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132、宰相の息子

リリスの部屋は、ザレルと並びで二つ隣に用意されていた。

その続き部屋に、ブルース達も休むように準備して貰っている。

良い部屋で、ザレルの使用人のままであったなら許されなかったろう。

巫子だと申し出ても、認められなければ身分は何も変わらない。

ザレルもまさかこのような状況になるとは思っていなかったが、彼を守るためにも養子の申請を急いで良かったと安堵していた。


だが一方……


リリスは奥のベッドに膝を抱えて座り、キュアを頭に乗せたままションボリ肩を落としていた。

リリスの横のベッドにはガーラントが休むようにしているが、今は入り口にある小さなテーブルを他の2人と囲んで対策を話し合っている。

3人はチラリとリリスの後ろ姿を見て、そろってため息をついた。


「リリス殿、喜んでいいのですよ。良かったではありませんか、ずっとザレル殿の子供になりたかったのでしょう?

あなたは使用人のままでは身分が低すぎます。これで動きやすくなるではありませんか。」


「………だって、どうして今……」


何度慰めても、返ってくるのは同じ答えだ。

どうして今なのか。

リスクの多いリリスには、あまりにもタイミングが悪すぎる。

もし巫子がかたりだとされ罪を問われても、それが使用人と家族では迷惑をかける度合いも大きく違ってしまう。


自分は死んでも、誰にも迷惑をかけたくないのに…………


……そうだ、いっそ破棄してもらおう。

いっそ、使用人も首にしてもらおう。

何もしがらみはない方が、ダメだった時も気がラクでいい。


キュッと唇を噛み、心を決める。

流れる涙と鼻水を、ごしごし拭いて顔を上げた時だった。


コンコン

「レスラカーン様がお見えでございます。」


ドアの前で警護してくれるザレル付きの兵が、ドアを叩いて教えてくれた。


「レスラカーン殿?……」


「王の弟君、宰相サラカーン様のご子息です。

私もお会いしたことはないのですが……確か目が御不自由だとお聞きしております。」


宰相の息子が一体どうして来られたのか、不思議な面持ちで4人顔を見合わせる。

慌ててリリスがベッドを降り、彼の頭にいたキュアが飛び立って近くに留まった。

ドアを開け、一同が頭を下げてレスラカーンを迎える。

ライアが手を引き、鋭い目で見回した。


「こちらは王弟、宰相サラカーン様のご子息レスラカーン様である。

貴方らにお尋ねになりたいことがあり、わざわざ足をお運びになられた。

無礼の無いよう。」


「にゃあ!」


突然、ネコがレスラカーンの横をすり抜け、リリスに飛びついた。


「わっ!こ、これは一体……まさか?!」


「にゃあ!アイだにゃあ!会いニャかったあ!ヨーコは?ヨーコはどこニャ?」


「ヨーコ様は、レナントに居残りで……ああ、お久しぶりです。」


「ヨーコ来てにゃいのお??」


アイネコがガッカリうなだれる。

ネコを抱くリリスを、横からガーラント達が呆然と見つめた。


「ネ、ネコが喋った……」


「あっ、これは訳がございまして。私を心配して来て下さった方なのです。魔物などではございません。ヴァシュラム様のお知り合いで……」


慌てて説明するリリスに、ガーラントがわかったと手を上げる。

ひとまずブルースもレスラカーンにあらためて頭を下げた。


「失礼しましたレスラカーン様、このようなところに良くおいで下さいました。まずはどうぞこちらへ。」


ブルースが前に出て、一礼して椅子を勧めた。

レスラカーンを座らせて、ライアがかたわらに立つ。

レスラカーンが顔を上げ、リラックスした様子でテーブルの上で手を組んだ。


「ネコの彼女とは友人でね。喋ることは内密に頼むよ。

さて、休んでいるところを申し訳ないが、少しリリス殿と話がしたくてね。」


「あ、はい。私とでございましょうか?」

ヨーコがポンと飛び降りて、レナントから来た騎士を見る。

トコトコ歩き、じっと目で追うミランの横に座った。


「どうぞ、前にかけるがよい。そなたのことは、あのネコとフェリアから良く聞いていたよ。

フェリアは私を守って死にかけた、その事については詫びを言いたい。済まなかった。」


ハッとライアとリリスがレスラカーンの顔を見る。

彼は少しうつむき、唇を噛んでいた。


「もったいない……お言葉でございます。

フェリア様は私のお仕えする主のご息女様ではございますが、とても懐いて頂いておりました。ですがそれだけでございます。

私などにお詫びなど、とんでもございません。」


ああ……そうだったのか、あの子はあの小さな身体で、友人のために命をかけて戦ったのか。



ライアがリリスを側に招きレスラカーンの前に座らせる。

二人の間に、フェリアが明るい顔で座っているような、そんな気がして心が落ち着いた。


「私を襲ったのは魔導師の塔に住まうメイスと言う使用人であった。

捕らえようとしたが、魔術を使い塔を破壊して逃げてしまったのだ。捕らえれば背後にいる者のことも聞けたろうに、残念だ。」


ガーラント達が思わずリリスを見る。

メイスのことは、今喋るべきではない。だが……


「メイスは……レナントで保護いたしました。」


リリスは彼に、隠し事をするべきでは無いと判断した。

レスラカーンは目が見えません。

だから、彼の容姿に捕らわれないのです。

それは目の見える人間とは違った見方をします。

彼が耳を傾けることは、見極めようとする姿勢の現れです。

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