第二十六話 王蘭玉、白約楽に昔話をする 2
「全くあんたは悪党だよ」
茶店の一番奥の席につき、誰も自分達の話を聞いていない事を白約楽が確認していると、王蘭玉は改めて彼を非難した。
「何とでも言ってください。私は別にやましい事をしているつもりはありませんからね。それで、蘭玉さんと一緒にいた頃の王次傅は、どんな子供だったのですか」
「まあ、さっきも話に出たけど頭のいい娘だったね。仕事の飲み込みも早いし、本当なら私の跡継ぎにしたかったよ」
「昨日は彼女に、お転婆な娘だといっていましたよね」
「ああ、あれは別に深い意味はないよ。ただ、あの娘は快活で好奇心が旺盛な上に、正義感が強いものだから、時々私が思いもしないような事をしでかすんだよ。そういう意味でお転婆だといったのさ」
白約楽はその話に興味を持ったため、王蘭玉は簡単に幾つかの挿話を語り始めた。
「そう、あれはあの娘と旅を始めて数日目のことだったかねえ。その日に泊まった宿に押し入った盗賊の後を追いかけて、取られた宿のお金を取り返した事があったよ」
王蘭玉は事も無げにそう言ったが、白約楽は飲もうとしたお茶を吹き出しそうになった。
「ちょっと待ってください。蘭玉さんと旅を始めた頃と言えば、せいぜい七歳かそこらではないですか。いったい、どうやって取り返したのですか」
そこで王蘭玉は、その経緯を詳しく話し始めた。
最初に盗賊が忍び込んだ事に気付いたのも王礼里であった。
彼女は小さな物音に気付いて王蘭玉を揺り起こしたのである。王蘭玉は、すぐに事態を把握し、王礼里と共に密かに物置に隠れて事態の推移を見守る事にした。
しばらくして盗賊達が去ったのを確認してから、王蘭玉は宿屋に戻り、縛られていた宿の主人達の介抱をしていたが、その時、彼女は王礼里がいなくなっている事に気付いたのである。
王蘭玉は、まだ王礼里と一緒に旅を始めて間もない事もあり、行商の仕事が嫌で、隙を伺って逃げ出したのかとも思った。
それでも半日だけ待つ事にしたところ、昼頃にひょっこりと戻ってきたのである。しかも、手には宿屋が奪われたお金の袋を一袋持っていたのである。
彼女が問いただすと、王礼里は馬の蹄の跡を追いかけて盗賊の隠れ家まで付いてゆき、隙間から忍び込んで、盗賊達が寝静まるのを待ってから、お金の袋を取り返した、という話を自慢する様子もなく話したのである。
その結果、王礼里の証言で盗賊達の隠れ場の場所が分かり、彼らを一網打尽にする事ができた、という訳であった。
白約楽はその話を聞いてため息を吐いた。
「随分と大胆な事をしたものですね」
「そうだよ。私もその時はしっかりと叱ったよ。私に黙ってそんな危ない事をしてはいけないとね。だけど、彼女はあまり堪えなかったみたいだね。それから二週間ほどした時にも、同じような事があったからね」
そう言って、王蘭玉はもう一つの出来事を話し始めた。
今度は、山道で突然、山賊に囲まれた。
相手は通行料として荷物を半分置いていくか、さもなくば命を頂く、と二人を脅したのである。
王蘭玉も、荷物を惜しんで命を危険に晒すほど愚かではない。素直に荷物を半分置いていこうとしたが、その時、王礼里が山賊に対し、別の条件を出したのである。
その条件とは、山賊の一人と彼女が勝負をし、山賊が勝ったなら荷物を全部渡す、王礼里が勝ったなら、黙って二人を通す、というものであった。
当然、山賊達はたがだか七歳程度の小娘が勝負を挑んできた事で、大笑いをした。
王蘭玉はというと、それを止めようかとも思ったが、この頃までには王礼里の性格もよく判っていたので、彼女が何をするのか興味もあったので、黙認する事にした。
山賊達が王礼里に勝負の内容を聞くと、彼女は近くにあった大木を指差し、木登りでより高いところまで登った方が勝ちだと答えた。相手はそれを聞いて、すでに勝ったものと思い、気軽にその勝負を引き受けた。
山賊の中に木登りの得意な男がおり、その男が王礼里と勝負をしたが、山賊は一つだけ計算違いをしていた。ある程度の高さまで登ると、幹や枝が細くなるので、体重の重い山賊はそれ以上登れなくなる。しかし、王礼里はまだ小さく、軽いので、木登りの腕と度胸さえあれば、山賊よりも梢に近いところまで登れるのである。
そして、王礼里は木登りの腕も度胸もあり、山賊が物理的に登れないところまで登ってしまったのである。
山賊達は面目丸つぶれである。王礼里が降りて来ると刀を抜き、彼女たちの命を奪おうとした。しかし、王礼里は涼しい顔で彼らの事を笑い出した。
王礼里は山賊達に対し、七歳の小娘に負けた上に約束を破るようでは、仲間に顔向けできないだろう、欲に目がくらんで私との勝負を受けたので、手に入るはずだった荷物半分も奪えなかったのは、あなたたちの責任だ、と言ってのけたのである。
さすがにそこまで言われると、山賊達も二人を襲う事を躊躇した。
王礼里と王蘭玉は、その隙に逃げ出そうとしたが、その時、山賊達の親分が現れたのである。
実を言えばその親分は王礼里と山賊のやり取りの一部始終を見ていたのだった。ごつい顔つきの割にはさっぱりとした性格であり、二人を襲おうとした手下に対し、娘の言い分が正しい、お前らの負けだ、と言って下がらせた。




