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第4話 時間の流れに驚く真祖

 さて、暫く進んでいると……馬車の前方を馬で走っていた男性が大声を上げた。


 「不味い、止まれ!! 魔物、しかもA級だ!!」


 馬車が急減速し、思わずファーティマは前のめりになった。

 ファーティマは馬車から飛び降りて、尋ねる。


 「どうしたんですか?」

 「A級の魔物だ……すまねぇ、嬢ちゃん。俺たちの今日の運勢は相当悪いらしい」


 男性剣士の視線の先を追うと、そこには巨大なサソリがいた。

 大きさは象と同じ程度。

 黄金に煌めいていて、紫色の瞳がこちらを見つめている。


 「魔物、ね……」


 ファーティマの知識の限りではあのような生き物はいない。

 これでもファーティマは知識人だ。

 あれだけ巨大なサソリが生息しているならば聞いたことくらいはあるはずだ。


 (そもそもあの大きさで動けるの?)


 ファーティマは首とアホ毛を傾げた。

 中々興味深い生き物だ。


 できればもっと観察したい。


 「嬢ちゃん、逃げな」

 「あなたたちはどうするんですか?」

 「俺たちには都市に荷物を届ける任務がある。放棄して逃げるわけにはいかねぇ。……短い間だったが、面白かったぜ」


 男性剣士はニヤリと笑った。

 ファーティマも笑みを浮かべる。


 「うん、私も楽しかった。だからみんなには死なないで欲しいな。……ようするにさ、あのサソリを倒せば良いんでしょ?」

 「バカを言いなさい! A級の魔物よ? 最低でも一個大隊は必要になるわ。勝てるはずがない。あなたは逃げなさい」

 「そうだ! いくら君が魔術師として優れていたとしても無理だ!」


 女性魔術師と男性魔術師はファーティマに逃げるように言う。

 本当に良い人たちだ。


 だからこそ、逃げるわけにはいかない。


 ファーティマは理力を魔力炉に流し込み、魔力を生成する。

 それを全身に長し、世界記憶(アカシック・レコード)にアクセス。


 この世界の法則を一時的に捻じ曲げる。


 「身体能力、強化!」


 ファーティマは一気に跳躍し、サソリとの距離を詰めた。

 サソリはハサミを振り上げ、ファーティマを真っ二つにしようとする。


 「危ない!!」


 男性剣士が叫ぶ。

 が、ファーティマは無傷だった。


 ファーティマの蹴りがサソリのハサミを一撃で粉砕したのだ。

 

 「何だ、大したことないじゃん。やっぱりあの人たち、私のことからかってたんだ。この程度、二流の魔術師なら余裕だよ」


 一流を超え、世界最強であるファーティマならば言わずもがな。


 ファーティマは右手に魔力を集める。

 するとファーティマの手の中に砂が集まり、それは岩石へと変化する。


 杭のような形になった岩石をファーティマは高速右回転させ…… 

 解き放った。


 回転した杭は毒を持った尻尾を振り上げたサソリを一撃で串刺しにした。

 紫色の血液が飛び散る。


 「危ない、危ない……」


 ファーティマは風で血液を吹き飛ばし、血を避けてから……

 後ろを振り返り、ピースサインを突き出した。


 「倒したよ!」


 彼らは唖然とした表情でファーティマを見つめた。







 「ところであのお化けサソリ、どうするの?」

 「うーん、まあ街まであと一時間だしな。冒険者ギルドにでも連絡して、買い取って貰おう」

 「ぼうけんしゃぎるど?」


 ファーティマは首とアホ毛を傾げた。

 男性剣士は苦笑いを浮かべる。

 ファーティマの世間知らずにはもう、慣れてしまった。


 「ま、まあ……それは後で説明するよ。おそらく金貨五枚程度で買い取ってもらえるはずだ」

 「取り分は?」(きんか? 金っていうことは、価値のある装飾品か何か? それとも砂金の一種?)

 「まさか……助けてもらった上に、要求なんてできないよ! 全て君のものだ。それにしても、随分と強いんだね」


 男性剣士がそう言うとファーティマは首を傾げた。


 「あの程度の虫、二流程度の魔術師なら余裕だと思うけど。私、そんなに高度な魔術使ってないよ」

 「だ、そうだが……どうなんだ?」

 「「そんなわけあるか!!」」


 男性魔術師と女性魔術師は大声で叫んだ。


 「あのレベルを一撃で倒せる魔術師なんて、一流を超えた超一流くらいだ!」

 「そうよ。それにあの身体能力強化も……いったい、どうすればああなるのよ!」


 身体能力に関して言えば、そもそも真祖であるファーティマは元から高いのだが。

 

 「えっと、そんなに私おかしいですか?」

 「「おかしい!!」」


 二人の魔術師は口を揃えて言った。

 ファーティマは熟考する。


 お前はおかしい。

 とは、確かに昔からファーティマは言われてきた。


 だがあれくらいの魔術ならば、誰でも……とは言わないが、二流の魔術師ならば使えるはずだ。


 ここで初めてファーティマの脳裏にある可能性が浮かぶ。

 もしかして自分が寝ている間にこの世界の魔術は大きく衰退してしまったのではないだろうか?


 と。


 だがファーティマはアホ毛を左右に振った。

 あり得ない。


 だとするならば、少し金持ち程度の人間が鉄製の武器を平然と帯びるなんて不可能だ。

 魔術は明らかに発展しているはず。

 つまり……


 「やっぱりからかってるんですね? その手には乗りませんから」

 「「違う!!」」






 その後、ファーティマは男性剣士たちに連れられて『冒険者ギルド』を訪れた。

 例のお化けサソリの討伐証明と死体の買い取りを依頼するためだ。


 「『冒険者ギルド』は魔物の討伐の依頼、冒険者の派遣、素材や魔石の回収・販売・流通を一手に引き受けている巨大組織だ。生きていれば必ず利用することになるから嬢ちゃんも覚えておくと良い」

 「へぇー」


 どうせこの世間知らずの美少女は子供でも知っている『冒険者ギルド』については全く知らないだろう。

 と、思い簡単な説明をする。


 案の定ファーティマは冒険者ギルドについては全く知らなかった。

 当然と言えば当然だ。


 昔は魔物など存在せず、冒険者ギルドなど不必要だったのだから。


 「冒険者、というのは?」

 「魔物討伐を専門とする、冒険者ギルドに所属している傭兵だ。俺たちも一応冒険者だな」

 「なるほど」


 ファーティマが冒険者ギルドと冒険者について、最低限の理解をしたことを確認した男性剣士は、ファーティマを引き連れてカウンターに行き、例のお化けサソリを討伐したことを伝えた。

 そして証拠である尻尾の毒針を見せた。


 「なるほど、確かにこれはキングスコーピオンの毒針ですね。少々お待ちを……討伐料をお支払いします」


 受付嬢はそう言って立ち上がり…… 

 しばらくしてから金の円状の板を五枚、持ってきた。


 「A級指定なので、金貨五枚となっております。どうぞお確かめください」

 

 受付嬢はそう言って男性剣士に金貨を渡した。

 男性剣士は首を横に振る。


 「倒したのは俺じゃない、彼女だ。俺たちは助けられただけだ」

 男性剣士がそう言うと受付嬢は目を丸くした。


 「まさか! A級指定の魔物ですよ? こんな女の子が……いえ、申し訳ございません。ところで冒険者ギルドに加盟していますか?」

 「いえ、していません」

 「そうですか……冒険者ギルドに加盟していない方の場合は、手数料として二割を頂くことになっております。ですので、金貨四枚ということになります。ご了承ください」


 ファーティマは頷いて、受付嬢から金貨を四枚受け取ってから……

 男性剣士に尋ねた。


 「あの、これ何ですか?」

 「金貨だが……」

 「金貨?」


 ファーティマは首を傾げた。

 ファーティマの態度に男性剣士は呆れた表情を浮かべた。


 「それはお金と言ってな、物と交換できるんだよ」

 「つまり金と銀を予め決められた額面通りの割合で混ぜて、取引を円滑にしているということ? 確かに便利だね」

 (何でそんなに難しく考えることができるのに、金貨を知らないんだよ)

 

 ファーティマはまじまじと金貨を眺める。

 ファーティマの時代は砂金や銀の塊などを取引の媒体に使用したことはあるが、このように決められた割合で溶かして、一定の形と大きさに加工したものは無かった。


 物価水準は分からないが、二級魔術師でも倒せる程度の生き物だ。


 大した額ではないだろう。

 と、ファーティマは勝手に思っていた。


 なお、金貨一枚は『成人男性が一月暮らしていくのに必要な最低限の金額』とされている。

 よって金貨四枚は決して安いとはいえない。


 「死体は回収後、査定し……後日金額をお支払いします。二週間後を目安にもう一度、ここに来てください。ところで冒険者ギルドに加盟致しませんか? 加盟して頂ければ次回以降、手数料が無料となります」


 ファーティマは暫く考えてから、頷いた。

 今のファーティマは服程度しか資産を持っていない。


 こういうは多いに越したことは無いだろう。


 「では、ここにサインを」

 「はい」


 ファーティマはさらさらと契約書にサインをした。

 すると受付嬢は苦笑いを浮かべた。


 「申し訳ございません。その、何て書いてあるのでしょうか?」

 「あーあ、そうか……字が違うのか」


 ファーティマは困ったように頬を掻いた。

 翻訳魔法は筆跡にまで作用しないのだ。


 「良かったら代筆致しますか? お名前を伺っても?」

 「ファーティマです」


 ファーティマがそう答えると、受付嬢は笑みを浮かべた。


 「ファーティマ様、ですね? あの霊長の王(ロード)と同じですね。良いお名前ですね」

 「霊長の王(ロード)!」

 「おいおい、嬢ちゃん……まさか霊長の王(ロード)すら知らないなんて言わないよな?」


 男性剣士がそう言うと、ファーティマはアホ毛と首を横に振った。

 知らないも何もファーティマはその霊長の王(ロード)である。


 ここでふと、ファーティマは自分がこの時代にどのように伝わっているのか気になった。

 男性剣士に尋ねる。


 「でも私の知っている霊長の王(ロード)とは少し違うかもしれません。一応、教えて貰えますか?」

 「知らないなら素直に知らないと言えよ。霊長の王(ロード)ってのは、神代の終わりの半神半人の大英雄だ。悪の吸血()を打ち倒したことで有名だな。そして霊長の王(ロード)は信仰の対象にもなっている」


 どうやら自分のことはそこそこ伝わっているようだ。

 ファーティマは胸を撫で下ろした。

 吸血()というのは少し気になったが。


 「霊長の王(ロード)が吸血鬼と相討ちとなり、永眠なされた時が神代の終わりとされています。その年を紀元元年としたのが大陸歴です」

 「へぇー、暦にもなってるんだ」


 受付嬢の追加説明を聞き、ファーティマは少し嬉しくなった。

 自分のやったことが後世に伝わり、何かの節目として認識されているのは誇らしい。


 死んだことにされているのは遺憾だが。


 「ところで今は紀元何年ですか?」

 「丁度、四千年ですね」

 「へぇー、四千年ですか……え、四千年?」


 思わずファーティマは聞き返した。

 

 「はい、四千年ですよ」

 「よ ん せ ん ね ん!!!!!!!!」


 ファーティマの絶叫が冒険者ギルドに響き渡った。

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