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105、問題山積

リリサレーンは確かにこう言った。


「はい、フレア様の3番目の目を取り戻せと。」


「やはり。

それにあの保護した巫子。

今はイネスの剣で糸が断ち切れているが、あの子はリューズと繋がりやすい。

繋がるとあの子はリューズの手足となって、都合の良い武器になるだろう。

すでに何年も酷使された上に今回の事で心も体もすり減らしている。

もう二度と繋いではいけない、今のまま無理をさせたら心が壊れてしまう。

あの子は大切な、本当に大切な”入れ物”なのだ。」


「入れ物??あいつ、巫子として本当に必要なのですか?」


なんの巫子か知らないが、あの年まで修行無しで精霊の道も見えないド素人を、兄はどうして今さら修行させようと思うのかわからない。

だがセレスは厳しい顔で、ぴしゃりとイネスを叱った。


「イネス、お前がそれを口にする事は、自分自身の存在意義も脅かす事だ。

口を慎み、お前がリリスの不在の間は守るのだ。」


「は……はい、申し訳ありません。」


シュンとするイネスに、ガルシアがクスッと笑う。

まだまだ子供だなと、この素直な地の巫子が可愛く見えた。


「我らレナントの民は、イネス殿に期待しているよ。

貴方の力は心強い。余計な気を払い、どうか民を守って欲しい。」


「はい、申し訳ありません。

私も百合の戦士、ここへ残るからには全身全霊でお守りいたします。」


大きくうなずき、そして腕を組む。

ガルシアには、しかし本城にあるという言葉には確かに大きな壁があると思った。

本城にあるとしたら、宝物殿だろうと浮かぶ。

だがあそこは、何か行事がないとそうそう開く物ではない。

そこはたとえ王族でも、王の許しがないと足を踏み入れる事さえ出来ない場所だ。

自分もこれまで一度も行ったことも、その部屋がどこにあるのかさえ知らない。


「うむ……しかし本城か。それは困ったな。

子とも認めぬ貴方の言葉を、どこまで取り合ってもらえるか。

俺も一筆書いてはやれるが、あとは自分で説得するしかない。

しかし……ドラゴン殿の目玉まであるとは初耳だな。」


「ガルシア殿、先ほど申し上げたではありませんか。

ラーナブラッドはフレア様が契約の証しとなるように、ご自分の目をお与えになった物と。」


セレスの言葉に、一口飲み込もうとした茶を思わず吹き出しそうになった。

咳き込むガルシアに、慌ててレイトが背を叩く。


「あ、あれは!あれは世継ぎの印だぞ、ますますマズイではないか。」


「だから心配しているのですよ、ガルシア様。」


セレスが大きくため息をつく。

結局、対応策など結論のでないままリリスは退室し、ガルシアとセレスはレナントからの使者との話し合いに加わった。





コンコン


リリスがセレスの部屋のドアを叩く。

部屋のドアの前には、兵が特別に2人。

怖い顔でどこか納得できない様子なのは、何度も襲われたことを思えば気持ちもわかる。


「まあ、確かに腹も立つわよねえ。」


リリスの肩で、ヨーコがつぶやく。


「だからセレス様がお預かりになったのでしょうけど、ご不在になられるこれからが少々心配です。」


「一応イネスも巫子なんだし、だいじょうぶじゃない?

なんだか、いっぱい凄い事聞いちゃって、あたし疲れちゃったわ。

ガーラントのおじさんも随分ビックリしてたみたい。」


「私もビックリしましたから、お互い様です。」


ずっとガーラントの肩にいたヨーコ鳥は、肩で彼の動揺を感じていた。

でも、どこか納得したように、大きくうなずいたのを見逃さなかった。

彼は彼なりに、自分の目は間違いなかったと思ったのだろう。


「これはリリス様、どうぞ中へ。」


ドアが開いてルビーが顔を出し、リリスを部屋に招き入れた。


「あの……メイスは……」


「こちらの部屋に。」


セレスの部屋は、イネスの部屋より一部屋多い。

そこにお付きで来た少年カナンが休んでいたのだが、そのベッドを今はメイスに譲っていた。

案内されていくと火の鳥キュアがベッドに留まり、その横ではカナンが手際よくメイスの汗を拭いている。

メイスの左手は白い布に覆われ、身をよじりひどく苦しそうにしていた。


「どこかケガを?」


リリスがカナンに尋ねると、困った様子で首を振る。


「左手の肘から下をあちらの魔術で作っていたようです。

困りました、地の神殿に伝わる癒しでは効かないようで。

恐らくは破魔の剣で切られたのではと思うのですが、かなり力の強い剣のようで……押さえられていた剣の予力と反発して腕が暴れています。」


破魔の剣と聞いて、リリスの胸がどきりとする。それは、もしかするとザレルに渡したあの剣ではないかと思ったのだ。

布の中では奇妙に何かがうごめいている。


「セレス様は?」


「このままであれば、心身ともに影響が大きいので、呪術的な処置で上から切って落とすと。

今ちょうど隣国の方々とお話し合いに行かれていて……」


「そうですか。」


メイスの腕を包む布は、何か結界がかけられているようで、中でボコボコと暴れるたびに光を出して牽制している。

リリスが手をかざすと、それがいっそう激しくなって見えた。

布越しに、赤い炎と青い炎が混じり合うことなく白い力の中で戦って見える。

青い炎でなんとか形を成そうとする腕が、赤い炎の力に食われていくように見えた。


「やはり、私の作った破魔の剣が不完全だったからなのかな?

どうか静かに、腕をやさしく包んで苦痛を与えぬように。」


布の上からさすりながら、願いを込めてつぶやいた言葉に、炎が争いをやめ反応した。

それはメイスには親和性の高かった青い炎が、無理に腕を成すのをやめてやさしく包み、その上を守るように赤い炎が包み込む。

布の下はようやく落ち着き、メイスも痛みが減ったようで息をつく。

カナンとリリスが、明るい顔で顔を見合わせた。


「やはり、火の巫子様でいらっしゃる、リリス様のお力でしょうか?」


「滅相もない、きっとリリサレーン様の指輪かと。」


「とりあえずようございました。このまま腕はこの聖布で包んで養生させましょう。」


腕を綺麗に包み直し、メイスの額に濡れたタオルを置くと、ふとうつろに目を開ける。

リリスが顔を覗き込み、頬をそっと撫でた。


「メイス、わかりますか?リリスです。

あなたは安全な所に保護されたのですよ、だから安心してお休みなさいませ。」


唇が、リリスと動く。

目が探すように動いて、見えない様子でゆっくりと閉じた。

髪を撫で、手を握ると安心したのか身体中から力が抜けたように見える。


「メイス、これからは一人ではありません。一緒にがんばりましょう。」


枕元のキュアが、くるくると喉を鳴らす。

ぼうと火を上げ、カナンが驚いて小さく悲鳴を上げた。

サブタイトルに悩みます。

あっちかこっちかと思っているうちに、ああ、ほんとに問題山積だなとw

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