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第18話 今後の方針を固める真祖

 「がんばれー! がんばれー! 負けるなクリス、ふぁいとだ、ふぁいとだ、おー!!」

 

 ミノタウロスと死闘を繰り広げるクリスに対し、後ろからファーティマが声援を投げかける。

 歌詞はハチャメチャだが、歌そのものは上手いのが実に腹立たしい。


 「ご主人様!!」

 「ふれー、ふれー! どうした、クリス!? 手助け、いる?」

 「五月蠅いから黙っててください!!」

 「……ごめん」


 クリスに怒られて、ファーティマは肩を落とした。

 ファーティマがしょぼくれていると、何とかミノタウロスを単独で倒したクリスが帰って来た。


 「ご、ご主人様……その、すみません。ちょっと気が立ってました」

 「うん、良いんだよ……私が悪かったから……」


 しょんぼりとするファーティマ。

 クリスは困ったように頬を掻いた。


 ファーティマはミノタウロスが生息しているという洞窟を訪れた後、お手本として数体を格闘だけで倒した後に、クリスに対して一人で戦ってみるように促した。

 一応、安全策としてファーティマが軽くボディーに拳を入れて、弱らせた個体だ。


 そしてクリスがミノタウロスと戦っている最中は後ろで応援しながら見守っていたのである。

 邪魔をする他のミノタウロスが来ないように見張りつつ、そしていつでもクリスの救援に駆けつけることができるように。


 「でも、中々良かったね。前と比べてかなり強くなってきているよ。身体能力強化だけじゃなくて、重力操作も動きに入れて良いかもね」


 近接魔術戦闘の極意は強化した身体能力に加えて、重力の操作を入れることにある。

 自分の体を一時的に軽くしたり、一時的に重くしたりするのだ。

 

 ちなみにどんな生物も魔術に対する抵抗を持っているため、相手に掛かる重力を増幅させることは難しいのであまりお勧めできない。

 ファーティマレベルになれば話は異なるが。


 「でも重力操作って、難しくないですか? 体を浮かしたりはできるようになりましたけど、それを戦闘中にやるのは……」

 「まあ確かに身体能力強化と比べると遥かに難しいね」


 身体能力強化は自分の体の内側の操作である。

 そのためコンラートやファーティマたちに絡んできた男のように、魔術をきちんと習っていなくとも、経験だけで使えたりする者は多い。


 だが重力操作は普段、誰も意識しない分難しい。

 物を浮かしたりする程度ならば簡単にできるのだが、自在に緩急をつけるレベルに到達するには修練が必要だ。


 「じゃあ重力操作の実戦使用に関しては私との組手でもう少し上達してからにしようか。何かあったら大変だし、別に焦る必要もないからね」


 要するに最低限身を守れれば良いのだ。

 その点で言えば、人間が相手ならば余程の達人でも無い限り抵抗して逃げられる程度にクリスは成長している。

 

 「あの、ご主人様」

 「うん? どうしたの、クリス」

 「私、もっと強くなりたいんです。だから、その……」


 ファーティマはクリスの頭を撫でる。


 「うん、分かった。じゃあ明日からもう少し練習を厳しくしよう。でもね、焦っちゃダメだよ。それで怪我したら元も子もないからね」


 そう言ってファーティマはクリスを抱きしめる。

 胸に顔を埋めるクリスに対し、ファーティマは優しく言う。


 「大丈夫、何があっても絶対に守ってあげるよ」


 ファーティマは地母神の血を引いている。

 地母神は全ての子供、そして子を育む女性の味方なのだ。


 (うーん、過去に何があったんだろうね? 気になる)


 無論、無遠慮に尋ねるようなことだけはしないが。

 

 「ところで、クリス。まだできそう?」

 「あと一戦くらいなら。体が覚えているうちに掴みたいです」

 「分かった、じゃあ奥に進もう」


 ファーティマとクリスはさらに洞窟の奥へと進んでいく。

 ファーティマの魔術により洞窟内部は明るく照らされているため、移動はスムーズだ。


 但し、影になっているところから敵が飛び出してくる可能性はある。


 「■■■■■■!!」

 「まあ、バレバレだけどね」


 飛び出してきたミノタウロスを拳一発で鎮めるファーティマ。

 さらに同時に斜め後方から飛び出してきたミノタウロスの顔面を後ろ蹴りで蹴り飛ばす。


 「いやぁ、ステーキ食べ放題だね」

 「……本気で食べるおつもりなのですか? 人間と牛のハーフですよ?」

 「それは本物のミノタウロスで、こいつらじゃないでしょ」


 ファーティマは大叔父である海の神から、ミノタウロスの話を聞いたことがある。

 大叔父の話によれば、ミノタウロスは大叔父が人間界に送り込んだ牡牛と人間の女性の獣姦によって誕生したとか。


 何とも気持ちが悪い話である。


 それはさておき、そのミノタウロスさんは人間の英雄に殺されて、お亡くなりになられている。

 この四千年間の間にファーティマの大叔父が山のように牡牛を人間界に送り込んだ可能性は否定できないが、いくら癇癪持ちの大叔父でもそこまではしないと信じたい。


 魔石を持っているところから、ここのミノタウロスは全て紛い物であるとファーティマは考えていた。

 まあ紛い物じゃなくてもミノタウロスを食べることに抵抗はないのだが。


 ファーティマは食人種吸血族の真祖。

 人間を食べることに関して、実はさほど抵抗はない。


 好き好んで食べるというわけでもないが。


 「あの、ご主人様って……実は本当に霊長の王(ロード)ファーティマ様なのですか?」

 「最初っからそう言ってるじゃん」

 「……」


 クリスは唖然とした表情を浮かべる。

 これにはファーティマも苦笑いを浮かべるしかない。


 「で、では本当にあの有名な半神半人の英雄とあの有名な女神との娘さんなのですか?」

 「そうだよ」


 ファーティマはミノタウロスの体から魔石を取り出しながら答える。

 クリスはまじまじとファーティマを見つめる。


 「……案外神様って人間と同じ容姿なんですね」

 「そうでもないよ。私だって、竜に変身しようと思えばできるし。まあそもそも肉の体なんて、所詮魂の器でしかないんだけどね」


 神が殺されても死なない理由の一つに、肉体に囚われていない“生命”だから、というのがある。

 “生物”は物である肉体を失えば死んでしまうが、神は“生命”であるため、多少の無茶ができる。


 無論、塵一つ残さず吹き飛ばされれば、さすがのファーティマも生き残る自身はない。

 ファーティマの大叔父レベルになれば話は異なるが。


 「でも吸血族だったなんて、聞いたことないですよ?」

 「まあ、その辺の都合の悪いことは抹消されたんじゃない? もしくは神話が正しく伝わっていないか。神話を語り継いでたのは私たちじゃなくて、人間の詩人だからね。人間社会に何らかの異変があれば、口伝として伝わった神話の一部が喪失し、神代文字は誰も読めないせいで殆ど概要が分からない……ってことはあり得るでしょ」


 ファーティマ自身も、自分の世代より昔の話は断片的にしか知らない。

 神は不老不死なので、自ら記録を残そうとしないし、基本的に聞かれない限りは答えない。


 聞けば祖父も大叔父も自慢気に武勇伝(昔のヤンチャ)を語ってくれるだろうが、数万年を生きた爺共の昔話など、どれほど長いか想像もしたくない。


 さらに奥へと進むと、石の棍棒を持ったミノタウロスが姿を現した。

 石の棍棒を持っている以外は他の個体と大差ない。

 

 「よし、次はこれにしよう。クリス」


 ファーティマは一気にミノタウロスの懐に潜り込み、溝内に拳を叩き込んだ。

 ミノタウロスは内臓の構造が一緒の上、人間よりも巨体で的が大きいので非常にやり易い。


 その後距離を取り、クリスの背中を押す。


 「よし、行って」

 「は、はい!」


 クリスは剣を片手にミノタウロスに挑む。

 石の棍棒を交わしながら、ミノタウロスの隙を伺うクリス。


 そして……


 「えいやぁ!!」


 隙をついて、剣を心臓部に突き刺した。

 ミノタウロスの口から血が溢れる。


 クリスが距離を取るのと同時に音を立ててミノタウロスは倒れた。

 ファーティマは拍手をする。


 「さっきよりもずっと動きが良くなってるね。ミノタウロスの動きは慣れた?」

 「はい、というよりコツを掴んだ感じです。ひたすら相手にダメージを与えるよりも、一撃で致命傷を与えた方が効率が良いですね」

 「よく分かってるじゃん」


 ファーティマは嬉しそうに笑った。

 

 (お父様もこういう気持ちだったのかな?)


 子供である自分たちが強くなるたびに、嬉しそうに笑っていた。

 ファーティマの父はファーティマたちが成人する前に死んでしまった。


 ファーティマたちほどの強い不死性は持っていなかったのだ。

 まあ今ではお星さまになって天で輝いているので、別に寂しいとは思わないのだが。


 「そう言えば私が使ってた武器防具、どこかで回収しないと」


 父や母の形見は無論、、祖父におねだりして貰った剣など、多くの武器がどこかに消えてしまっている。

 どれもこれも神器であり、人間に持たせておくには不安が残る代物だ。


 もっとも人間には使いこなせないので、それはそれで安全なのだが。


 「今回の冒険でかなりお金を稼げるだろうし、しばらくは情報と武具の収集に努めようかな」


 特に祖父に貰った剣、あれを見つけ出さない限り、祖父に顔向けできない。

 

 「いつまでものんびりしているわけにはいかないなぁ」


 ファーティマは溜息を吐いた。

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