第十八章 法安才、法九思を許しつつ南への備えをする 2
その日の夜、白約楽は再び皇帝の元を訪れた。
彼の目には程王の叛意は明らかであるとはいえ、皇帝の目には彼がどう映ったのか、今日の会議では判断しかねていた。本当に程王に叛意がないと判断したのか、それとも別の意図があるのかを確認したかった。
皇帝のほうも、白約楽が訪ねてくるであろうことを予期しており、彼の来訪が告げられると、すぐに招き入れた。
「待っていた」
「陛下の真意をお伺いに参りました」
「そう言うと思ったぞ。おぬしの裏をかけるのは滅多にないからな」
皇帝法安才はそう言って笑いつつ、言葉を続けた。
「今日、叔父上に会って朕も分かったよ。おぬしの言う通り叔父上が叛意を抱いていることは明らかだ」
そういうと、皇帝は一つため息をついた。
「できれば、叔父上が都に留まってくれればと思うが、おぬしの言う通り自分の国に戻るつもりのようだ。叔父上はどうやって帰るつもりかな」
「程王は領地に妻子を残してきています。恐らくは彼等の病気などを理由として戻るつもりでしょう」
「やはりそう思うか」
「陛下はそこまで分かっていながら、なぜ程王を無罪としたのですか」
「おぬしはどうしてだと思う」
「非才の私には陛下の真意は分かりかねますが、程王が油断することを期待してと、人々の動揺を抑えるために無罪とされたのでしょうか」
「謙遜するな。良く分かっているではないか」
「恐れ入ります」
実際、現時点では程王には何ら罪状はなく、ただよからぬ噂が流れているだけである。
それに対して参内を求めるだけならともかく、証拠もなく罪人扱いするなら、国中が動揺することになる。
なぜなら瑛に仕える官吏の多くは、もともとは他国に仕えていた者たちであり、彼らの地元では多かれ少なかれ、彼らが再び独立のために動くのではないかという噂が流れることがあったからである。
もちろんそれらの多くが根も葉もないものに過ぎなかった。
しかしもしも今回、噂を根拠に程王を捕らえたなら、彼らも疑心暗鬼にかられ、次は我が身と考えた上で、自暴自棄になるものが出ないとも限らないのである。
白約楽としてはたとえそうした可能性があっても、程王は捕らえるべきと考えていたが、皇帝の考えは別のところにあった。
「朕もあれから考えたのだよ。確かに我が瑛は、北に重きを置き過ぎていたようだ。これからは南にも目を向けんといかん」
「その通りです。中原は文化発祥の地とは言え、いまや南華の富なくしてはやっていけません。彼等が瑛に心服してこそ、瑛の繁栄があるのです」
「しかし、叔父上は彼等を搾取することしか考えていないようだ。叔父上には申し訳ないが、瑛の発展のために犠牲になってもらう」
つまり南華の地が抱える問題について、程王にあえて謀反を起こさせることで一気に解決を図ろうと決心したのである
「心痛、お察しします」
身内を犠牲にして国の安定を図らねばならないことは、確かにあまり気持ちのいいものではない。実際、皇帝の顔は憂いに沈んでいた。
暫くの沈黙の後、皇帝は顔を上げ、それまでの憂いを消し、緊張した面持ちで白約楽に尋ねた。
「もう一つ、おぬしは絶対に太子の安全を保証できるか」
「我が身に変えても、お守りいたします。また白貂娘も太子を守るために全力を尽くすでしょう」
「分かった。では、叔父上が程に戻ったなら、太子を南華の地に向かわせる。おぬしの言う通り、少しは実地で鍛えんと将来が不安だからな」
意を決した皇帝のその言葉に、白約楽は安堵した。しかし、さらにもう一つ、皇帝に伝えなければならない情報があった。




