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第9話 奴隷にメイド服を着せる真祖

 「あ、起きてたの?」


 少女の服を買い終えてファーティマが宿に戻ると、少女は既に起きていて床に座っていた。

 ボロボロの奴隷服を身に纏っている。

 

 「服を買ってきたよ。いつまでもその服は嫌でしょ?」

 

 ファーティマはそう言って少女に購入した衣服を渡した。

 胸の下着に関してはサイズが分からなかったので、買っていない。


 胸の下着に関しては後で買いに行く予定だ。


 「そうそう……名前、聞いてなかったよね? 私はファーティマ。あなたの名前は?」

 「クリスティーナです。その、傷を治して頂きありがとうございました」

 「うん、えっと……クリスって呼んでいい?」

 「はい。どのように呼んで頂いても構いません。あの……ファーティマ様とお呼びすべきでしょうか? それともご主人様?」


 ファーティマは少し悩んでから……

 

 「どっちでも良いよ」

 「……ではご主人様とお呼びさせて頂きます」


 クリスはそう言ってファーティマに一礼した。

 ファーティマは購入した服に着替えるように促す。


 クリスはファーティマに改めて礼を言ってから、服に袖を通した。


 「あの……こ、これは……」

 「ダメだった? いやさ、召使に着せる服ってありますか? って店員に聞いて、一番可愛い奴を四着買ってきたんだけど」

 「い、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」

 「そう、それは良かった」


 ファーティマがクリスに買ってきたのは所謂、メイド服と呼ばれる類の服だ。

 しかもスカートの丈は膝上。


 短いスカートは履きなれていないのか、クリスはスカートの裾を握り、落ち着かない様子だ。


 「その、ご主人様は吸血鬼なのですか?」

 「うーん、まず吸血鬼って言い方はやめて欲しいな。それ差別用語だからさ。吸血族って、言ってくれない?」

 「あ、はい……すみません」

 「いや、別に怒ってないから大丈夫だよ」


 ファーティマは優しそうな笑みを浮かべてクリスの頭を撫でた。

 そしてクリスの質問に答える。


 「さっきの答えだけどね、厳密に言えば吸血族ではないね。私は吸血族の生みの親、つまり私が吸血族を生み出すまでは吸血族はこの世に存在しなかったわけで、そうだとすると私が吸血族というのはおかしいしね」

 「は、はい?」


 クリスは首を傾げた。

 まるで自分が吸血族の真祖かのようなモノ言いに困惑した表情を浮かべた。


 「改めて、名乗ろうか。私はファーティマ。二人の吸血族の真祖の一人、『白の真祖』にして四千年前全ての種族の王となった霊長の王(ロード)、そして世界最強の魔術師。地母神の女神と神殺しの古代人の英雄との間に生まれた、半人半神の……最高の人間にして最低の神。ファーティマだよ」

 「は、はぁ……」


 クリスの表情にさらに困惑の色が広がる。


 「ああ! 全然信じてないでしょ!! まあ、良いけどね。あ、これも全部秘密だから絶対に言わないでね。ところで私からも質問、して良い?」


 ファーティマは全く信じてなさそうなファーティマに対して、質問を一つ投げかけた。


 「あの火傷、前の主人に嫉妬されて云々ってのは本当?」

 「……はい、それは本当です」

 「そう。嘘じゃないなら、良いかな。まあ嘘だったからといっても、別に捨てるような真似はしないけど」


 少なくともクリスの境遇に強い親近感を覚えたことが、クリスを購入した動機の一つなのだ。

 嘘だと、少し気分が落ちる。


 「まあ、別に私はクリスの過去を根掘り葉掘り聞こうとは思わないからね。血さえ、吸えれば良いし……さてそろそろ時間だしご飯にしない? 食堂であなたの分の食事も用意してあるからさ」









 その日の夕食はパン、羊肉のシチュー、サラダだ。

 特に豪勢というわけではないが、値段の割には量も多く、味も良い。


 (しかし四千年前と比べて料理の種類も増えたなぁ。パンも柔らかくて美味しいし)


 ファーティマは料理に舌鼓を打つ。

 無論、四千年前はファーティマの食事は一流の料理人が作っていたため、四千年前の方が料理そのものは美味しい。

 だが食材の種類や風味など、四千年前には無かったものが多いため、ファーティマはかなり食事を楽しめていた。


 (しかしそれにしても……)


 ファーティマはシチューを食べながらクリスの様子を観察する。

 クリスはパンを一口大に千切って、口に運んでいた。

 

 四千年前と現代では食事の作法は大きく異なるが、クリスの作法はかなり洗練されているように見える。

 少なくともファーティマよりも食べ方が上手だ。


 ……四千年前にはスプーンもフォークもナイフもなく、食事は全て手掴みだった。

 無論、手掴みには手掴みなりの作法があるのだが、今は手掴みはマナー違反になる。


 そのためファーティマもフォーク等を使用していたのだが、イマイチ使い方に慣れていなかった。

 一応、周囲の人を観察しながら見様見真似でやってはいるのだが……

 微妙に違う気がする。


 「あのさ、クリスちゃん」

 「はい、ご主人様。何でしょうか?」

 「……過去を根掘り葉掘り聞く気はないって言ったばかりで悪いんだけど、実は良いところの出だったりする?」


 ファーティマが尋ねるとクリスは曖昧に笑った。


 「まあ……それなりには。ですが、今はご主人様の奴隷ですから」

 「そのさ、今度で良いから食事のマナーとか教えてくれない? 私四千年前の人だから、今の作法分からなくて……あと、マナー違反していたら教えてね」

 「は、はい……構いませんが」


 四千年前、というワードを聞きクリスは苦笑いを浮かべる。

 クリスは全く信じていなかった。

 



 

 食後、ファーティマは水浴びをするのが習慣だ。

 四千年前は毎日お風呂に入っていたが、今は薪代が勿体無いので水で澄ませている。


 水浴びだけとはいえ、汚れを落とすのと落とさないのでは大きな違いだ。


 「そういえばさ、公衆浴場ってのがあるらしいね。クリスちゃん、行ったことある?」


 ファーティマはクリスからタオルを受け取り、濡れた体を拭きながら尋ねる。

 クリスは首を横に振った。


 「いえ、私はこの都市の生まれではありません。ただ行ったことはありませんが、私の故郷にも公衆浴場はありました。その……混浴でしたけど」

 「混浴かぁー、うーん、恥ずかしいような、でも行ってみたいような」


 四千年前にも混浴風呂はあった、というか公衆浴場と言えば混浴だったが……

 さすがに霊長の王(ロード)が混浴風呂に出没すれば大騒ぎになるため、行ったことはない。


 「ここの公衆浴場も混浴なのかな?」

 「それは……分かりません。申し訳ありません」

 「いや、良いんだよ」


 ファーティマは服を着込みながら、気にしないようにクリスに言った。

 つい昨日まで奴隷市場にいたクリスがこの都市の事情を知っているはずがないのだ。


 「明日の朝、少し用があるし……もう寝ちゃおうか」

 「はい」


 ファーティマはそう言ってクリスを連れて部屋に戻り、ベッドに潜り込む。

 そして毛布を上げて、隣のポンポンと叩いた。


 「ほら、早く」

 「え? な、何ですか?」

 「いや、床で寝たら痛いでしょ? 明日には二人部屋を用意して貰うからさ、今日は一緒に寝ようよ」

 「いえ、床で十分です。そんな、ご主人様と御一緒に寝るなんて……」


 クリスがそう言うとファーティマは悲しそうな表情を浮かべる。


 「そう……吸血族の女と寝るのは嫌なのね。いや、良いんだよ。別に……全然気にしてないから。うん、大丈夫。……グス」

 「あ、いえ……け、決してそういうわけではありません。た、ただ奴隷がご主人様と御一緒に寝るなんて……」

 「私は気にしない。そして私たちが同じベッドで寝るところを見ている人もいない。だからさ、ほら。……それともやっぱり私が怖い?」


 ファーティマがそう言うと、クリスは観念したのかベッドの上に上がった。


 「……私、寝相悪いですよ?」

 「大丈夫、私も悪いから」


 ファーティマはニヤリと笑みを浮かべた。


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