表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国なき娘~白貂娘異聞~  作者: いちたすいち
第三部 南行編
119/147

第四十章 呂厳、策をもって敵に向かおうとするも、白貂娘に退けられる 1

 白貂娘(はくちょうにゃん)は、北伐の際に路艾(ろがい)という人物を見出し、丁義堅(ていぎけん)に登用を勧めたように、今度は磁渕(じえん)という若者を見出したのである。

 当然、彼についても丁義堅(ていぎけん)に登用を勧めるつもりである。

 しかし、白貂娘(はくちょうにゃん)はこの時点ではそこまで詳しい話を磁渕(じえん)にしたわけではなかった。

 部屋に戻ったときに、檄文の件での功が認められて、自分の幕僚として末席が与えられることになったと伝えただけであった。

「それはつまり、一人前の将として、ということですか」

 突然のことで、磁渕(じえん)も頭が混乱した。

「もちろんよ。これからはあなたも、軍議に参加してもらうことになるわ」

 あまりにも驚いたため、彼はしばらく呆然としていた。


 穣丘(じょうきゅう)においての、穣丘(じょうきゅう)族の立場は極めて低い。多くの軍功を立てた彼の父親ですら、そうした会議に参加することなどできなかった。

 そのため、磁計侃(じけいかん)が太子と共に行動する今回の作戦は、彼らにとって、自分達の地位を高める千載一遇の機会であった。穣丘(じょうきゅう)族の男子の多くが、争うように磁計侃(じけいかん)の元にあつまったのである。

 しかし磁渕(じえん)一人は、当の父親の命令で穣丘(じょうきゅう)に残っていた。

 彼にも父親の考えは理解していたが、それでも自分だけ蚊帳の外にいるような焦燥感があった。一族を挙げて新たな時代を切り開こうと、必死に戦っているときに、自分はただの従者として、城に残っているのである。

 どうしようもないとは言え、自分の無力さに苛立っていたのである。


 しかし、白貂娘(はくちょうにゃん)の幕僚となると話は全く変わってくる。何と言っても、相手は太子の師であり、(てい)大将軍を始めとして、中央の高官達との繋がりも深い。

 自分の目の前に、突然、大きく道が開いたような感覚に襲われ、返事をするのも忘れてしまったのである。

 しかし白貂娘(はくちょうにゃん)は、磁渕(じえん)のその様子を見て、逆の意味に捉えた。

「あなたに相談もせずに話を進めてしまって、迷惑だったかしら。できるなら受け入れてほしいのですが、もしも嫌なら、まだ大司馬(だいしば)に改めて断ることもできますよ」

「いいえ、謹んでお受けします」

 大司馬(だいしば)にもすでに話が通っていると聞いて、慌てて磁渕(じえん)はそう答えた。




 次の日の軍議の席で、改めて白貂娘(はくちょうにゃん)磁渕(じえん)を皆に紹介した。必ずしも反応は好意的ではなかったが、やはり益兼(えきけん)の後押しのお陰で、表向きは受け入れられた。


 ただし内心では、白貂娘(はくちょうにゃん)主導で物事が進んでいくことを、快く思わないものも少なくなかった。

 そしてその中心人物は、彼女の副官となっている、呂厳(りょげん)であった。

 彼は、(てい)軍の戦意が衰えている今こそ、討って出て敵を押し返す好機であると考え、軍議の席でも熱弁を振るった。

 しかし、白貂娘(はくちょうにゃん)は彼の意見を、決して取り上げようとはしなかった。

「確かに敵の動きは鈍くなっています。しかし、この城の兵力だけでもう一度討って出ることには危険が伴いましょう。焦らずとも、必ず都から援軍が到着します。それまで持ち堪えることを考えましょう」

 彼女はそう言って、呂厳(りょげん)を宥めた。しかし彼は三日にわたって、軍議において決戦論を唱えた。その都度、彼は策を練り直し、計画を立て、精巧過ぎるほどの作戦を説明した。

 彼の熱意に、軍議の席に就いていた多くの者も、気持ちが動かされたが、それでも白貂娘(はくちょうにゃん)は首を立てに振ろうとはしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ