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第23話 魔術を教える真祖

 さてファーティマが神官長のところに通い始めてから一月が経過した。


 ファーティマは特に成果を得ることができなかったが、クリスの魔術と武術の腕そのものは時間経過に比例するようにメキメキと上昇した。

 それを裏付けするように……


 「クリス! Bランクソロ、昇給おめでとう!!」

 「あ、ありがとうございます」


 クリスの冒険者としてのランクがBに上がった。

 ランクの昇級には、第三者の立ち合いの下で相応の魔物を討伐するという条件が必要になる。

 

 今までクリスはファーティマの下でBランクのミノタウロスを倒してきたが、しかしファーティマはお世辞にみ第三者とは言えないので、Bランクへの昇級は出来なかった。


 しかし今回はギルド職員立ち合いの下でB級相当のオークと戦い、見事これを倒したので、無事にBランクと認められたのだった。

 

 ファーティマは当然の結果と受け止めているが、クリスは当惑している。

 クリスにとってBランク冒険者というのは相当な実力者であり、そう簡単になれるものではない。


 それに数か月でなれてしまったのだ。

 

 「私なんかが、本当に良いんでしょうか? 何だか、ズルをしたような気がします」

 「ズル? まあ私の教えの賜物なのは事実だけど、クリスもしっかり努力したわけだし。それにズルだろうが何だろうが、大切なのは実力だよ。奢り高ぶっちゃいけないけど、相応に胸を張るのは良いことだよ」


 と言いつつ、ファーティマは内心で「血の影響か……」と呟く。

 ファーティマも人(神)生で一度も弟子を取ったことがないわけではない。

 だがさすがにクリスほど上達が早い弟子は初めてだ。


 ほぼ間違いなくファーティマの血液が影響を及ぼしてしまっている。

 

 (でも吸血族やサキュバス族になっているわけじゃあ、無いんだよね。満月を見ても大丈夫だから人狼族でもないし。……というか冷静に考えてみると、私自身が私の血液を使って薬を作るのは初めてだったね)


 昔、とある名医との共同研究で「もはや死を待つまでの病人を一瞬で治癒してブレイクダンスを踊れるレベルまで回復させる」薬などを作成したりしたことはあるが。


 前回、ファーティマはクリスの傷を癒すのに使った薬はこの名医との共同研究の代物である。

 少なくとも名医立ち合いの下での治験では、変なことは起らなかった。

 

 (あちゃー、もしかして私、調合間違えたかな?)


 ファーティマは治癒魔術は得意だが、ポーションの制作そのものは得意ではない。

 錬金術は不得手としているのだ。


 死後、神に列せられるレベルの名医の薬と同じレシピ。

 とはいえ、それをファーティマが完全に再現できるかどうかは別の話である。


 これからは下手に血液を使用するのは止めようと、ファーティマは誓った。


 ただでさえ、これまで数々の珍種族、珍獣を生み出してきてしまったのだ。

 これ以上増えては溜まらない。


 「よお、嬢ちゃん。久しぶりだな」


 突然声を掛けられた。

 振り向くと、そこにはコンラートたちがいた。


 「聞いたぜ、召使の嬢ちゃん、Bランクになったんだってな」

 「うん、まあね」


 コンラートは小声で尋ねた。


 「……あのさ、もし俺たちが嬢ちゃんに魔術を教えて貰ったらBランクに昇格できるようになるか?」

 「それはどうかな……正直、言い切れないところがあるよ。クリス、天才だったし」


 コンラートたちがファーティマの血を飲めば、もしかしたらなれるかもしれない。

 だがファーティマは血をコンラートたちに飲ませるつもりもないし、飲んだところで確実にそうなるとも限らない。


 「教えて欲しいの?」

 「え、いや……まあ教えてくれるなら。良いのか?」

 「あまり人に吹聴されると困るけど、秘密にできるなら」


 ファーティマがそう言うとコンラートは目を輝かせた。

 やはり教えて欲しかったようだ。


 まあファーティマ個人としても、これまで世話になった恩がある。

 教えることは吝かではない。

 

 「あー、でも私一人じゃ全員の面倒を見切れないね。クリスもいることを考慮に入れると二人までだね」

 「おう、分かったぜ! じゃあよろしくな!!」






 さて、それから一週間後のこと。

 街の郊外でファーティマとクリスが待っていると、コンラートたちのメンバーの魔術師である男性魔術師と女性魔術師がやって来た。

 

 まあ、予想通りの人選である。


 まずファーティマは二人に尋ねる。


 「私、二人がどれくらい魔術について知っているか分からないから取り敢えずいくつか質問させて貰うんだけど、まず……魔術って何だと思う?」

 「魔術は……魔術だろ」


 男性魔術師は答えた。

 ファーティマは「こりゃあダメだ」と思い、女性魔術師に視線を移す。


 「ええと、不思議な力でしょ」


 女性魔術師は答える。

 ファーティマは溜息を吐いた。話にならない。


 「一応聞くんだけど、二人ってこのじだ……ごほん、この辺りでは一般的な、標準的な魔術師なんだよね? 魔術師ですって名乗っても、多くの人が魔術師だと認識する程度には達してる魔術師なんだよね?」

 「……一応師匠からは免許皆伝は貰っているぞ」

 「私も一応。魔術大学は出てないけど……」


 つまりこれが標準のようだ。

 根本から魔術への理解が欠けている。


 「魔術が世界記憶(アカシック・レコード)にアクセスして、この世界の条理を捻じ曲げて発現させる技術ってのは知ってる?」

 「それは知ってるけど、俺たちにはさほど関係ない話でしょ」

 「それって、魔術研究に必要な知識で実戦には不必要なんじゃない?」


 そんなわけあるかい。

 ファーティマは思わず頭を押さえてしまった。


 クリスのように純粋無垢で何一つ魔術に対する知識がない人間に教えるよりも、このようによく分からない認識を抱いている人間に教える方が余計に面倒だ。


 「というかさ、聞くんだけど……世界記憶(アカシック・レコード)にアクセスせずにどうやって魔術を使うのよ」

 「どうやって、って……覚えた魔術式を作動させるだけだろ?」


 そう言って男性魔術師は空に手を上げて、呪文を唱える。


 「火球の術」


 すると魔術式が作動して、火の玉が空に撃ちあがった。


 「もう一回やってみてくれない?」

 「え? 分かったけど……」


 男性はもう一度、「火球の術」と唱えて魔術を作動させる。

 

 「……一応聞くんだけど、『詠唱法』以外のやり方はできない?」

 「習ったこと無いから、分からん。やれる奴がいるのは知っているが……」

 「なるほど、なるほど……うん、効率的と言えば効率的だね」


 魔術式は世界記憶(アカシック・レコード)にアクセスし、それを書き換えるために必要な鍵のようなものだ。

 この世界に全く同一の現象が絶対に存在しないように、魔術式も同じモノは一つとして存在しない。

 

 直系十センチの火の玉を作り出すのに必要な魔術式と、十メートルの火の玉を作り出すのに必要な魔術式は違う。

 だからその都度、組み立てて使用するのが一般的だ。


 とはいえ、これは少々面倒くさい。

 そのため『詠唱法』というやり方が用意されている。


 というか、何を隠そう発明したのはファーティマなのだが。


 詠唱、というか口ではなく動作でも良いのだが、何らかの肉体的な動きを鍵にして固定された魔術式を作動させる技術だ。

 ファーティマがお化けサソリと戦った時に「身体能力、強化」と叫んだのは簡易的な身体能力強化魔術を作動させるためであり、またオーク討伐の時に地面を蹴って魔術を作動させたのも詠唱法の一つと言える。


 これの便利なところは魔術式構築の手間が省けるところであり、不便なところは予め指定した魔術しか使えないところだ。

 つまり十センチの火の玉を生み出す魔術式に、どんなに魔力を注いでもそれは所詮十センチの火の玉を生み出す魔術式でしかないので、十センチ以上の大きさにはならないし、逆に十センチ以下にもならないということだ。


 また複雑な魔術は詠唱法では扱えない。

 オークとの戦いの時、ファーティマは土で作った大蛇でオークを倒したが、あれは土くれで大蛇を作るところまでで、操るところは詠唱法ではなく、その場で組み上げた魔術だ。


 ファーティマも相手が弱い時は詠唱法を利用するが、強い相手の時は使わない。

 通用しないからである。

 

 まあ、気分で口に出すことはあるが、それは所詮気分だ。


 ちなみにファーティマが意気揚々とこの『詠唱法』を発表した時は、散々叩かれた。

 一応、半神半人だったので「バカじゃねえの」「こんなのは魔術を衰退させる」「ゆとり乙」みたいなことを直接言われることはなかったが、オブラートに包んで言われた。

  

 冥界の王である大叔父に慰めて貰おうと冥界へ行ったところ、「仕事の邪魔だから帰れ」と追い出されたのは、あまり良い思い出ではない。


 その後自分を非難した魔術師を全員殺して、仕事を増やしてやろうかと内心で思ってしまったが、さすがにそれをやると神としてはともかく人間としてはダメな気がするので、やめた。

 

 仕方がないので自分を強姦しようと襲い掛かって来た軍神である叔父をタコ殴りにした上で冥界まで叩き落とすことで、ストレス発散したことは良い思い出だ。

 むしゃくしゃしてやった、反省していない。


 まああまり良い思い出の無い『詠唱法』であるが、ファーティマとしては中々良い発明だと思っている。

 これの良いところは素人に毛が生えたレベルの三流以下魔術師でも、それなりの魔術が使えるという点だ。

 師匠が作った魔術式と詠唱を暗記してしまえば良いのだ。


 即席の三流以下魔術師を量産する上では、かなり効率の良い方法だ。

 まあだからこそ叩かれたわけだが。


 おそらく五世紀の破滅(カタストロフ)の時、まともに魔術を教えられる魔術師がいなかった、またはいたとしても余裕がなかったのだろう。

 そこで偉大なる霊長の王(ロード)が発明した『詠唱法』を引っ張り出してきて、「これが魔術だ!!」と教えた、というのが真相ではなかろうか。

 

 もしくは四王国時代、またはその前段階の戦乱時代で魔術師の需要が急増し、「とにかく即席でも良いから魔術師が欲しい」ということになり、粗製濫造された結果魔術が衰退してしまったのか。

 

 前者だったら現代に魔術が生き残っているのはファーティマのおかげであり、後者だったら衰退はファーティマの責任になる。


 「……取り敢えず、魔力炉を作ろう。魔力炉は知ってる?」

 「「知らない」」

 「ですよねー」


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