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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
13、望まれない帰還

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130、精霊の心

食事のあと、用意された部屋にそれぞれが別れてゆく。

リリスの部屋にはガーラントが控えることにして、中で続いている隣室にはミランとブルースが休むことにした。

廊下には兵がザレルの指示で配置され、二つ隣はザレルの居室とこれ以上ない好条件だ。

これで今夜はゆっくり休めると思いたい。



落ち着いた頃、ザレルの部屋に夕食の給仕をした侍女の一人と一人の女魔導師が尋ねて来た。

まだ書類に何か書き物をしていたザレルに、侍女がそっと頭を下げる。


「どうだったのか。」


ザレルがひっそりと尋ねる。

侍女がうなずき、横にいる女魔導師に視線を送った。


「やはり、一人騎士が接触してきました。

その時入れられた物かと。こちらですぐに替わりの物を用意してお出ししました。」


女魔導師が杖をくるりと回す。

そこには揺らめく水面が現れ、先ほどの騎士との様子と果物のジュースで毒味の術をかけた水が黒く変色する様子が映し出された。

ザレルが何故か、フッと笑う。


「わかりやすい事だな。」


「はい、恐らくこの騎士殿の本意ではなかったのでしょう。

ひっそり入れられたのであれば、そうとは限りませんが。

しかし、入れられた事に変わりはございません。」


杖を逆に振って水鏡を消し、とんっと床を突く。

部屋が奇妙にシンとして、この部屋の空間が閉じられ外部と遮断された。


「この騎士は最近、金に困っているらしいと聞き及んでいる。大方そこに目を付けられたのだろう。

しかし、本当に毒殺しようとするとはな。」


「シールーン様によれば、幾度か火の巫子を名乗る少女や少年が許しを得に来たようですが、そのたびに密かに暗殺されているそうです。

最初は共にフレアゴート様も登城されていたようですが……」


「フレアゴート殿でも守れなかったと言うことか。」


「はい……

火の神殿は遙か昔、精霊と人と輪廻を取り持ち、浄化し魔を払う最も頼りにされ、慕われた神殿だったそうです。

特に王家から多く巫子を輩出したために、この国でもその地位は格段に高かったと言われています。

それは返せば、王家にとって鼻につく目障りな存在だった事でしょう。

王家としては、その再建は良しとしないことかと。

それに、シールーン様が昔ふと漏らされた事ではありますが、フレアゴート様は何か大切な物を王家に握られているとか……」


女魔導師はルークが水の神殿からスカウトしてきた新しい魔導師の塔の魔導師だ。

彼女は果たしてどちらの味方なのか、心にある情報をストレートに伝えてくる。

それは、今のザレルにはとても助かる情報で、彼女はリリスの事も知っているらしく力になってくれた。


「なるほど……どうも王家とドラゴンの間では、いにしえに密約が交わされたようだな。

その大切な物とは恐らくラーナブラッド、フレアゴートの第3の目だろう。

それと、先ほどリリスから聞いたのだが、火の巫子の指輪がここにあるはずだと。」


「ラーナブラッド?!あれが第3の目だと仰るのですか?

……なるほど、それは存じませんでした。シールーン様も多くは語られませんので。

しかし、あれはご存じの通り王子が再契約の折りに携帯してドラゴンたちによって再生します。

奪い返そうと思うなら、その時にもできるはず。

さすればその巫子の指輪でしょうか。

火に関すれば、世に火の精霊という物を見たことがございません。

精霊のいない火は魂の抜けたような物。

いったいどこに封印されているのでしょう。」


「なるほど、眷族を封印されているか。

なるほど……うむ、火の神殿に関しては、取り潰しになる時の記録が全くない。

その封印に関する大きな密約なれば、何か必ず残っているはず。

証文となる紙かもしれんし言葉かもしれん。さて……」


「精霊の文字は、我ら精霊の道が見える者と精霊にしか見えぬ物、証文を残すとは考えられません。

言葉は移ろいやすく、長く伝えて行くのに向かないでしょう。

精霊が誓約に残すのは、多くは水晶や金細工のような物です。

ですが王にはそのような気配を感じません。

どこかに仕舞われているのか、封印されているのか……

我ら古書を読みあさる者でも、そのような話を聞いたことはございませぬ。

それに……今の王を見ましても、もしや伝えられていないのではと……

そう考えますと、それは王が代々受け継がれる、身につける物とか……」


「なるほどな、日頃身につけられぬ物か……王の側近に味方となって下さる方がいればいいのだが、ああ嫌われているのでは望みは薄い。」


ザレルが腕を組み、考え込んで顎の無精ヒゲをザリザリと指でこする。

ザレルとリリスの関係には、籍を入れたからここまで肩入れするワケではないのだろう、もっと深い何かを感じて、女魔導師が問いかけた。


「もし…………かりにそれが分かったとして、どうなさるおつもりか。」


問われて、ザレルが真顔で女魔導師の顔を見る。

それは、この国の騎士の長と言うよりも、国の行く末を考える顔だった。


「そうさな、制約が破られれば、このアトラーナ王家の威信は先々において大きく揺らぐやもしれぬ。

だが、フレアゴートは巫子を得て火の神殿を再建することが出来るだろう。

アトラーナは今、王家が権力を独占して精霊達は力を持ちながらも隷属している。

精霊の国と言われながら、精霊の心は人から離れている。

それはこの城の窮状に、他の精霊が駆けつけることもない状況からも明白だ。


この長い年月の中で、すでに王家とドラゴンの間で交わされた密約は、この国に悪い影響を与えている。

精霊の国でありながら、精霊によって揺らぐなどあってはならんのだ。

今、もし王に何かがあったなら、隣国は一気に攻め込んでくるだろう。

キアナルーサ王子は婚約も破棄されようとする舐められよう。冗談ではない。

ここで火の神殿を興し、精霊の国の威信を取り戻す事はアトラーナの発展に繋がる。

俺はそう思うのだ。

だが、それは次代を担う王子、そしてそれを支える者の手にもかかってくるだろう。


精霊と共に発展出来ねば、アトラーナに先はない。

精霊と共に生きる精霊の国として、この国は原点に返るべきだ。」


言い切るザレルの言葉に侍女と女魔導師が息をのむ。

魔導師達は知っている。

このアトラーナという他国に囲まれた国が、いかに小さな国であるかを。

だが、精霊の国であるからこそ、この国は攻められる事もなくここまで長らえてきたのだ。

それを、王家は失念している。

それを、あらためてこの騎士長でしか無い男に突きつけられ、水の神殿から来た二人は大きくうなずいた。

精霊の国だからこそ、長らえたのです。

聖域だから、神殿が集まっているのです。

精霊を敬う気持ちが無ければ、神様は他にパワースポットを移してしまうかも知れません。

神がいてこその聖域なのです

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