第三十六章 比禁、白貂娘と面会する 3
その同じ頃、白約楽は王蘭玉と共に旅を急いでいた。目的地は氾江に巣食う水賊の親玉である、龍嵐児の元である。
水賊を味方に付ける、という話を、彼が正式に回徳や益兼に通したのは、前日の夜のことであった。
白貂娘から、その可能性について聞かされていた益兼は、それほど驚きはしなかったが、回徳の方は、そうはいかなかった。
大変驚くと同時に、猛烈に反対したのである。当然といえば当然である。天下国家が水賊に助けを求めるなど、甚だ外聞が悪い。
益兼の取り成しも、今回ばかりは効果がないかにみえたが、彼を説得したのは太子の一言であった。
「外聞を気にして南華を失うのでは、本末転倒ではないのか」
回徳も、水軍無しで程王の相手をする愚は判っている。ただ、白約楽が常に先走り、事後承諾を求めることに対して反発したのである。
結局、太子の取り成しという形で、回徳は白約楽の策を飲んだ。
白約楽は後のことを益兼、回徳、そして白貂娘に委ね、その夜に王蘭玉と共に旅立ったのである。
船に揺られながら、白約楽は白羊策から聞かされた話を思い起こしていた。
「程王の謀臣である重傑は、高遂の養子である」
高遂は表向きは南華地方で水運業の元締めをしていた。しかし裏で私塩売買の総元締めという立場にあった。
本来、塩の売買は国が握っており、それは国の収入に直結している。当然のことながら私塩売買は禁止されている。
しかし禁止されているからこそ、その儲けは大きい。官製の塩の半値で売っても十分な利益が出る上、民衆からも感謝される。
昔から官吏の目をかすめ、時には賄賂攻勢をかけて見逃してもらいながら、絶え間なく続けられてきたのには、そのような訳がある。
特に南華地方では、長年の分裂のため取り締まりも行き届かず、ほとんど放置に近い状態となっていた。
しかし、それも瑛が天下を統一したことで転機を迎えることになった。
瑛としては、私塩が大量に出回っている状態を看過するわけにはいかない。南華地方を中心に、私塩業者の取り締まりを強化したのである。
そしてこの時、私塩売買の首魁であった高遂が捕らえられ、陽安で処刑されたのである。
高遂の養子という重傑が、復讐のために程王を利用していることは間違いないのだろう。
問題は、高遂、という名前の持つ影響力である。
彼は南華の水運業と私塩の両方の総元締めをしていたことからも判るように、この地方でも有数の大侠客であった。その繋がりは各地の顔役や侠客は言うに及ばず、水賊にまで及んでいたはずである。
白羊策の尽力で彼らを表面的に抑えたとはいえ、重傑の持つ影響力によっては、それもひっくり返される恐れがあった。
そして、何よりも白約楽が向かっている、龍嵐児にも既に手が回っていると見て間違いなかった。
「まあ、事ここに至った以上、私も後戻りするわけにはいかない」
白約楽は覚悟を決めた。そして、覚悟を決めると肩の力も抜けた。




