第十六章 丁義堅、白約楽に事の真相を確認する 3
白約楽は内心、自分が失言したと思った。確かに彼には、もう一つの問題があるが、それはまだ他言できる話ではない。しかし、気付かれた以上、しらを切ることはできなかった。今、丁義堅の信頼を失う訳にはいかないのである。
「もう一つ問題があるのは事実だ。しかし、これはまだ他人に話せることではない」
「私も興先生も口は固いよ」
「いや、まだその時は来ていない。悪いが話すことはできない」
「信用してないのか」
「そうじゃない。他言できない、ということだ。君も大将軍の位にいるのだから分かるだろう」
そう言われて、丁義堅もそれ以上追及することはできなかった。
「まあ、約楽には約楽の立場があるんじゃ。義堅もそれ以上、苛めるな」
興魏がそう言ったため、緊張したその場の雰囲気が緩んだ。丁義堅も興魏の方を見てからため息をついた。
「興先生がそういうなら、諦めましょう。ところで約楽、程王の謀反は間違いないのか」
「まず、確実だ。一番いいのは挙兵する前に押さえることだが、陛下はそれを望まない以上、彼らが動くのを待つしかない」
「やはり、兵を動かすしかないのか」
今はまだ、北伐の疲弊した軍事力は回復してはいない。できることなら兵は動かしたくない、というのが丁義堅の心境であった。
「仕方がないだろう。どうせ反乱が起こるなら、他の反乱分子と結びつく前に起こさせたい。まず、ここ一年のうちに反乱を起こさせる。そのとき、陛下が軍を率いて南征する。君は陛下の側で軍の指揮をとる。そうすれば、最小限の被害で鎮圧できるはずだ」
白約楽がいかにも簡単そうにそう答えたため、丁義堅はため息を吐いた。
「口で言うのは簡単だ」
「まあな。だが、これは重要な事なんだ。この反乱が長引くようなことがあれば、国内外の他の不満分子にも飛び火するだろう。ただでさえ、先の北伐で瑛の実力が問われている。あのときは君という人物が参加しなかったため、という言い訳ができるが、今度はそういうわけにはいかない。ただ勝つだけじゃない、圧勝する必要があるんだ」
「なるほど、私にまた責任を押しつけようとする積もりだな」
「安心しろ、既に手は打ってある。まあ、彼らの反乱はいい試金石になるというわけだ」
「おまえにはかなわんな」
そういうと、丁義堅はこの部屋に入ってから初めて笑った。
「そういうことだ。まあ、固い話はこれぐらいにしよう。今日はまだ大丈夫だろう。いい酒があるから飲んでいけ。先生もご一緒に」
「誘われなくてもその積もりじゃ。おまえのところの酒はうまいからの」
興魏はそう言って舌なめずりした。




