第四十二章 白貂娘、穣丘を死守せんと奮闘する 1
その夜、これまでにないほどの熾烈な攻撃が穣丘の南門に対して仕掛けられた。
その攻撃を白貂娘は文字通り必死になって食い止めた。
東の空が白んでくると、敵陣の様子がようやく分かり始めた。
そしてそれは穣丘に篭る将兵にとって、衝撃的な光景であった。
夜襲を見破られた呂厳の軍は、敵陣に攻め込んだはずが、逆に囲まれてしまっていた。
彼も必死になって包囲を破ろうとしたが、多勢に無勢で、結局は程の大軍の中に孤立したまま、朝を迎えたのである。
「敵はなぜ、一気に呂校尉を討ち取らなかったのでしょう」
敵の只中で一服しているようにも見える呂校尉の部隊を見て、磁渕は不思議に思って尋ねた。
「程王はこの城を落とすことが、事の成否を左右すると考えておる。そしてそれが昨日までは全く手も足も出なかったのに、ようやくこちらの裏を掻いて弱みを握ったのだ。一気に殺すのではなく、最も効果的な仕方で利用しようとしておるのだろう」
益兼が白貂娘に代わって説明した。同時に、呂厳の生存が城内に及ぼす影響を憂いた。
そしてその憂いはすでに現実のものとなって、白貂娘に迫っていた。
「まだ呂校尉は生きています。どうか決死隊を募って救出に向かうことをお許しください」
「呂校尉を見殺しにすることはできません。王殿であれば、助けることができるでしょう。援軍を出してください」
そうした声が彼女の周りを取り巻いていた。
しかし彼女自身は、呂厳を助けるための兵を出す気は毛頭なかった。
それは助けたくないという意味ではない。助けに行きたくとも、行くことができないのである。すでに城壁に取りついている敵兵を押し返すのが精一杯であり、兵を出すことすらできない状態であった。
彼女はここで決断を迫られた。自分が昨日、決断を鈍らせたために、呂厳と彼に従った兵たちの命を無駄にしたことを、心の底で悔やみながら、彼女は自分の決断を言い寄る兵士達に言い放った。
「呂校尉は私の命を破り、独断で討って出たのである。無断で兵を動かすことが、軍規により死罪と決まっている以上、彼を助けるために兵を出すことはできない。これより先、彼を助けることを言いたてるものは、彼と同罪とする。以後、この城を守り通すことだけを考えるように」
その言葉を聞いて唖然とする兵士達を眺めながら、白貂娘は、二度とこの地を踏むことはできまい、と思った。




