表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国なき娘~白貂娘異聞~  作者: いちたすいち
第三部 南行編
112/147

第三十七章 白約楽、龍嵐児に瑛へ帰順するよう交渉する 3

 龍嵐児(りゅうらんじ)白約楽(はくやくがく)を上客の待遇で接した。王蘭玉(おうらんぎょく)は戦場には行く気はしないといい、彼らとは別れて、再び自分の仕事へと戻っていった。

 白約楽(はくやくがく)は直ぐにでも、龍嵐児(りゅうらんじ)が砦を出るものと思っていたが、彼はまだ準備が整っていないと言い、それからさらに三日ほど留まっていた。

 ある日、白約楽(はくやくがく)龍嵐児(りゅうらんじ)に近づくと、彼に例の布の由来を尋ねた。


 白約楽(はくやくがく)は、彼が船室から出てきた時の表情から、(てい)に付く決意を固めたことを悟っていた。

 そしてその決意を翻させたのが、白貂娘(はくちょうにゃん)から渡った布であることは間違いなかった。しかしそれが何を意味するものなのか、一つだけ思い当たる節があったが、それでも事実を確認したかったのである。


 龍嵐児(りゅうらんじ)は、懐から大事そうにその布を取り出すと、別に隠すことでもないと言って、彼に話し始めた。

「これは、俺の義兄弟だった男の形見なんだ」

 龍嵐児(りゅうらんじ)が妙に大きな声で白約楽(はくやくがく)に返答した。その意味を悟り、白約楽(はくやくがく)も少し大きな声でさらに聞いた。

「ほう、だがなぜそんなものを白貂娘(はくちょうにゃん)が持っていたのですか」

「別に不思議でもなんでもない。その男とは、虎雷童(こらいどう)だからだ」

 それを聞いて、白約楽(はくやくがく)も予想通りだと納得した。

 虎雷童(こらいどう)白貂娘(はくちょうにゃん)の繋がりは、誰でも知っている事である。

「俺も虎雷童(こらいどう)も、なりたくて山賊や水賊になったわけではない。白貂娘(はくちょうにゃん)虎雷童(こらいどう)を山賊から抜け出させて、(ほう)の忠臣として死に場を与えてくれたのだ。その上、こうしてあいつの形見まで届けてくれた。俺としても、その恩に報いねばなるまい」

 不自然なほど大きな声で、龍嵐児(りゅうらんじ)はそう、経緯を語った。

 そこまで語ったところで彼はにやりと笑い、声の調子を落として話を続けた。

白貂娘(はくちょうにゃん)に感謝することだな。俺としても(えい)(てい)を秤にかけて、あの時点では(てい)に決していた」

「察していました」

 神妙な顔つきで、白約楽(はくやくがく)が答えると、龍嵐児(りゅうらんじ)はさらに続けた。

「お前の話で、(えい)の方が自分に有利なのは理解できた。しかし、俺の美学としては、名分の立つ方に付きたかったのだ」

「意外と理想家ですね」

 白約楽(はくやくがく)の感想に、龍嵐児(りゅうらんじ)は苦笑した。

「もちろん、俺だって理想だけで生きて行けるとは思わん。だが、一度水賊などになった男が、まともな生活に戻るには、普通以上に自分の行動に気を付ける必要があるんだよ。(てい)王の元に、高遂(こうすい)の養子がいることは知っているだろう」

 その問いに、今度は白約楽(はくやくがく)が苦笑した。

「つい最近知りました。実を言えば、(てい)王のところに、(りゅう)殿を味方に付けるよう勧める男などいないと、たかをくくっていました。たとえいたとしても、こちらに引き込む自信もありましたし。重傑(じゅうけつ)という男の正体を知った時は、ですから私の甘さを再認識させられましたよ」

「ははは。重傑(じゅうけつ)はかなり早い時期から俺に接触してきた。その俺が、理由もなく程から(えい)に乗り換えるなら、人は俺が利に釣られる男だと言うだろう。利で動く人間が信用されず、真っ先に粛清されるのは、歴史が教えている」

「ほう、意外といっては失礼ですが、学もあるのですね」

「耳学問だよ。とにかく、俺にとっても白貂娘(はくちょうにゃん)は救い主だ。堂々と(えい)に味方する名分ができたのだからな」

 龍嵐児(りゅうらんじ)白約楽(はくやくがく)から布の由来を聞かれるのを待っていたのであり、その機会をとらえて仲間に自分と虎雷童(こらいどう)、そして白貂娘(はくちょうにゃん)の関係を伝えたのである。

「なかなか計算高い男だな。だが、本心をあまり人に話すのは感心しない」

「当然だ。(はく)殿は俺達に近いようだし、本心を隠したところで隠し切れるもんじゃないだろう。腹を割って話した方が、要らぬ疑いを持たれずにすむ」

 そういって、彼は再び笑った。

 白約楽(はくやくがく)はそこで、もう一つの疑問について尋ねた。

「ところで、出発を延ばしているように思えるのだが、いつ出発するんだ」

「ああ、(はく)殿には悪いが、俺も子分どもを無駄死にさせたくはない。今、蜀果(しょくか)の側面を衝くのも効果はあるだろうが、数に劣るこちらが押し切るのは難しい。それよりも、あと二週間ほどで新月になる。暗闇の中で攻撃を仕掛けた方が、より効果がある。それに、その頃には都からも援軍が到着するだろう」

「なるほど。だが、それでは日和見たと思われないか」

「思う奴は思えばいい。俺は方針を決め、そのために勝つ策を選んだのだ。あいにく穣丘(じょうきゅう)は、城そのものは固いが、港は開けているぶん、守りに向いているとは言い難い。あの辺りで水上に留まるには、相手と互角以上の戦力が必要になる。水軍には水軍の戦い方がある以上、これだけは譲ることはできん」

 そう言われては、白約楽(はくやくがく)も黙るしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ