第三十四章 白約楽、王蘭玉へ仕事の依頼をする 2
白約楽が皇帝から絶対の信任を得ているのは、彼の処世術の賜物である。
権力者について働くものには、常に粛清という二文字が付きまとう。特に、功績が大きくなればなるほど、その危険は大きく、それが元勲と言われるような立場であれば、独裁者にとっては目の上の瘤以外の何者でもなくなるのである。
現皇帝の法安才からの信任厚いからといって、そのような危険が完全に回避される訳ではない事は、歴史が証明していた。
白約楽はそのために、常に自分の評判に気を付けていた。その一つが決して約束を破らない、という事である。それは彼の策士としての印象を和らげる効果があった。
そして、もちろん陽長公主はそうした白約楽の姿勢をよく知っていた。だからこそ、白約楽にむりやり、外出の約束をさせたのである。たとえ難しい約束だろうと、皇帝の娘との約束を守らない訳にはいかないだろうと踏んでいたのである。
「まあ白殿には気の毒だけど、こうでもしなければ、自由に街を見る事もできないじゃない」
高穣寺の裏口から出た法詠華は、白貂娘にそんな話をした。
「白殿も忙しいのですから、余り無理を言われてはかわいそうですよ。どうか、これからは控えてくださいね」
「判っているわ。私だって、それほど我が侭ではないつもりよ」
二人はそんな事を話しながら、白約楽に言われた茶屋へと向かった。
「あ、詠華様。ここですよ」
そこは『楊寧亭』という名前の、小さな店だった。入り口の前に一匹の大きな黒犬が寝そべっている。白貂娘が声を掛けると、横目でちらりと見ただけで、しっぽで返事をした。
二人が店の中に入ると、奥の席には王蘭玉が座って待っていた。
「ああ、待っていたよ。さあ、どこへ行こうかね」
三人は店を出ると、おしゃべりをしながら雑踏の中へと消えていった。
白約楽は、陽長公主を送り出した後、次の手を打つために、開砂から戻ってきた白羊策を呼び出していた。
「川向こうの主な顔役達には大体、連絡はついた。後は彼らがどう判断するかだな」
「そうか。ご苦労だったな。これで程王の方はほぼ片がついたと言える」
白約楽はそう安堵の息を漏らしたが、白羊策はそれに水を差すように言葉を継いだ。
「顔役達がどちらに付くかは、微妙だぞ」
「なぜだ。お前の腕なら彼らを説得する事など、たやすいだろう」
弱気とも取れる白羊策の言葉に、白約楽は首を傾げた。
「俺だから、微妙な線まで持っていけたんだ。油断をしていると、足を掬われるぞ」
「何があったんだ」
「程王の謀臣に、重傑という男がいる」
白羊策が一人の男の名前を挙げたが、白約楽には聞き覚えのない名前であった。
「その男が、程王を操っている、という訳か。それで、どういう男なんだ」
「恐ろしく頭の切れる男だが、問題は彼の正体だ」
「何者だ」
「驚くなよ。あの高遂の息子、正確には養子だった男だ。今は世を憚って偽名を使っているという訳だ」
その名前を聞いて、白約楽は驚いた。




