第二十二章 王蘭玉、白貂娘と再会し旧交を温める 1
王蘭玉は、白羊策からの情報を伝え終わると、白約楽と共に茶屋を出た。
彼女が入り口のところで何かを探すように周囲を見回したため、白約楽はどうしたのかと尋ねた。
「いやね、私の飼っている犬が、どこかにいってしまったようなんだよ」
「蘭玉さんの犬というと、黒の事ですか」
王蘭玉がまだ、陽安の白家に出入りしていた頃、彼女はいつも大きな黒い犬を連れていた。といっても、最後に王蘭玉と白約楽が会ったのは十年前であり、白約楽は冗談のつもりでそう言ったのである。
しかし、王蘭玉は冗談とは考えなかった。なぜなら、彼の言う通りだったからである。
「何だかんだ言って、二十年近くも可愛がってきたからね。だけど、私の言いつけを守らずにどこかに行くなんて、いよいよなのかねえ」
そんな事を言っていると、広場の方から犬の太い鳴き声が聞こえてきた。
「なんだい、あんなところまで行ってしまったんだね。どうしたんだろうねえ」
そう言って、彼女は広場の方に走っていった。白約楽には彼女を追う理由はなかったが、急な用事がある訳でもなく、久しぶりに黒の顔でも見ようかと思い、彼女の後を追って広場の方へと歩いていった。
王蘭玉は広場へ出ると、直ぐに自分の犬を見つけた。
覆面をした子供の前に座り、何かをしているようである。
「黒、あんた何をしているの。坊や、私の犬に何をしたんだい」
王蘭玉がそう怒鳴ると、黒、と呼ばれた犬は彼女の方を見たが、戻ろうとはせずに、その場で尻尾を振っている。
当の子供は王蘭玉の方を見ると驚いたように立ち上がり、彼女の方を見つめた。
「何だい。その犬は私のだよ。文句があるのかい」
王蘭玉はそう凄んだが、相手が急に笑い出したため、彼女は拍子抜けしてしまった。
「蘭玉姉さん。お久しぶりです。全然変わっていませんね」
男の子かと思っていたその声が女性のものだった上、彼女の名前まで知っていたため、今度は王蘭玉の方が驚いた。
「私が判りませんか。王礼里です。奉でお世話になった、王礼里ですよ」
「ああ、あんただったのかい。そんな覆面をしているから判らなかったよ」
相手の名前を聞くと、王蘭玉は相好を崩した。
「突然、目の前に黒がいたので、私も驚きました。黒も私のことを覚えていてくれたようですね」
そう言いながら、白貂娘は黒の頭を撫でてやった。
「噂で聞いているよ。広将軍があんたを酷い目に遭わせたってね。そのくせ、去年はまた北の果てで戦をしたそうじゃないか。相変わらず白貂娘なんてあだ名で呼ばれているようだし、まったくお転婆な娘だね」
王蘭玉が叱るようにしてそう言うと、白貂娘は再び笑い出した。
「姉さんに叱られるのも久しぶりね。懐かしいわ」
「それで、こんな所で何をしていたんだい。宮仕えを辞めたのなら、また私の手伝いをしておくれよ」
「いえ、太子の巡幸に付いて来ているんです。実を言えば、今はこっそり抜け出してきたの」
それを聞いて、王蘭玉も豪快に笑った。
「やっぱりお転婆は治っていないようだね。だけど、太子の巡幸に付いて来たって事は、やっぱりあれかい」
「王次傅、こんな所で何をしていたのです」
王蘭玉の話に割り込んできたのは白約楽だった。




