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106、返してもらう物

「す、すいません。燃え移らないか怖くて。

私は家族を火事でなくした物で、火が苦手なのです。」


「そうだったのですか。私もこの鳥のことはよくわからないのですが……」


リリスがキュアにリリサレーンの指輪を差し出し、話しかけてみる。

果たして自分の言葉を聞いてくれるか、心配ではあったが……


「キュア……さん、その炎を収めて普通の鳥のように出来ますか?」


鳥をさん付けで言うリリスに、カナンがプッと吹き出した。

キュアは一声鳴いて、ゆるゆると火を収め頭から背中に火を残し、他を瑠璃色の羽毛に覆われた青い鳥へ変わる。

カナンがほうっと息をついた。


「良かった、このくらいなら。

私も服に火が付いてひどい火傷を負ってしまって、これだけは……どうもご迷惑おかけします。」


そう言って、カナンが襟を少し開けてやけどのあとを見せる。

首に引きつったケロイドが見えて痛々しい。


「それは大変でしたね。カナン様はそれで地の神殿へ?」


「はい、私は神殿で学び、療術師になるつもりです。まだ道は遠いのですが。

神殿には私のように親の無い子がたくさん居ます。みんな一生懸命です。うふふ」


療術師とは、医師と魔導師の間のようなものだ。

二つの長所を生かし、患者の痛みを和らげ早く直す。

しかし、長い修行を要する為にこの世界では非常に少ない。


「とてもすばらしい事ですね。

……そう言えば、なぜ私を火の巫子と?」


「セレス様がキュアに語りかけられていたのです。それに、ここは噂も早いですよ。

明日になったら、皆あなたを巫子様とお呼びになるかもしれませんね。

うふふ、私もうすうす、あなた様は巫子ではないかと思っておりました。

でもてっきり風の巫子だと思っていたのですけど。はずれましたね。」


「そんな……滅相もない。私は魔導師のリリスで十分でございます。」


微笑む小柄の少年は、リリスよりもまだ3つ下だ。

でも、優秀で気が利いて勉強熱心な彼は、いずれ神官にと話があるのを聞いている。

神官も色々階級はあるが、人の為に直接関わる物ではない。

彼は目指す物が違うのだろう、それを蹴って医の道を歩いているらしい。

リリスは年下の彼を、とても尊敬していた。




メイスの側についていると、やがてセレスが部屋に帰り、居間にリリスを呼んだ。

椅子に向かい合って座ると、セレスが落ち着かない様子で足を組む。


「さてリリ、さっきガルシア殿と話をしてきたよ。

お前も準備でき次第、本城へ旅立つようにとこれを。必ずお前の手から、直接王に手渡すのだ。」


そう言って、リリスにガルシアから王への口添えの手紙が差し出された。


「えっ、あ、はい」


わかってはいたが急なことでリリスが息をのみ、震える手を出し受け取る。

その瞬間、セレスが彼の手を取り、そしてギュッと握りしめた。


「セ、セレス様……」


それは、本城の人々と戦うこと。

やもすれば、それはキアナルーサさえ敵に回す。

今乗り込んでも、味方が果たしているのかどうか、手打ちにされればすべてが終わる。


「キュアに鞍を載せられればキュアに、無理ならグルクを貸して下さるそうだ。

お前は乗ったことがないだろうから、騎手をガーラントがやってくれる。


あと、レナントから2人護衛に付けて下さることになった。

これはお前にガルシア殿の後ろ盾があることを意味する。

安易に剣を向けることはなされぬはず、きっと彼らが守ってくれるだろう。

グルクなら、休みながらだと本城まで2日で着ける。


本当は、私が共に行った方がよいのであろう。私は真実を知っている。

……今は、まだその時ではないのかもしれない。本当は、もっとゆっくり事を進ませたかった。

だが、お前は行かなくては。

向こうにはセフィーリア様がいらっしゃる。

きっと力になって下さるだろう。」


「私は……子と、認められずとも……良いのです。」


「わかっている。」


「私は、母様と、ザレルを父とそれで……」


「わかっている。

だが、お前が手にしなければならぬのは、成り行きとは言え世継ぎの印となっている物。

何とか説得せねば、道が開けぬ。」


「……私には、……私には、きっと………出来ません。」


声が小さく消えてゆく。

自信がない。

とても怖い。

どうして自分が指輪と目玉を手に入れなきゃ駄目なのか、よくわからない。

自分はただの召使いで、今後を考えて魔導を教えて貰って、家族をただ欲しくて……それ以上を望んでないのに。


「リリ、お前が指輪を手に入れることで火の巫子となる道は出来る。

だがそれは、お前の意に沿う物ではないことはわかる。

しかし今はフレアゴートの力が必要なのだ。


この一件にはあの災厄の原因となった物の気配がする。

あれはきっとアトラーナを滅ぼすだろう。

今は、ヴァシュラム様がリューズの力を押さえている。

だからこそ、身動きが取れずにあの子を使っているのだ。」


「どうしてそこまで!なぜそのようなことをなさるのです!」


「それは……」


セレスが視線を落とし、唇をかむ。

いつも自信に満ちた彼の、そんな表情を見るのは初めてだ。

しかしセレスは顔を上げ、そして後悔に満ちた言葉を発した。


「すべては……私のせいだ。リリ、私が……」


「セレス様」


「話しただろう、その頃巫子は一人だった。

だからこそ、神殿同士の繋がりも深く、我らは助け合って人々を救うことにも全力を傾けていたのだ。

だからこそ、リリサレーンを救えなかったのは心残りでならない。

リューズを操る者はひどくこの国を恨んでいる。」


「操る者?それは……いったい」


セレスが悲しい顔で首を振る。

それはまだ、話す時では無いのだろう。


「精霊の国が精霊を利用することばかりを優先してきた、それが歪みを生んでしまったのかもしれない。

精霊には精霊の、人間には人間の、大切な物があり、しきたりがあり、その間を取り持つのが我ら巫子だ。

火の神殿を再興するかしないかは、お前とフレア様の気持ち次第だ。

だが、お前は一人ではないことをどうか忘れぬよう、精霊は、常にお前の横にいる。」


「は……い……」


大きくため息が出る。

リリスには、考える暇がない。

何もかもが急ぐことばかりで、あまりに重いことが肩に覆い被さってくる。


「私には、お断りしますと言うことが出来ないのですね。」


苦笑いで顔を上げる。

セレスが苦笑してリリスの隣に来ると彼の肩を抱いた。


「静かな生活が送れる時はまだ遠い、それは皆同じだよ。

リリ、イネスを頼む。

あの子はしっかりしているが、純粋すぎる。」


「セレス様も絶対にお帰りになって下さい。

約束です。」


「もちろん、私は死なないよ。

あの、メイスと言う子は一旦イネスに託す。だが、またリューズに利用されぬ保証はない。

後ほど地の神殿に移るまでは何とか守ってやらねばな。」


「はい、私も急いで帰るようにします。

何とか、指輪と目だけは……せめてお貸し願えないかと……」


「それは無理だ、答えは返すか、返さないかの2つしかない。

フレア様は気まぐれだ、あやふやな事を言っていると手を貸してはくれないだろう。

王も同じだ、お前は火の巫子であることを貫き、返して貰うことだけを願うんだ。

国を救いたいという、強い意志が試される。

とりあえず指輪と目。神殿の再興や世継ぎのことは後回しだ。」


「後回しに出来ますでしょうか。」


「こう言うの、問題の先送りって言うんだよ。

ひとまず、とりあえず、とにかく先に。ってね。」


「はあ……頑張ってみます。」


セレスがリリスの頭をポンポンと叩く。

そして椅子の背もたれにとまるヨーコ鳥を指さした。


「それとその鳥、異世界人だろう?良く話しをしているね。」


「え、はい、ヴァシュラム様の術で、一時的にこちらの世界へ……」


「わかっているよ。

済まないが今回、イネスの手助けをしてくれないか?異世界人にはこちらの魔導は効かない。

イネスの力になって欲しいんだ。」


「え、ええーー!!チュンチュン!私いやよ!チュン!」


「そうだな……はっきり言うと、君がそばにいるとキュアが焼き餅を焼くかもしれないってことだよ。

言うことを聞かなくなっても困るだろう?」


「う、うーんそれは〜」


私、リリスの足手まといは嫌だわ。

むう、あっちも鳥だし、こっちも今のところ鳥だし……

これでアイとも会えると思ったのに。

でも……


「わかったわ、でも今回だけよ。」


「すまぬな、しかしイネスには心強い。

それでは、よろしくな。」


セレスが立ち上がり、また部屋を出て行く。

手の中の手紙は王族の紋章が押してある。

息を飲んで、落としそうになって慌てて握りしめた。

セレスの話は重要なので、ちょっと長めで。

彼は厄災の当事者だったので、王家がねじ曲げた物を戻したい気持ちでいっぱいです。


王家は隠し事が増えて、火は神殿を失っていますが、それ以外にもたくさんのことが変わってしまったのでしょう。

見てきた者の苦痛は計り知れないのでしょうね。

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