表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国なき娘~白貂娘異聞~  作者: いちたすいち
第三部 南行編
89/147

第三十章 晁雲、白貂娘に昔語りをする 1

 その日は取りたてておおきな出来事もなく過ぎていった。太子は予定を大過なくこなしてゆき、巡幸の目的はよく果たされていた。

 白貂娘(はくちょうにゃん)も太子の側近としての仕事に追われ、太子の手紙を陰麗華(いんれいか)という娘に渡す方法を考える暇もなかった。

 但し、そのために陽長(ようちょう)公主とも会わなかったため、太子の相手について聞かれずに済んだことには胸をなで下ろした。


 夕刻に彼女が宿舎に戻ってくると、晁雲(ちょううん)が役人達にしきりと指示を出していた。彼女は晁雲(ちょううん)に近づいて、何か起きたのかを尋ねた。

「いえ、特に異常があったわけではありません。太守からの指示で、警備を厳しくするように命じておりました」

 晁雲(ちょううん)は丁寧にそう答えた。その時にはすでに役人達への伝達も一段落していたため、晁雲(ちょううん)は改めて白貂娘(はくちょうにゃん)に話しかけた。

「お疲れ様でした。この街の人を相手にするのは骨が折れたでしょう」

 そう言われても、簡単にはいそうですね、と答えられるはずもない。彼女は曖昧な返事をしたが、晁雲(ちょううん)は気にせず、さらに話を続けた。

「ところで、(おう)次傅はこの街にどんな印象を持たれましたか」

「印象ですか……。よい街ですが、なかなか複雑なようですね」

 白貂娘(はくちょうにゃん)が正直に感想を述べると、晁雲(ちょううん)は頷いた。

「南華の街はどこも同じです。土着の豪族、北から来た貴族、少数民族……。彼等がそれぞれ反目しつつ手を取り合っている、そういう不安定な土地です。ですから呂厳(りょげん)のような男もいますし、磁計侃(じけいかん)のような男も出てくるのです」

 彼の客観的な口振りから、白貂娘(はくちょうにゃん)はふと疑問を口にした。

「主簿はこの土地の出身ではないようですね」

「ええ。実はこの国の人間でもないのです」

 晁雲(ちょううん)の言葉に彼女は驚いた。彼は、(えい)の東の海に浮ぶ、那途(なと)という島国からの留学生だったというのである。

「今から三十年も前の話ですがね」

 彼の話では、その頃、那途(なと)(きょ)(てい)にしきりに親善使節を送っていたそうである。しかし、那途(なと)国内の政変により方針が変わり、結果として多くの留学生がこの国に残されたのだという。

「この辺りで”(ちょう)”という名字の人は、大抵私と同じ那途(なと)の出身か、その子孫ですよ。まあ、多くは私より年上で、既に亡くなったり自力で帰ろうとしてそのまま行方不明になった人も少なくないですが」

「主簿は帰ろうと思われなかったのですか」

 白貂娘(はくちょうにゃん)の質問に、晁雲(ちょううん)は笑って答えた。

「荒海をもう一度渡る勇気がなかったのです。もし本国からの正式な外交使節が来たなら、一緒に帰ったかも知れませんがね」

 彼の言葉に白貂娘(はくちょうにゃん)は心から同意した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ