顔で腕を組むブルースが、これ見よがしに大きくため息をついた。


「あんないい申し出を断るとは……リリス殿は味方を増やそうと思われぬのか?」


「いえ、そう言うわけではございません。

今はその期ではないと思っただけです。

それにこう言うことは、私から頼みに参上することが筋でございましょう。

あのお方が周りの反対を押し切って私にお味方なさっても、後々孤立なさるのでは意味がございません。

それは私も望まないことです。」


「そ……そうだな、変に憶測を呼んでもまずかろう。」


思慮深いリリスの言葉に、ブルースがキョンとする。

どっちが年上なのか、わかったものじゃない。


「ところでリリス、元気だったかニャ?ヨーコはどうしてる?」


アイ猫がテーブルにピョンと跳び上がり、リリスに首をかしげた。

ふと見ると、猫の首輪代わりのハンカチに、小さな紙が挟んである。


「失礼、なにやら紙が」


ブルースが取り、広げてみる。

皆で覗き込むと、中にはレスラカーンのサインがあり、そこには本城内には未だ隣国の魔導師の手先らしい者が、潜り込んでいるようだと注意があった。

青い蝶にご用心と。

密かにどこかで聞き耳を立てている様子なので、内密な話ではご注意なされよと書いてあった。


ブルースがシッと指を立てる。

リリスがうなずき、指を組んで呪を唱えた。


「我が名をもって我が結界とす、閉じよ!」


ストンと、なにか遮断されたような、わずかに閉塞感が部屋を包んだ。

ミランが周りを見回し、窓から外を見る。

外の景色は普通に見える。


「声は漏れないんですか?」


「ええ、立ち入ることも、声を聞くことも出来ません。ただ、閉じた空間はことわりに逆らう物なので、あまり長くは続けられませんが。」


「じゃあ、レスラがキアンの様子を教えてあげなさいって言ったんだけど、話していいかニャ?」


「王子の?是非教えていただけないでしょうか?

私はどうも、不在の間にご不興をかってしまったようです。出来れば訳が知りとうございます。」


ヨーコが元気にうなずく。

やっぱりレスラの助言のおかげで、リリスのためになる事が嬉しい。

ヨーコは最近のキアンの不安な様子や、ゼブラのどこか不穏な言動、王の体調が一時思わしくなかったことなど、リリスが旅立ったあと自分が来てからの話を思いついただけ話した。


「なるほど、やはり私が玉座を狙っていると思われてしまっているのですね。」


ヨーコがうなずき、騎士達がやはりと顔を合わせる。

ガーラントがため息をつき、思っていたことを話し出した。


「どうも……先ほどの王子や貴族殿のお言葉には、この国の厳しい現状が良くご理解なさっておられないような印象をお見受けした。

どさくさに紛れて身分を上げようなどと、この国の事態とリリス殿の真剣な様子から、まず浮かぶような現状ではないはず。」


「そうだな、兵に少し話を聞いたが、上の者達は魔物に対して緊張感に欠けているようだ。

まあ、矢面に立つのは下の兵に騎士達だ。

貴族や王族は後ろでコソコソやってるだけだからな。」


「聞こえないからと不謹慎ですよ。」


ブルースが、鼻で笑って肩をひょいと上げる。

ミランがそう言えばと、ルネイ達に聞いた話を思い出した。


「そう言えば弓を頂いた時にレナントで魔導師の方々からお聞きしたんですが、巫子の審査は普通、魔導師と長老、各役職の長、地の神殿から城に務めておられる神官殿、王族、貴族の長と、意外と多人数らしいですよ。

正否は多数決の後に、総合して王族がご判断なさるとか。

でも、まずは王に認められて審査開始の許しを得ねばならないそうです。

今回は多少緊急性をご理解いただけていれば、人数を絞った形かと存じますが、まずは王にその許しを得ることが第一の段階ですね。」


「はい、レナントへ一日も早く戻れるよう頑張ります。」


「えええ〜!また戻っちゃうの?」


アイ猫がガッカリして、リリスに飛びついた。

リリスが膝に抱き、申し訳なさそうに頭を撫でる。


「ええ、今レナントは最前線となっていて大変な状態なのです。

私も戦力の一つになっておりますので、いち早く戻らねばなりません。」


「ええ〜、じゃああたしも行こうかニャア。

ヨーコと一緒に帰りたいし。」


「そうですね、じゃあそれまでにお考えになっていて下さい。

私に余裕がない時は、彼らレナントの騎士様に。ミラン様お願い出来ますか?」


ミランがうなずき、アイも彼ならと気に入った様子で話がまとまった。

アイはまた、キアナルーサの様子を偵察する意味もあって部屋に戻って行く。

リリス達も二部屋に別れ、その夜は数日ぶりにゆっくり休むことにした。


「ガーラント、何かあったら起こせよ。と言うか、ぐっすり寝すぎて寝首かかれるな。外に兵がいてくれるが……」


「わかってる。兵だけを当てにはせんよ。」


手を上げ、ブルースとミランは隣室へと入って行く。

部屋が中で繋がってるのは都合がいい。

従者付きの客人用の部屋だろうが、これならと、騎士3人もようやくベッドで休めることに少々気を抜いた。


ベッドに入り、フッと一息吐く。

ガーラントもようやく剣をかたわらに、隣のベッドで休んだのを見てリリスも目を閉じた。

キュアはリリスのベッドの枕板の上に留まって、じっとりリスの顔を見下ろしている。

その頭の青い光りが、部屋を柔らかく照らして落ち着いた。


「リリス殿、あの猫のことですが。」


「はい?」


「レナントへはご自分でお連れ下さい。

ミランもブルースも大の猫嫌いです。」


「え?そうで……したか?わかりました。」


ネコ嫌いには見えなかったけど……

……あ、ああ、そうか……


つまり、生きて自分で連れ帰れと言う事か。

もしもの時を思って自然に頼んだつもりだったのに、見透かされちゃったな……


リリスが苦笑して目を閉じる。

フレア様は、やはり来て下さる気配が無い。

自分は見捨てられているような気持ちになる。


母上しか王城には来られていないのは、なぜなんだろう……


地の精霊王であるヴァシュラムでさえ、この大変な危機に陥った事態でもアトラーナに帰ってくる気はないのか……

そう思うと、イネスの不安な気持ちを考え少し気が重くなった。


大人の直球考えより、その後まで考えるリリスは厳しい中で育っただけ思慮深いのです。

こうしたらどう言う反応があるか、先の先を読んで生きてきました。

それが生きています。

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