第四十三章 景達、謀略を発動させ、国政掌握を図る 2
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呂厳が討ち取られた時、法九思はなぜかその勢いのまま穣丘を攻め落とさなかった。
それは、呂厳の戦死により穣丘城内が混乱し、内通者が出るのを待っていたのかもしれないが、その真意は不明である。
どちらにしてもその怠慢は、彼がこの城を落とす唯一の機会を失ったことも意味していた。
翌日になってからそのことに気付いたかのように、程軍は以前にも増して苛烈な攻撃を仕掛けてきた。
しかしすでに益兼と白貂娘の打った芝居のために、呂厳の死の衝撃から立ち直っていた穣丘軍は、その攻撃に対して持ちこたえた。
そしてその夜のことである。
再び硬直しつつある局面を打開しようと、程軍の本陣では夜遅くまで軍議が開かれていた。
その時である。突然、外から喚声が聞こえ出した。
「何事だ。何を騒いでおる」
程王がそう言った時、外から伝令が飛び込んできた。
「夜襲です。水軍が攻撃を受けております」
その報はその場にいたものを驚かすのに十分であった。
「なぜ水軍が攻撃を受けるのだ。敵は誰だ。兵力は。どこから来たのだ」
「そ、それが闇夜に紛れて、皆目見当がつきません」
確かにその日は新月であった。幕僚の一人であった豹進は敵の正体に思い当たるものがあった。
「水軍といえば、重参謀が水賊を味方につけると言っておられた様だが、いまだ見えません。重殿自身も程の地を押さえるといったまま、報告をよこしておりません」
そう言われた時、法九思の顔は蒼ざめた。
「まさか、わしがあやつに騙されたというのか」
「断言はできませんが、その可能性は否定できません」
「ええい、敵の正体など後で調べれば良いことだ。程王よ。わしはすぐに水軍の指揮に向かう。たとえ水賊だろうと蹴散らしてくれん」
蜀果はそう言い残して、その場を立ち去った。
しかし彼も事態を軽く見ているわけではなかった。闇夜で先手を打たれたことで、自軍が混乱状態に陥っていることは明白であった。まずその立て直しをしなければ、敵と戦うことすらままならないのである。
一方、穣丘にいた益兼にも、敵陣の異変が報告されていた。
「水軍に攻撃を仕掛けたものがいる。どうやら諌議士がうまくやったようだ」
「我が方も打って出ましょうか」
紀端がそう進言したが、益兼はそれを退けた。
「明日には陛下が到着される。我らはこの城を守ることだけ考えれば良い」
そのあと、ぽつりと付け加えた。
「今、討って出ては、あの娘に申し訳ないではないか」
結局、程王の乱は呆気なく鎮圧されることになった。蜀果率いる水軍に奇襲をかけたのは、予想通り龍嵐児の水賊であった。
彼は白約楽からの情報を元に、もっとも効果的な夜襲の日時を決め、見事にその役を果たしたのであった。
そして朝になると、今度は穣丘城の南門が開き、そこから丁義堅率いる瑛軍が彼らに襲い掛かった。
明け方前に皇帝率いる瑛軍は到着したのである。益兼はすぐに皇帝と大将軍に状況を知らせ、今こそ程王を打ち破る絶好の機会である事を進言し、皇帝もそれを受け入れたのである。
到着したばかりの彼らも確かに疲れてはいた。しかしこの絶好の機会を逃しては、何のためにここまで強行してきたのか分からない。休むのは功を立ててからでも遅くはない。この時点ですでに勢いが違っていた。
程軍は一瞬で壊滅したといっても過言ではなかった。
程王は辛うじて側近と共に残っていた船に乗り込み、開砂へと逃れていった。ところがそこもすでに彼のものでは無くなっていた。
太子の法喜香が大きく迂回して義勇軍を募りながら程の地を進撃し、一気に開砂を衝いていたのである。突然現れた太子の軍に驚いた開砂の人々は、すぐに降参した。このため帰るところを失った法九思は、氾江を下流へと降っていったところを、海沿いを南下してきた青聖の軍に捕まったのである。
こうして程州の叛乱の中心は潰され、あとは残った勢力を潰すだけである。
丁義堅も本来ならばしばらく軍を穣丘で休めた後、さらに慶州の叛乱の鎮圧に向かう予定であった。
しかしこの時、さらに瑛を揺るがす事件が起こっていたのである。




