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124、王城への帰還

日が傾き、沈む夕日を背にして、遠くの高台に美しくも懐かしい、アトラーナの王城が見えてきた。

ねぐらへ帰る鳥たちを横目に、冷たい風が吹く中をひときわスピードを上げブルース達が乗るグルクが先を行く。

ミランが振り向き、城を指さし城の手前にある森を指さす。

つまり、城か一旦森に降りるか、という事なのだろう。

ガーラントは迷わず城を指さし声を上げた。


「ガルシア様の命だ!城に行き王に謁見を願う!!」


ミランが手を上げ、わかったと合図する。

先ほど休憩時にも一応、リリスの義父であるザレルに連絡を付けて、先に城の様子を確かめてはどうかと相談してみたのだが、ガーラントは強気で行くらしい。

考えが変わらないと言う事で、ブルース達も腹を決めた。


城の上空に来ると、王家の一人であるガルシアの書簡を持っている事を印す、レナントの紋章の入った旗をミランが手に持ち城に向けて振った。

すでに薄暗いので見えるかどうかは運任せだ。

だが、魔導師から知らせは行っているはずなので、まさか下から矢が飛んでくることはあるまい。

ガーラントの背を、リリスが不安そうにギュッと抱きしめる。


「母上が、空にいらっしゃると思っていましたが……いらっしゃらないのでしょうか……」


寒いのか、不安なのか、リリスの唇が震える。

ガーラントが横にあるリリスの足をポンポンと叩き、大丈夫だと力づけた。




たいまつを持ってくるくると回す誘導に従い、すっかり暗くなった城の広場へとキュアとグルクが降りて行く。

ざわつきながら人々が集まり兵達が前に出て、隊長らしき男がキョロキョロ怪訝な顔で4人を見回した。


「私は衛兵7番団長のサーバーと申す。貴方らが連絡を頂いているレナントの騎士殿であろうか。

失礼ながら、確認の上で御用向きをお聞きしたい。」


ちらりとガーラントを見て、ブルースが前に出る。


「いかにも私はレナントの騎士、ブルース・ザナフィーと申す。

我らは現在魔導師の身分に置かれているリリス殿の……」



「リリス!」



声に顔を上げると、息を切らせてザレルが人をかき分け大きな身体で走ってくる。


「ザレル様!」


変わらない姿に、リリスがパッと明るい顔で走り寄った。


「ザレル様!リリスは……リリスは……」


久しぶりに見る姿に、思わず涙が浮かぶ。

ザレルが大きな手を広げ、リリスの肩を抱きしめた。


「よく、無事に帰ってきた。

お前の働きはこちらにもちゃんと届いている。

よく頑張ったな。」


「はい、……はい!」


ホッとしながら、涙を拭いてニッコリ笑う。

久しぶりに頭をグシャグシャに撫でられて、ようやくリリスの緊張がほぐれた。


「あの方がザレル殿か?」


ブルースとミランが、多少緊張して姿勢を正す。

ふと視線が合い、ガーラントがザレルに深く頭を下げた。


心の中で、申し訳ないと心から思う。

この人にとって、この子は本当に大切な息子だったのだ。

尊敬する騎士の、我が子にと選んだ人間を信じ切れなかった自分が恥ずかしい。

奴隷のずる賢い子供に騙されているのだという話を、自分は愚かにも信じてしまったのだ。


「ブルース、よくこの子を護ってくれた。礼を言う。

こちらはレナントの騎士か。なんと皆、血だらけではないか。

すぐにケガの治療を……」


「いえ!治療はリリス殿により済ませましたので、大事ありませぬ!

お、お会いできて、光栄でございます!」


ブルース達がザレルに話しかけられカッと血がのぼる。

狂獣と呼ばれ、名を上げた勇猛な騎士が、随分思っていたと違い柔らかくて驚いた。


「そうか、魔導師の塔からも連絡を貰っている。王子もご心配して朝からお待ちだ。さあ、広間へ。」


歩き出すザレルに慌ててリリスが話しかける。


「あの!王に謁見は許されますでしょうか?」


ザレルがため息をついたように見える。

恐らくはきっと、話は良い方には向いていないのだろう。

リリスが手を合わせ、唇を噛む。

ザレルは引き返してリリスの背に手を添え、並んで歩き出した。


「急くでない、それはあとで話そう。

まずは王子にお会いして今夜はゆっくり休め、食事をしながらお前の話しも聞かせてくれ。」


「はい。……あの、母上は……セフィーリア様はいかがされたのでしょう?」


「彼女はお前が来ることを知って、フレアゴート殿の説得に向かった。が、居所がまだつかめぬらしい。

配下の者から逐一報告は来てるのだが……何とも言えぬ、腹立たしい事よ。」


「いえ、……それは覚悟の上で参りましたから。」


荷物を下男達に任せ、皆が歩き出す。

その場から立ち去るリリスの背を見つめ、キュアが一鳴きすると羽ばたいた。


「キアアアッッ!!」


「な、なんだ?!この鳥!」


自分も連れて行けとばかりに、数回羽ばたいて身体が見る間に小さくなる。

鞍や荷物をドサドサ落とし、慌ててリリスのあとを追った。


「ああ、そうでした。おいで、キュア」


リリスが差し出す手を無視して、赤い髪の頭に止まる。

キュアは鳩ほどの大きさになっていて、髪をつつき置いてきぼりを怒っているようだった。


「いたた!もう!お前はほんとに私を馬鹿にしてますね。

忘れて悪かったのはあやまりますから、つつかないで下さい。」


「キキッ、キュルルル」


リリスの頭に止まる変わった瑠璃色の鳥に、ザレルがチラリと見る。

鳥のことを聞かれるかと思ったが、無言で広間へと進んだ。




日も暮れて遅い時間に、広間もひんやりと数人の側近と貴族が並んでいるのみだ。

やがてリリス達4人とザレル、その部下が、王子の姿を見て頭を下げた。

キアナルーサは特に変わりなく、リリスを見ると喜びの声を上げる。

しかしどこかよそよそしい印象もあり、王子が上座の椅子に腰掛けるとリリスは床に両膝を付いて、行きの旅の途中でのことを詫びた。


「レナントへの道中、皆様をお守りできなかった事は力不足でまことに申し訳なく……」


「良い、お前の働きはこちらにも届いておる。

お前無くては全滅であったろう、大儀であった。僕もお前を家来として鼻が高い。

しかし、用があって一時帰って来たとは聞き及んでいるが、お前がレナントの者を連れてくるとは思わなかったぞ。」


「はい、ガルシア様のお取りはからいで、身に余ることでございます。

おかげでこうして無事に城へ戻れました。」


「そうか、お前はガルシア殿の父上への手紙を持参してきたそうだな。

僕から父上にお渡ししよう。」


キアナルーサの言葉に、ゼブラが歩み出てリリスに手を差し出す。

迷いながらも、しかしこれは王へ直接と言い聞かされてきたのだ。

しかも、今自分は同胞の中にありながら警戒するしかない。

リリスは床に平伏して、それを詫びるしかなかった。


「これは、王へ直接お渡しせよとお言いつけの手紙でございます。申し訳ございません!」


王子の心証を悪くするに決まっている。

リリスはどっと冷や汗を流しながら、ただただ頭を下げた。


ゼブラがリリスを冷たく見下ろし、ため息をついて王子に目を移す。

キアナルーサも怪訝な表情をしながら、一息ついて背もたれにもたれた。

また新章に入りました。

まずは目指すのは王様に謁見して頂くことです。

フレアゴートは、ちっともそばにいてくれません。

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