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国なき娘~白貂娘異聞~  作者: いちたすいち
第四部 政難編
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第四十三章 景達、謀略を発動させ、国政掌握を図る 2

一日二話(5時、17時)更新中です。

読み飛ばしにご注意ください。

 呂厳(りょげん)が討ち取られた時、法九思(ほうきゅうし)はなぜかその勢いのまま穣丘(じょうきゅう)を攻め落とさなかった。

 それは、呂厳(りょげん)の戦死により穣丘城内が混乱し、内通者が出るのを待っていたのかもしれないが、その真意は不明である。

 どちらにしてもその怠慢は、彼がこの城を落とす唯一の機会を失ったことも意味していた。


 翌日になってからそのことに気付いたかのように、(てい)軍は以前にも増して苛烈な攻撃を仕掛けてきた。

 しかしすでに益兼(えきけん)白貂娘(はくちょうにゃん)の打った芝居のために、呂厳(りょげん)の死の衝撃から立ち直っていた穣丘(じょうきゅう)軍は、その攻撃に対して持ちこたえた。


 そしてその夜のことである。

 再び硬直しつつある局面を打開しようと、(てい)軍の本陣では夜遅くまで軍議が開かれていた。

 その時である。突然、外から喚声が聞こえ出した。

「何事だ。何を騒いでおる」

 (てい)王がそう言った時、外から伝令が飛び込んできた。

「夜襲です。水軍が攻撃を受けております」

 その報はその場にいたものを驚かすのに十分であった。

「なぜ水軍が攻撃を受けるのだ。敵は誰だ。兵力は。どこから来たのだ」

「そ、それが闇夜に紛れて、皆目見当がつきません」

 確かにその日は新月であった。幕僚の一人であった豹進(ひょうしん)は敵の正体に思い当たるものがあった。

「水軍といえば、(じゅう)参謀が水賊を味方につけると言っておられた様だが、いまだ見えません。(じゅう)殿自身も(てい)の地を押さえるといったまま、報告をよこしておりません」

 そう言われた時、法九思(ほうきゅうし)の顔は蒼ざめた。

「まさか、わしがあやつに騙されたというのか」

「断言はできませんが、その可能性は否定できません」

「ええい、敵の正体など後で調べれば良いことだ。(てい)王よ。わしはすぐに水軍の指揮に向かう。たとえ水賊だろうと蹴散らしてくれん」

 蜀果(しょくか)はそう言い残して、その場を立ち去った。

 しかし彼も事態を軽く見ているわけではなかった。闇夜で先手を打たれたことで、自軍が混乱状態に陥っていることは明白であった。まずその立て直しをしなければ、敵と戦うことすらままならないのである。




 一方、穣丘(じょうきゅう)にいた益兼(えきけん)にも、敵陣の異変が報告されていた。

「水軍に攻撃を仕掛けたものがいる。どうやら諌議士がうまくやったようだ」

「我が方も打って出ましょうか」

 紀端(きたん)がそう進言したが、益兼(えきけん)はそれを退けた。

「明日には陛下が到着される。我らはこの城を守ることだけ考えれば良い」

 そのあと、ぽつりと付け加えた。

「今、討って出ては、あの娘に申し訳ないではないか」




 結局、(てい)王の乱は呆気なく鎮圧されることになった。蜀果(しょくか)率いる水軍に奇襲をかけたのは、予想通り龍嵐児(りゅうらんじ)の水賊であった。

 彼は白約楽(はくやくがく)からの情報を元に、もっとも効果的な夜襲の日時を決め、見事にその役を果たしたのであった。

 そして朝になると、今度は穣丘(じょうきゅう)城の南門が開き、そこから丁義堅(ていぎけん)率いる(えい)軍が彼らに襲い掛かった。

 明け方前に皇帝率いる(えい)軍は到着したのである。益兼(えきけん)はすぐに皇帝と大将軍に状況を知らせ、今こそ(てい)王を打ち破る絶好の機会である事を進言し、皇帝もそれを受け入れたのである。

 到着したばかりの彼らも確かに疲れてはいた。しかしこの絶好の機会を逃しては、何のためにここまで強行してきたのか分からない。休むのは功を立ててからでも遅くはない。この時点ですでに勢いが違っていた。


 (てい)軍は一瞬で壊滅したといっても過言ではなかった。

 (てい)王は辛うじて側近と共に残っていた船に乗り込み、開砂(かいさ)へと逃れていった。ところがそこもすでに彼のものでは無くなっていた。

 太子の法喜香(ほうきこう)が大きく迂回して義勇軍を募りながら(てい)の地を進撃し、一気に開砂(かいさ)を衝いていたのである。突然現れた太子の軍に驚いた開砂(かいさ)の人々は、すぐに降参した。このため帰るところを失った法九思(ほうきゅうし)は、氾江(はんこう)を下流へと降っていったところを、海沿いを南下してきた青聖(せいせい)の軍に捕まったのである。


 こうして(てい)州の叛乱の中心は潰され、あとは残った勢力を潰すだけである。

 丁義堅(ていぎけん)も本来ならばしばらく軍を穣丘(じょうきゅう)で休めた後、さらに(けい)州の叛乱の鎮圧に向かう予定であった。

 しかしこの時、さらに(えい)を揺るがす事件が起こっていたのである。


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