第四十三章 景達、謀略を発動させ、国政掌握を図る 1
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薛王が都に到着し、さっそく出仕すると、高官達が待ち構えるように居並んでいた。彼らの無表情さに違和感を覚える間もなく、景達が前に進み出た。
「薛王、実は王が謀反した九思殿と内通している、という報告が届いております。私どもとしましては虚報であると信じたいのですが、時が時です。できましたら、ここは穏便に、ご自身の領地にお戻り願いたいのですが」
法知允は当然の事ながら、景達の言っている意味を理解できなかった。しかし、ひとつのことだけは理解できた。つまり自分がはめられたという事実である。
「なるほど。おぬしにとってわしは邪魔者ということだな。だがわしを追い出せば、陛下が黙っておらぬぞ」
「ですからここは穏便に引いていただきたいと申しております。もし拒否されるようなら、こちらもそれなりの手段をとらねばなりません」
薛王は歯噛みする思いであった。そこに居並ぶものは皆、景達と親しいものばかりであった。今は慇懃に振舞っているが、彼は明らかに自分を脅迫している。もし彼の言葉を受け入れないなら、何をされるか分かったものではない。
とにかく皇帝が帰ってくるまでの辛抱である。そう結論した法知允は、言われた通り自分の領地に戻ることにした。
もちろん法知允も黙っているつもりはなかった。彼は領地に帰るとすぐに、戦地の皇帝へ景達の無法を訴える手紙を書き送った。
しかし景達の方も、薛王が皇帝に手紙を送ることは予想のうちであった。彼はすでに定の首都である臨洲の周辺に密偵を放ち、薛王の使者をすべて殺させたのである。
その上で彼は皇帝に対して、薛王法知允が弟の謀反に荷担している噂があること、その噂が流れると同時に、薛王は何も言わずに自分の領地に引き上げてしまったという報告を書き送った。
さらに法知允に対しては、薛王の位を息子の法温に譲って隠居するように勧めた。
同時に彼の領地内には、現薛王が隠居したなら、すぐにも領地が削られるであろうという噂を流させたのである。
実際には皇帝に無断でそのようなことはできない。しかし若い法温は傍若無人な景達の言動にすっかり逆上してしまった。
「父上、あのような者に瑛の朝廷を牛耳られては、国が滅んでしまいます。すぐにも兵を挙げて、かの逆臣を討ちましょう」
「それこそあやつの思う壺だ。ここは黙って静かにしておるのだ。陛下が戻ってこられれば、あのような者の思い通りにはならん。すでに陛下には、このたびの経緯について手紙を書き送っておる。心配することはない」
さすがに老練な薛王は、ここで妄動することはしなかった。しかし肝心の手紙が、景達の手の者にかかって殺されているとは思いもしなかったのである。
景達は自分の取っている策略に自信を持っていた。
しかし実を言えば、彼が自分の考えと思っていることの殆どは、劉監がそれとなく彼に吹き込んだことであった。彼は景達の野心を煽り、躍らせていたのである。
しかしその劉監にも分からないことがあった。それは景達がどうやって回一族を失脚させるのか、ということである。
そしてもう一つ、彼が不審に思っていることがあった。それは太子が今、どこにいるのか、ということであった。
太子が穣丘を出た、という報告はすでに受けていた。しかし都にも帰っておらず、南征軍のいずれかと合流した、という話も聞いていない。
穣丘を出ると同時に、行方をくらませてしまったのである。
さらにいうと、自分の放った刺客がいまだ王礼里を仕留めていないことに苛立ちを感じていた。彼女が健在である限り、劉監に心の安らぎはなかった。
しかし連絡を取ろうにも、南征軍はほとんど休息らしい休息も取らずに、ひたすら穣丘を目指している。わずかな休憩には公務をこなさねばならない。皇帝の意向とは言え、旅慣れない彼にとっては辛いことこの上なかった。




