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103、王族の秘密

「に、兄様は、何も、ご存じないのですか?

知って……知っているのに、ご自分がお答えにならないのは、…………ず、ずるい!と……思います。」


セレスには、いつかイネスがそう切り出すとわかっていたのだろうか。

まるで待ちわびていたように、なぜか嬉しそうにクスクス微笑む。


「そうだね、私の大切な弟よ。」


セレスが足を組み直し、背もたれにもたれてため息をつく。

知っているけど、答えたくない。

そんな気配がして、ガルシアが指を机でとんとん鳴らした。


「ここは、なんとも……不可思議な者たちの化かし合いの世界だな。ふふ……」


「笑い事ではありません、国の存亡がかかっているのです。」


主人の面白くないような、冷めた笑いにクリスが首を振ってぴしゃりと言った。

ガルシアが、ひょいと肩を上げてリリスを見る。


「それで結局、お前の本当の親は誰なのだ?」


単刀直入な問いに、皆が目を剥く。

リリスは、どう答えて良いのかわからない。

ドア脇に控えるように立っていたガーラントも、ハッとリリスの横顔を見つめる。

リリスは、どこか確信が持てず、うつむいたまま小さな声でささやいた。


「これは……本当なのかわからないのです。

フレア様が、私に言われたことで……

本当に、恐れ多い事なので……話して良い物か……」


「本当だよ、お前は王の初めての子だ。間違いない。

お前が生まれて、騒ぎの中で次にキアナが生まれた。」


するりと、横からセレスが何事もないように語った。

ガルシアが、思わず立ち上がる。


「やはり!なぜだ?本家は何を考えている?なぜあの2番目の子を継承に立てたんだ!」


本家とは、本城の王族のことだ。

レナントやベスレムの一族は分家となって、その地を代々治めている。

リリスにどこか親類でも見たような近しさを感じていたガルシアは、思っていたとおりの最悪の事実に絶句して肩を落とした。

セレスは、意を決したようにようやく顔を上げ、ガルシアを見上げる。

話す時が来たのだと判断した。


「すべてはあの時の王グレンロードが、火の巫子であり、当事者となった娘リリサレーンを王族より排除したのが間違いの元。

確かに王族の権威に傷はつきませんでしたが、王家は隔世遺伝で時折現れる赤い髪の子を、秘密裏に殺さねばならなくなったのです。」


淡々とセレスが述べる。

ガルシアがドスンと腰を下ろし、脱力したように顎に手をついた。


「赤い髪の子などと……たかが髪が赤いだけではないか。俺も城を継いだときにそう口伝を受け継いだが、ハナから守る気など無いぞ。

俺の伯母である王妃も、一緒になって殺そうとしたのか?」


「あの時私はヴァシュラム様の共として参りましたが、あの夜、城は大変静かでした。

未だ王妃は出産途中で、先に生まれたこの子をどうされるか、殺すよう迫る弟君や側近の言葉に、王は頭を抱えておいででした。」


セレスが一息ついて、手元のカップを指さす。

緊張して聞いていたレイトが、慌ててお茶を用意して注いだ。


イネスが怪訝な表情で見る。

リリスの誕生の時?それは……3,4才の子をヴァシュラムは共に連れて行くのか?

セレスはいったいいくつなのだろう?


一口茶を飲み、セレスが続ける。


「しかし王にしてみれば初めてのお子、可愛くないはずもない。

ところが次にようやくキアナルーサが生まれ、それが男子と見た側近は、早まって赤い髪の赤子に刺客を送ってしまった。

だが、この子にはリリサレーンが守護に付いていた為に、剣ははじかれ殺せない。

まして、それを知った王は激怒して、この子に剣を向けた騎士の首をはね、側近を王妃の前で殺してしまったのです。」


「なんてことを……」


イネスが愕然と思わずつぶやく。

セレスはそれをちらと見て、話を続けた。


「王はまだ若く、激情に走られた。

あれは大きな過ちだったと後に仰せだ。

しかし王妃は産後の疲れもあって心が不安定となり、この子の赤い髪を見ると悲鳴を上げる始末。

結局、王は殺すことはならぬが籍を外せと仰せになり、里子に出すことになった。


だが、この子の赤い髪や色違いの目はかなり異質だ。

悪くすると、人買いに売られ目の届かない所へ行ってしまうかも知れぬ。


そこでヴァシュラム様のお計らいがあり、セフィーリア様にお声がかかったのだよ。

ヴァシュラム様も先々をお考えになって、いずれセフィーリア様が魔導師として修行を積ませる事になるのはご存じであったろう。そして、この子にはそれが必要な事も。


だが、城はそれを放って置くはずもない。

後に世継ぎ問題を引き起こす可能性がある為に、この子には始終監視が付けられたのです。」


「では、キアナルーサがラーナブラッドの試練を超えたのはなんだ?

あれは正当な世継ぎだけが受けられる物。

私も祝いには呼ばれたぞ。それともドラゴンたちの怠慢かね?」


「いいえ、あれは……慈悲、とでも言ったがいいのでしょうか。

しかし、それは結果として結束に欠けます。

城の守りはどんどん弱くなり、魔物の入る隙を与えてしまう。


ラーナブラッドはフレア様が契約の証しとなるように、ご自分の目をお与えになった物。

それが元よりキアナルーサを認めるわけがありません。

ドラゴンマスターとしての強固な国を守る決意、そしてそれに従するドラゴンとの契約。

すべてが幻のような物……


このアトラーナの危機に、本城に居るのは騎士長を伴侶とするセフィーリア様のみ。

それがすべてを物語っている。

今ごろラーナブラッドは、色を失いその力を完全に失っている事でしょう。」


リリスが、ハッと顔を上げる。

『フレアの額の目を取り戻せ』

そう、リリサレーンが言った言葉を、ふと思い出した。


「なるほど。それで合点がいった。

王族の、精霊王ドラゴン達との守護契約が切れかけていると、そう言う事かね。

しかし、もっと早く教えて欲しかった物だな。」


不服そうに、ガルシアが腕を組む。

セレスはクスッと笑って、清々しく微笑んだ。


「この子の気持ちの整理が付いてから話せとは、我が主、地のドラゴンの意志ですから。

私が軽々しく口を開くと、世を乱す事にもなりましょう。」


「まったく、精霊どもの気まぐれにも、本家の隠し事にも振り回される。

すると、この話はベスレム側は知っているというワケか。」


「あちらには最近、フレア様がお住まいになっているとお聞きします。

神殿の再建をお考えと言う事ですから、もちろんこれはお話になった事でしょう。」


「神殿ね、巫子も無しに……ん?リリサレーンの生まれ変わりと言う事は……?」


「火の巫子ですよ、この子は。」


「えっ!」


思わず、全員の目がリリスに向いた。

権威を守るのは大変です。

子供と一族を秤にかけて、一族を取るしかなかった父親の罪をリリサレーンは許しています。

でもそれは、時々生まれる赤い髪の子を排除することになってしまいました。

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