第二十五章 益兼、白貂娘に粥を差し入れる 2
益兼はしばらく黙って、その様子を見ていたが、ふと思い出したように話し始めた。
「大将軍の言われた通りのようですね。次傅はお腹が空いても、決してそれを口に出して言わない、そう言っていましたよ」
白貂娘はその話を聞いて、食べる手を休めた。
「大将軍はその様な事を言われたのですか」
「そう。巡幸の間、宴席に招かれても、覆面をしたまま一口も食べずに、翌朝まで我慢するだろうと言っていました。だから儂に、次傅が無理をしないよう、面倒を見て欲しい、そう頼まれました」
「まあ」
白貂娘は、丁義堅が自分の事を、心配してくれているのを知って、嬉しく思った。と同時に、そのような私的な事を大司馬の様な高官に依頼するなんて、とも思った。
その白貂娘の気持ちを察したのか、益兼はさらに説明を加えた。
「大将軍もあまり交友が広くありませんからね。こうした私的な事柄を頼める人物が、他にいなかったのでしょう。回太傅はあの通りの方ですし、といって白諌議士は忙しい上に、まだ若いですから、次傅の部屋に、そう足繁く通う訳にはいかないでしょう。儂のような、暇な年寄りなら大丈夫という訳です」
「そんな」
丁義堅もまさか、そこまでは言っていないであろう。白貂娘は否定しようとしたが、それより先に、益兼のほうが不思議そうな顔で聞いてきた。
「しかし、大将軍はそこまで、次傅を空腹のままにしておくことが、あったのですかな」
話すほどのことでもない、と思ったが、何も言わないと丁義堅が誤解を受けると思い、彼女は簡単に経緯を話した。
「そうではありませんが、大将軍は普段、仕事が終わるまでは食事をされなかったのです。私だけ先に頂いては失礼かと思い、いつも仕事が終わるのを待っていたのですが、一度、大将軍の仕事が徹夜になった事があり、結局、大将軍も私も、翌朝まで何もとらなかった、という事がありました」
その話を聞くと、益兼はお腹を抱えるように笑い出した。
「全く、大将軍も人のことは言えないですね。しかし、真面目も度が過ぎると、滑稽なものです」
「ええ、私も時々、大将軍とその時の事を蒸し返しては笑っています。それ以来、大将軍も遅くまで仕事がかかりそうな時は、途中で食事を取るようになりました」
「ほう、そうですか。つまり最初から、それが狙いだったのですね」
益兼は、納得したという顔をしたが、白貂娘は再び否定した。
「それは結果論ですわ。別にそういうつもりではありませんでした」
それから彼女は、再び粥を掬って、口に運んだ。
「これは老人の戯れ言と思って、食べながら聞いてください」
しばらく黙っていた益兼は、そう話を始めた。
「王殿は、若いのに多く苦労してきたせいか、随分と忍耐強いですね。それに頭も切れる。ただ、苦労知らずの傲慢な相手には、その切れ味が舌に出るようです」
益兼はそこでいったん言葉を止めた。




