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第17話 腕相撲をする真祖

 ファーティマは何とか誤魔化してその場を切り抜けようとするが、男たちに取り囲まれてしまう。

 ファーティマは内心で舌打ちした。

 騒ぎは面倒だ。


 「おい、提案があるんだ。賭けをしねぇか?」


 リーダーの男はファーティマの胸元の金のプレート、Aランクソロ冒険者の証を見ながら言う。


 「軽く試合でもしようぜ。もしあんたらが勝ったら、その依頼は譲ってやる」

 「そもそも私たちが先に取ったんですけど」

 「俺はあんたらを心配して言ってるんだぜ? 先輩冒険者としてな。俺たち含め、多くの冒険者は正直あんたの実力を疑問視している」


 気持ちは分からんでもないとファーティマは思った。

 そりゃあ、ポット出のよく分からない女がAランクソロ冒険者に成れば「本当か?」とも思うし、嫉妬の一つや二つはするだろう。


 正直、こんな申し出を受ける理由は皆無だが……

 一度実力を見せた方が今後、スムーズに事が運ぶかもしれないとファーティマは考えた。


 あまり目立つのは本意ではないのだが。


 「はぁ、まあ良いですけど。ルールは私が決めて良いですか? あなた方の申し出を受けて上げるわけですし」

 「良いぜ、但し……内容によるけどな」


 自信あり気にリーダーの男は言った。

 ファーティマがイカサマか何かでAランク冒険者になったと、心の底から思っているのだろう。

 

 「手早く腕相撲なんか、どうですか? 魔術込みで」

 「おいおい、本当に良いのか?」


 男たちはゲラゲラを笑う。

 身体能力強化の魔術は元の肉体を強化する魔術なので、実は元の肉体が強靭であればあるほど、効率が上がる。

 だからファーティマはクリスに対し、魔術の訓練だけではなく筋トレも課していた。


 「良いですよ。早くやりましょう、時間は有限です」

 「……随分と舐めてくれるじゃねえか」


 誰かが台を持ってきて、ファーティマとリーダーの男は手を握り合い、肘を台につける。

 騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まり、まるで何かの見世物のようになる。


 「では……始め!」

 

 それを合図にリーダーの男はファーティマを一撃で捻じ伏せようと、手に力を込めた。

 しかしファーティマの腕はピクリとも動かない。

 顔を真っ赤にさせているリーダーの男を、ファーティマは冷めた目で見る。


 (人間がそもそも適うわけないじゃん。まあ確かに世の中には神殺し、竜殺しの英雄はいるけどさ。お父様みたいに)


 ファーティマは身体能力強化を使わずとも、遥かに人間よりも身体能力で優っている。

 事実、現在ファーティマは一切の魔術を使用していない。

 リーダーの男が雑だがそれなりに強力な身体能力強化を使用しているのにも関わらずだ。


 無論、ファーティマの細腕にそれだけの筋力が宿るというのは生物学的におかしい。

 だが事実としてファーティマは産まれながらにしてそれだけの筋力を持つ。

 それは神としての権能であり、魔術に依らない能力だ。

 ファーティマの持つ『魅了』や『神眼』も同様である。


 神は人間よりもある程度、世界記憶(アカシック・レコード)の拘束から自由な存在であり……

 世界記憶(アカシック・レコード)より例外的な扱いを受けている。


 無論、世界記憶(アカシック・レコード)から『神は例外』と記されている段階で支配を受けているのは事実なのだが。

 

 そのような例外的な扱いを受けている理由にはいくつかあるのだが……

 それは後の機会としよう。


 大事なのは今、目の前の腕相撲だ。


 「もう、終わりですか?」

 「は、はぁ? どうした、降参か?」

 「はぁ……」


 強がりを言う人間に対し同情を抱きつつ……

 ファーティマは一気に腕を倒した。


 勢い余って腕が台にめり込み、リーダーの男は空中で回転して投げ出された。


 沈黙が辺りを包み……

 しばらくして誰かが拍手をした。


 それに釣られるように拍手喝采と賞賛の声がファーティマに送られる。


 「すげぇじゃねぇか、嬢ちゃん!!」

 「やるねぇ!」

 「俺はあんたが本物だと最初から信じていたぜ!!」

 (調子良いなぁ)


 ファーティマは苦笑いを浮かべた。

 本当はファーティマが男に捻じ伏せられる様子を楽しみにしていたくせに。


 とはいえ、人間のそういうところは決してファーティマは嫌いではないのだが。

 それに褒められて悪い気はしない。


 「ま、待て……どういうイカサマだ! 身体能力強化の魔術も使わずに!!」


 リーダーの男は叫んだ。

 その言葉を聞き、ファーティマは思わず感心してしまう。

 相手が魔術を使用しているのかが分かる、というのはそれなりの技術を持っている証拠だ。


 専門の魔術師ではないのであれば余計に。


 「まあイカサマと言えばイカサマだけど、大切なのはそこじゃなくない?」

 「ぐぬぅ……」


 神は世界の摂理に対してある程度自由。

 摂理に縛られている人間からすれば確かにそれはイカサマだろう。

 故にファーティマは摂理に縛られている人間を相手にする時は、出来る限り神としての権能を使用しないようにしている。

 それは神としての立場も持つファーティマの矜持だ。

 今回は少し腹が立ったので別だが。


 とはいえそれはそれとして、大切なのはどのようなトリックを使ったにせよ、腕力では優ったという事実である。


 「ま、待て……まだそこのメイドの実力を図ってない!」

 「わ、私ですか?」


 クリスは困惑の表情を浮かべた。

 なるほど、確かにクリスの実力を図るとは約束していないが、図らないとも約束していない。


 「まあ、良いんじゃない? 腕相撲でしょ。やっちゃえ、クリス!」

 「し、しかし……」

 「行ける、行ける!」


 ファーティマはクリスの背中を押した。

 すると気を利かせた誰かが、壊れた台の代わりの台を持ってきた。


 リーダーの男は疲弊しているため、男性冒険者たちも選手交代をする。

 その相手はリーダーの男よりも遥かに大柄な男性だった。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「まあ負けても死なないし。それにクリスの身体能力強化なら大丈夫だよ、多分」


 ファーティマはクリスに毎晩、人体の構造や細胞についての講義、そして効率の良い魔術の使用方法を教えているし、クリスも自主トレーニングを行っている。

 身体能力強化の魔術は確かに元の肉体の能力が高ければ高いほど効果が高まるが、それは魔術の技量が同じの場合だ。


 クリスは緊張した面持ちで男性と手を組んだ。

 

 「始め!!」


 それを合図に両者は手に力を込めた。

 意外にもその実力はほぼ互角で、両者の腕はどちらか一方に傾くことなく、拮抗した。


 これには野次馬たちも大盛り上がりで、声援を双方に投げかける。


 「メイドの嬢ちゃんもやるじゃねえか、やっちまえ!」

 「おいおい、女に負けたら男の恥だぞ!!」

 「俺はメイドの嬢ちゃんが勝つ方に金貨一枚賭けるわ」

 「じゃあ俺は男の方に一枚」


 勝手に賭け事まで始まる始末。

 もはや本来の趣旨から離れ、ただのお祭り騒ぎとなっていた。


 数分の間、拮抗していたが……

 男の体力が切れたところで、戦況は一気にクリス有利に傾いた。


 勝者はクリスだった。


 「はぁ、はぁ……やりました、ご主人様」

 「よし、良くやった。褒めてつかわそう」

 

 ファーティマは汗だくのクリスの頭を撫でた。 

 主人に恥を掻かせるわけにはいかないと、頑張ったのだ。

 その頑張りは褒めてやらなければいけない。


 「文句、無いよね?」


 ファーティマは男性冒険者たちにそう言った。

 リーダーの男は悔しそうな表情を浮かべて、頷いた。


 こうしてファーティマは意気揚々とミノタウロスの討伐依頼書を受付まで持っていくのであった。


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