第二十八章 磁計侃、晁雲に白貂娘のことを尋ねる 3
しばらくして、晁雲は一人で戻ってきた。
「やはり無理だっただろう」
磁計侃は晁雲の様子を見てそう言った。しかし彼は、磁計侃の顔を見るとにやりと笑った。
「会ってくれるそうです」
一言、そう言うと、晁雲は磁計侃に付いて来るように促した。
「信じられないな」
「本当は、余り会いたくはなかったようでした」
「やはり、私のような者には会いたくない、という訳か」
磁計侃はそう答えつつも別に不満は感じなかった。
普通に考えれば、地方の下級官吏、それも特に重要な要件があるわけでもないものが会えると考えるほうがおかしい。
しかし晁雲はそれを否定した。
「いや、単純に興味本位で自分を見られるのを好まない、という事のようです」
「では、なぜ気が変わったんだ」
「それは行けば判るでしょう」
晁雲は思わせぶりにそう言うと、後は何も言わずに白貂娘の部屋まで向かった。
彼が扉を叩くと、直ぐに中から返事があった。
「連れて参りました」
晁雲はそう言いながら扉を開けて、お辞儀をした。磁計侃もそれに倣い、彼の後ろで頭を下げた。
「なるほど、お前が呂厳の寄越した密偵か。私の何を調べに来たのだ」
部屋の中から、決め付けるような声がしたため、磁計侃は頭に血を昇らせた。彼は確かに呂厳の配下であったが、同時に彼の手先と思われる事を最も嫌ったのである。
「白貂娘、今の発言は撤回して頂きたい」
磁計侃は自分の立場も忘れて、頭を上げて怒鳴り付けた。しかし、その怒鳴り声を受けたのは笑い声であった。
「公主、私の振りをして話すのは止めてください」
「だってこの人、あなたと同じで真面目そうだったから、からかうと面白いだろうと思ったのよ」
自分の怒りを呆気なく逸らされた磁計侃は、部屋の中に二人の人物がいる事に気付いた。
一人は小柄で覆面をした人物であり、すぐに白貂娘その人である事が判ったが、もう一人の若い女性が誰なのか、彼には察しかねた。
晁雲は磁計侃の様子を見て、直ぐに小声で彼女の正体を教えた。
「計侃、こちらが王次傅で、そちらの方は陽長公主です。粗相のないように」
磁計侃はそれを聞くと、即座にその場に平伏した。
「知らぬ事とはいえ、無礼を働きました。平にご容赦を」
必死になって謝ろうとする彼を、陽長公主は鷹揚に押し止めた。
「いいのよ。私が少し暇つぶしをしただけなのだから。もう十分に楽しませてもらったから、後はゆっくりと白貂娘を観察する事ね」
そう言いながら、陽長公主は立ち上がった。
「白貂娘、さっきの件よろしくね。忘れては駄目よ」
それだけ言い残すと、彼女は白貂娘の部屋を出ていった。




