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国なき娘~白貂娘異聞~  作者: いちたすいち
第三部 南行編
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第四十二章 白貂娘、穣丘を死守せんと奮闘する 1

 その夜、これまでにないほどの熾烈な攻撃が穣丘(じょうきゅう)の南門に対して仕掛けられた。

 その攻撃を白貂娘(はくちょうにゃん)は文字通り必死になって食い止めた。


 東の空が白んでくると、敵陣の様子がようやく分かり始めた。

 そしてそれは穣丘(じょうきゅう)に篭る将兵にとって、衝撃的な光景であった。


 夜襲を見破られた呂厳(りょげん)の軍は、敵陣に攻め込んだはずが、逆に囲まれてしまっていた。

 彼も必死になって包囲を破ろうとしたが、多勢に無勢で、結局は(てい)の大軍の中に孤立したまま、朝を迎えたのである。




「敵はなぜ、一気に(りょ)校尉を討ち取らなかったのでしょう」

 敵の只中で一服しているようにも見える(りょ)校尉の部隊を見て、磁渕(じえん)は不思議に思って尋ねた。

(てい)王はこの城を落とすことが、事の成否を左右すると考えておる。そしてそれが昨日までは全く手も足も出なかったのに、ようやくこちらの裏を掻いて弱みを握ったのだ。一気に殺すのではなく、最も効果的な仕方で利用しようとしておるのだろう」

 益兼(えきけん)白貂娘(はくちょうにゃん)に代わって説明した。同時に、呂厳(りょげん)の生存が城内に及ぼす影響を憂いた。

 そしてその憂いはすでに現実のものとなって、白貂娘(はくちょうにゃん)に迫っていた。


「まだ(りょ)校尉は生きています。どうか決死隊を募って救出に向かうことをお許しください」

(りょ)校尉を見殺しにすることはできません。(おう)殿であれば、助けることができるでしょう。援軍を出してください」

 そうした声が彼女の周りを取り巻いていた。


 しかし彼女自身は、呂厳(りょげん)を助けるための兵を出す気は毛頭なかった。

 それは助けたくないという意味ではない。助けに行きたくとも、行くことができないのである。すでに城壁に取りついている敵兵を押し返すのが精一杯であり、兵を出すことすらできない状態であった。

 彼女はここで決断を迫られた。自分が昨日、決断を鈍らせたために、呂厳(りょげん)と彼に従った兵たちの命を無駄にしたことを、心の底で悔やみながら、彼女は自分の決断を言い寄る兵士達に言い放った。

(りょ)校尉は私の命を破り、独断で討って出たのである。無断で兵を動かすことが、軍規により死罪と決まっている以上、彼を助けるために兵を出すことはできない。これより先、彼を助けることを言いたてるものは、彼と同罪とする。以後、この城を守り通すことだけを考えるように」

 その言葉を聞いて唖然とする兵士達を眺めながら、白貂娘(はくちょうにゃん)は、二度とこの地を踏むことはできまい、と思った。


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