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第3話 勘違いを深めていく真祖

 砂漠をのそのそと一時間ほど歩いていると、ファーティマの目に不思議な集団が移った。

 人数は八人ほど。


 彼らは小さな小屋のようなものの周囲に集まっており、その小屋には馬が二頭繋がれていた。

 また数頭の馬が杭のようなもので地面と繋がれている。


 「遊牧民かな?」


 ファーティマは首を傾げた。

 ファーティマが知る限り、馬を利用するのは遊牧民くらいだ。


 「話しかけてみよう……おっと、その前に翻訳魔術を使わないとね」


 ファーティマは魔力炉で魔力を生成し、翻訳魔術を起動させる。

 これでコミュニケーションに支障が出ることは無い。


 「すみません、皆さん。何をなさっているのですか?」


 ファーティマは少し緊張しながら話しかけてみた。

 すると一人の男―腰に剣を下げているので以下男性剣士とする―がファーティマに振り返っていった。


 「いや、馬車の車輪が壊れちまってね。進めなくて困ってるんだよ」

 「馬車……というのは、その小屋みたいなのですか?」

 「うん? そうだけど」


 ファーティマは興味津々でその馬車、というものに近づいてみる。

 なるほど、近づいてよく見てみれば何のことは無い。


 荷車に布を屋根を取り付けて、馬に引かせているだけである。

 馬が引く車だから、馬車なのだろう。


 ファーティマは納得の表情を浮かべた。


 「壊れた車輪、というのはこれですか?」

 「ああ、そうだよ。……ところでお嬢ちゃん、一人なのか? この大砂漠で?」

 「まあ、そんな感じです」


 ファーティマは生返事をしつつ、その車輪を見た。

 なるほど、確かに壊れてしまっている。これでは進めないだろう。


 「予備の車輪は無いんですか?」

 「全部使っちまったんだよ。はあ、本当についてない」


 どうやら不運の連続に見舞われたらしい。

 ファーティマは少し考えてから、尋ねる。


 「ここからもとよりも集落まで、どれくらいですか?」

 「三時間もあれば到着するはずだよ」

 「三時間、それなら大丈夫です。私が浮かせますので、壊れた車輪を取り外してください。これでも魔術師です」


 ファーティマがそう答えると男性剣士は目を丸くした。


 「へぇ、その年で魔術師か! そいつはすげぇ……でも、そんなに魔力が持つのか?」

 「物を浮かせるのは基礎中の基礎ですから」


 ファーティマがそう答えると、「へぇー、そんなものなのか」と男性は勝手に納得した。

 すると杖を持った女性―以下女性魔術師―が言った。


 「そんなわけないでしょ! 物体浮遊の魔術は難易度の高い魔術の代表例じゃない!嘘は言わない方が……」


 論より証拠。

 と、言わんばかりにファーティマは自分の体を魔術で浮かせて見せた。


 すると女性は目を丸くした。


 「う、嘘でしょ? 自分の体を浮かせる魔術なんて……そんな大質量を浮かせるなんて、魔術大学の教授レベルじゃないとできるはずが……」

 「コツを掴めば、そんなに難しくないですよ?」


 自分の体を浮かせることができて、ようやく二流魔術師だ。

 悪い言い方をすると、女性魔術師はおそらく三流程度の魔術師なのだろう。


 ファーティマは勝手にそう納得した。


 「難しくないわけないだろ……というか、魔力は持つのか? 俺の恩師は自分の体を一時間浮かせるだけで、魔力が尽きちまったぞ」


 ファーティマに別の男性―以下男性魔術師―がそう突っ込んだ。

 ファーティマは首とアホ毛を傾げた。

 

 「浮かせるだけならば、二十四時間くらいは簡単じゃないですか? だって体に掛かる重力を調整する程度ですし」


 ファーティマの言葉に女性魔術師と男性魔術師は頭を抱えた。


 「重力? 何よそれ……」

 「浮遊魔術って、空気を操る術じゃないのか?」


 二人が混乱しているのを尻目に、男性剣士はファーティマに手を合わせて頼んだ。


 「もう何でもいい! 嬢ちゃん、この状況を何とかできるんだな? 頼む!」

 「困った時はお互い様です。それに私も道が分からなくて困っていましたし」


 ニコリとファーティマは笑った。






 「ほ、本当に大丈夫?」

 「ま、理力はまだ持つか?」

 「全然余裕ですよ」


 ファーティマは怯えた表情の女性魔術師、男性魔術師に対して笑顔を浮かべた。

 現在、馬車は壊れた前方右の車輪を外した状態で走行している。


 車輪がない前方右の部分をファーティマが魔術で浮かせることで、この馬車は安全に走れているので、もしファーティマの魔力が尽きれば馬車は前のめりになって壊れることになる。


 「理力をたくさん持っているにしても、魔力の変換効率を考えると持たないと思うんだが……どうやってるんだ?」


 男性魔術師はファーティマに尋ねた。

 ファーティマは首を傾げてから答える。


 「普通に魔力炉を使って作っています」

 「魔力炉?」


 女性魔術師が首を傾げる。

 ファーティマは頷いた。


 「ええ、魔力炉です。理力を魔力に効率良く変換する、疑似的な内臓器官です。それがどうかしましたか?」


 ファーティマがそう言うと男性魔術師と女性魔術師は頭を抱えた。


 「何だよ、それ……」

 「普通ではないでしょ……」


 ファーティマは首を傾げる。

 少なくとも三流以上の魔術師を名乗るのであれば、魔力炉程度は扱えないとダメだ。 

 どうやら二人は言い方は悪いが、三流以下……のようだ。


 「ところで皆さんは遊牧民なのですか?」


 ファーティマは疑問に思っていたことを口にした。

 少なくともファーティマの常識では、馬に乗るのは遊牧民だけだ。


 しかし……


 「いや、違うよ」


 馬車のすぐ横を馬に乗って駆けていた男性剣士に否定されてしまった。

 確かに遊牧民だけが馬に乗れる、というのは語弊がある。

 

 農耕民も訓練すれば馬に乗ることはできるのだ。

 

 「……あ、もしかしてその変な器具が秘訣ですか?」

 「変な器具? もしかして鐙のことか?」

 「へぇ、それ鐙って言うんですか。凄いですね!」


 ファーティマは目を輝かせた。

 バランスを取り、踏ん張るための足場を用意するという発想はファーティマが生きていた時には無かった。

 やはり随分とテクノロジーが発達している。


 (魔術はどれくらい発展しているんだろうか?)


 ファーティマは思わずにやけてしまった。

 ファーティマはこれでもかなりの魔術オタクなのだ。


 「もう一つお聞きしたいのですけど、皆さん、鉄の剣を持ってますよね? 実はそこそこのお金持ちだったりするんですか?」

 

 いくら魔術師がたくさんいるからといって、それでも鉄の錬金は難しい。

 まさか、魔術を使わずに鉄を作り出せるはずがない(・・・・・)


 それに数百年(・・・)程度で鉄の価値が暴落するとは考えられない。


 「まさか。剣を持っているだけで富豪なら、冒険者はみんな富豪だよ」


 男性剣士は苦笑いを浮かべた。

 ファーティマはアホ毛を傾げる。


 「でも青銅の剣とかもまだ、ありますよね?」

 「……いったい、いつの時代の話をしているんだ?」


 イマイチ会話が噛み合わない。

 他にもいろいろとファーティマは質問を重ねたが、様々な価値観の相違があった。


 例えば青銅なんて、今では殆ど使われていないとか……

 銀よりも金の方が価値があるとか。

 鉄なんて、一般家庭でも調理器具として使用されているとか。


 金の価値が上がり、銀を超えるというのは理解出来るが、金の数倍の価値があるはずの鉄が一般家庭の調理器具で使用されているとは、俄に信じがたい。


 (ああ、分かった! この人達は良いところのお坊ちゃん、お嬢さんなんだ! 彼らの言う一般家庭っていうのは、超大金持ちに違いない!)


 ファーティマはポンと手を打った。

 冷静に考えてみると、馬を何頭も保有している段階でそれなりの金持ちだ。


 彼らの言っていることを真に受けてはいけない。

 ファーティマはそう考え、彼らに現在の事情を聞くのをやめた。





 実際のところ、彼らは富豪ではなく一般庶民であり、馬も借りているものなのだが……

 それに彼女が気付くのには、もう少し時間が掛かる。

 人は自分の常識の中でしか、考えられない生き物なのだ。


鐙の発明は四世紀ごろなので、超最近

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