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126、真贋(しんがん)

ザレル……様に?ご迷惑が……?



自分のことばかり考えていたが、まさか主人にまで迷惑をかけるのだろうか?

王子の言葉にも、少しも信じて頂けるような様子がない。

誰にも信用して貰えなかったら、最悪の結果になるに違いない。


どうしよう、どうしよう、もし、もし……


胸の鼓動が早鐘を打ち、何度も取り押さえられて自分に剣が向けられる光景が浮かぶ。

でも、それでザレルまで迷惑をかける上に左遷されるようなことになったら。


どうしよう、どうしよう



「リリス、さあ、部屋に戻ろう。」


ポンと肩にザレルの大きな手を置かれ、リリスの身体がビクンと跳ね上がる。

顔を上げることが出来ずにいると、ザレルは固く小さくなっているリリスの肩をグイと引いて歩き出しながら囁いた。


「惑わされるな、お前は自分の進む道を信じるのだ。」


「ザレル……様……」


「顔を上げよ。お前の意志の強さを皆に見せるがいい。」


唇を、ギュッと噛んで顔を上げた。

厳しい瞳のその顔は蒼白であったが、ザレルの変わらない表情を見ると少しずつ色を取り戻して行く。

ザレルがニッと笑って、肩を力づけるように叩いた。


「よし!まずは旅の汚れを落とし、それから食事だ!腹が減っては戦も出来ぬ!」


「はい!」


ニッコリ微笑み、心配そうなガーラント達に大丈夫とうなずく。

ブルース達もホッと一息ついて、いつもの調子で陽気に声を上げた。


「おお!やっとまともなメシが食える!

是非、ご一緒させて下さい!」


「もちろんだ、息子が世話になった礼もしなければな。良い酒を準備させよう。」


「なんと!酒だぞ、ミラン!」


「飲まないって、言ってませんでしたっけ?」


「馬鹿者!酒は飲むためにそこにあるのだ!

空は寒かったから、身体が温まってちょうど良いではないか!はっはっは!

さあ、湯浴みでさっぱりするぞ!」


ブルースのひときわ大きな声が、普段静かな城に響き渡る。

広間にひっそり残っていたレスラカーンが、何か考えているように首をかしげた。


「いかがなさいましたか?お部屋にお戻りになられますか?」


「そうだな……ライア、ちょっと気になることがあるんだ。あとで彼の部屋に行ってみようか。」


「は?彼とはリリス殿でございますか?

しかし、微妙な立場であるあの方と、接触なさるのはあまり良いことと思えませんが。」


盲目のレスラカーンの手を引き、彼の側近ライアが部屋に戻りながら意見する。

もし、本当にリリスが嘘吐きで、それがレスラまで巻き込むようなことになればと思うと、よく考えて行動しなければと思う。


「ライア、お前は目で見てどう感じた?」


「そうですね、あの方はいつも頭が低くて、ご自分の地位は良く理解されていると思います。

それに護衛の騎士3名やザレル様にも大変大事にされているようです。

まだ15と聞きましたが、それだけの信頼を得うる者なのでしょう。

しかし巫子という物は精霊王が認めて証明される物です。巫子が自身だけで証明するのは困難でしょう。

まして、あの方は魔導師でもありますから、奇跡を起こしてもそれは魔導であると言われては、証明しようがありません。」


「なるほど、困難を極めるか。」


「巫子のかたりは死罪です。知っているでしょうに、やはり地位に目がくらんで大きな賭にでも出たんでしょうか……」


「そうだよ。知っている、でも自分は巫子だと許しを得に来たんだ。

城嫌いのフレアゴートが姿を現さないことは承知の上で。

これは命がけのことだ、それが何を意味するか。」


「まさか、本当に巫子だと?火の巫子など、絶えて久しいではありませんか。」


「ライア、絶えてなど……いなかったんだとしたら?

火の巫子は、ずっと存在していた。

フレアゴートが存在していると言うことは、そう考えられるんじゃないか?

過去にも火の巫子を申し出た者はあったが、すべてかたりだったと聞く。

それは本当にかたりだったのだろうか?


アトラーナは精霊の国、ここは王家と精霊は等しくならなければいけなかったのだ。

だが、現実は王家の力が勝っている。


ドラゴンに頼らなければ魔物も倒せなかったのに、ドラゴンは王に忠誠を誓い……

だが、王はラーナブラッドに忠誠の印を貰わなければ王になれないとされている。

矛盾だらけだ。

私はずっとそれを解き明かしたくてたまらないんだよ。

そもそもあのラーナブラッドという石は、一体何で出来ているんだ?

不思議に思わないかい?ライア。」


ライアがあまりの話に驚いて周りを警戒し、怪訝な顔でレスラカーンの顔を見る。

王家の人間が、王家と精霊との関係に疑問を持つことはタブーだ。

これまで誰も口にしたのを聞いたことなどない。

それは遠巻きに王家の権力を否定することであり、それを口にしてしまうなど、ずっと王家から離れるように過ごしてきたからこそなのかも知れない。

だが、あの頃と今は違う。


「王家があってこその精霊王、そして精霊の国でございます。レスラカーン様。

そこに疑問を持つことはタブーです、お控え下さいませ。」


ライアのたしなむような言葉に、レスラカーンがクスクス笑う。


「ライアには敵わぬな、わかったよ。」


「では、部屋を尋ねるのはご遠慮下さいませ。」


「いや、目で見えぬから聞かねばならぬ。

私には私の方法があるのだ。

タブーには触れるまい。」


ライアが目を丸くして、レスラカーンの横顔を見る。

これほど積極的に動かれることなど無かったのに。


お変わりになられた。


ライアは苦笑して、彼の手をギュッと握り返答した。


「承知いたしました、お心のままに。」


部屋へと歩き始めた二人の前に、深い緑のローブを羽織り、魔導師の杖を持った若い男が部下を引き連れ立ち止まり、頭を下げた。


「これは、長のルーク殿。なにか?」


「このたびのリリスの件で。少々お話をと思いまして。」


「何か先が見えましたか?王や王子に……」


「いえ、これはレスラカーン様にお力添えを頂きたいと思い参じました。」


ひっそり話すルークに内容を察してレスラカーンがうなずき、ライアをうながし先を歩く。

ルークの連れの魔導師が背後に目をやり、小さく呪を唱えて杖を一降りする。


パシンッ


音を立て、追ってきた青い光を放つ蝶が千々に散る。


「今の音はなにか?」


レスラカーンが見えない目を開き顔を上げる。


「のちほど」


ルークの重い声が、何か薄ら寒い気配を感じさせ、レスラカーンはライアの手をギュッと握りしめた。

ウソかほんとか、それを見極めようともしない人と、見極めようとする人とは大きな開きがあります。

元々火の巫子は神殿も無いので認める必要も無かったために、申し出があると密かに暗殺の憂き目に遭ってきました。

だからこそ、ガルシアは3人も騎士を付けたのです。

リリスは、彼が知らないところでも誰かが守って見ています。

火の巫子に代わりは無いのです。

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