序章 皇帝法安才、天下統一を為す
前作「蒼楼夢」よりおおよそ20年くらい後の話です。
二百五十年余続いた涼は第十八代皇帝であった膳帝の代で滅び、それ以降はほぼ七十年に及ぶ動乱の時代を迎えた。陽河域周辺の中原地方は、天下を伺う英雄豪傑が次々に独立し、中でも五つの国が特に力を持ち、中原制覇の一歩手前までいった。
一方、南の氾江域周辺、いわゆる南華地方ではそうした強力な国が出現することはなかった。幾つかの国が互いに牽制しあい、一部の例外を除いて大きな戦が起きることもなく、複数の国が並立する比較的安定した時代が続いた。
後に分国時代と呼ばれるこの戦乱の時代を制したのは、中原の五国のうち最後の国となった賢から禅譲を受けた瑛、その第二代皇帝である法安才であった。
彼により中原の葛、定、幹、また南華の渠、程、細、慶といった国は次々に平定されていった。
最後に残ったのは山岳地帯に割拠していた奉という小国であり、この国の第六代国主であった平蘭史は、天下の難所と謳われた白廊関に当時まだ十四歳に過ぎなかった、白貂娘の異名を持つ王礼里という少女を守将として配置し、約一年の間、抵抗を続けた。
しかし奉の朝廷で白貂娘に対する讒言がなされたため、彼女は白廊関の守将を解任され、別の者がその地位に就くことになった。
奉の国主である平蘭史が瑛に降ったのは、それから五日後の事だったという。