第三十三章 白貂娘、事の次第を悟り、益兼に問いただす 1
白貂娘が呂厳との親善試合の日取りについて益兼から聞かされたのは、六日目の午後のことであった。太子が休みを取るために部屋に戻ったため、空いた時間ができたのであるが、その時に益兼が近づいてきたのである。
「わざわざそのために、日程を延ばすのですか」
益兼の言葉が信じられない、という面持ちで彼女は返事をした。
「色々と事情があるのですよ。それに、約束を破る訳にもいかないでしょう」
益兼の答えを聞くと、白貂娘は黙って彼の顔を見詰めた。
「開砂と穣丘は、目と鼻の先と言ってもよい距離にあります。開砂は程の首都であり、穣丘は渠でも有数の商業都市です。先の戦乱の間、程と渠は、対立しつづけましたが、程は穣丘を奪う事はしませんでした。なぜでしょうか」
突然、白貂娘は益兼に質問をした。そこまでの話の流れとは全く違う質問であったが、益兼は直ぐに彼女の心のうちを悟った。
「気付かれましたか」
「おそらく。薄々は感じておりましたが」
彼女の返事を聞いてから、改めて益兼は質問に答えた。
「穣丘はその堅さで知られており、程は喉から手が出るほどこの街を欲しておりましたが、ついには取る事はできなかったのです」
「そこで、程王が万一の事を起こしても、この街から出ない限り、太子の安全は守られる、という訳ですか」
「その通りです」
「しかし、太子を囮とするとは、大胆ですね。白諌議士の差し金でしょう」
益兼はその問いには笑って答えず、別の話をした。
「次傅の親善試合も、この街に留まるための口実に使わせてもらいました。そして同時に、この街の人々の気持ちを高揚させる、という目的もあります」
「差し障りがないようでしたら、現在の状況について、教えて頂けるでしょうか」
気付かれた以上、彼女に隠す必要はない。益兼はかいつまんで話し始めた。
「既に程王宛てに蜀将軍が送った手紙を、証拠として掴んでいます。程王は私たちが、この街に一週間の予定で留まると思っているでしょうから、予定よりも長くこの街に留まるなら、痺れを切らして事を起こすでしょう」
「そして、程王と蜀将軍の兵をここで食い止め、都からの援軍を待つ、という訳ですね。しかし、都からの援軍といっても、騎兵と歩兵が中心で、蜀将軍率いる水軍の相手をするのは、難しいのではありませんか」
「私もそれは心配なのだが、諌議士は笑って、水戦ができるのは蜀将軍だけではない、と言うだけなのですよ」
白約楽の真意が計り兼ねる、という顔で益兼は答えたが、白貂娘は別に不安な様子も見せなかった。
「そうですか。では、白諌議士にも対策があるのですね」
「にも、とはどういう意味です。次傅にも何か考えがあったのですか」
益兼は彼女の言い方から、彼女が何かしらの対処方法を思いついたと知り、そう尋ねた。




